いままで死んだ回数

 目玉焼きをつくるときに黄身がつぶれた。こんな簡単なこともできない。母親失格だ。出来損ないの母親がつくった出来損ないの目玉焼きを皿にうつしかえる。それと牛乳とロールパンを子どもに与えてから、あたしはキッチンに引き返した。

 換気扇がうるさい。ひもを引いた。まだにおいが残っている。油でよごれた平べったい金属のかたまりには焦げた卵白がこびりついている。

 ため息。もうだめだ。衝動的にフライパンの取っ手をにぎりしめる。あたしは手首のスナップをきかせて自分の頭をフライパンで何度もぶん殴った。あたしは死んだ。これで三十七万八千八百八十八回目。

「おかあさん、牛乳なくなった!」

 近ごろは苦手な子も多いのに。うれしくなって、あたしは床から起き上がった。冷蔵庫をあけて、子どものために支度をはじめる。

 いままで死んだ回数は数えなくてもわかる。378888。はじめて自覚したのは十四歳の誕生日だった。ママが自殺した日だからよく覚えている。

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