ひと知れず死ぬ技術

 いったん死ぬとスッキリする。気分が前向きになる。あたしにとって死ぬことがストレス解消だけど、まわりの他の人はそうじゃない。いちど死んでしまったら再び生きることはできなからだ。

 普通は、死んでしまったら死体になる。死体は死んだあとに立ち上がったりしない。死ぬところを見られてしまって、その直後におもむろに生き返ってしまったら……きっと驚かせてしまうだろう。ネットニュースになりかねない。GIGAZINEやねとらぼが記事にしたら、あっというまにTwitter経由で拡散する。それは困る。

 だから、あたしは自殺したところを目撃されないように細心の注意を払っている。首を吊るときは専用の首吊り部屋でやる。失禁の後始末を考えて専用部屋で結構するのだけど、縊死は何十回も繰り返すと肛門括約筋をしめたまま死ぬことができるようになるから人体って不思議だ。

 ご法度は「轢死」だ。踏切や駅のプラットホームに進入する電車にむかって飛び込むのはダメだ。目撃者が多すぎるのはもちろんのこと損害賠償がおそろしい。

 死にたい気分はいきなりやってくる。学校の授業で答えを間違えたときなどは抑えがたい希死念慮に襲われる。いつもペンケースに潜ませているオルファ製のカッターナイフで頸動脈をざっくりやってスッキリしたいところだけど、そうはいかんざき。

 衆人環視のなかで人知れず死にたい時は? あたしは舌を噛み切ることにしている。溢れ出る血液でむせないように気をつけながら、そっと窒息死して……すぐに生き返る。まるで熟睡したあとのように晴れやかな気分で休み時間のチャイムを待つことができるようになる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る