第10話 364年目、黄色いボタンの謎
赤のボタンはトイレ、青いボタンは風呂、そして黄色いボタンは……。
「……未だに謎だ」
未だに謎というか、俺は364年間この黄色いボタンを押していない。
だってよ、押したら何が開くのか、何が起こるのか解らないだろ!?怖い思いしてまで押したくねーし、だから押してない、押していないんだが……。
ごくりと唾を飲み込み、俺は黄色いボタンの前へ歩き出し、指先を伸ばして……。
「くっ、…はぁ、は、っ…くうっ!で、出来ねェッ!」
そして押すのを断念する。
この数日、後一年で刑期を終える俺は黄色いボタンを押すか押さないかの繰り返しを行っていた。
此処まで来たら押さないと言う選択肢はある、だがやっぱり最後だし押してみたら?な俺もいる。そう、もうすぐちょっと愛着出ちまった独房を出る事になるのなら、謎の侭の黄色いボタンを押すべきなのではないかと!
「基本、小心者だからね、俺。見た目と中身のギャップすげーから。見た目なら押してそうな顔してるけど」
にしても、本当にこの黄色いボタンは何だ?看守さんに聞いたりしてみたが、364年どの看守さんも知らないって言ってるんだよなァ。ますます押しづらいわ!と思わず突っ込んだ、誰も居ねーけど。
「今日は取り敢えず、押せなかったっつう訳で、風呂にでも入るか」
黄色いボタンの上にある、青いボタンへと指先を伸ばす。毎度思うが、この独房は過ごしやすいと思うね、風呂とトイレ付の部屋
みたいなもんだし。まァ、暖房と洗濯機と替えの服とかはねーが。と言っても、伊達に364年過ごしてはいねェ、生活の知恵がつく。
風呂がある、お湯がある、湯気で風呂場は密閉され暖かい。冬場は風呂場違で過ごす事もしばしば、夏は水風呂でひんやり。
風呂がある、水もお湯もある、服を洗うのも可能、全裸で一日くらい過ごせるしね、誰も入って来ねーし。
と、まあ、割りと小綺麗な俺だと思う訳だ、外に出て臭いと言われない…と思いたい。
なんていつもは考えない事を考えた俺の手元、指先がブレる。あ、っと思ったのもつかぬま、あれほど黄色いボタンを押すか押さないかの押し問答をあっさり、押してしまった。何がって、黄色いボタンをだよ!
「ちょ、えっ!?ま、ちょ……あれ?え?まさか、え?」
黄色いボタンを押し途端、独房中がパッと明るくなった。そう、あ、か、る、く、なった!
もう一度、黄色いボタンを押すといつもと変わらずの暗い独房。再度押すと明るくなる。
「……電気点けるボタンかよ!」
黄色いボタンを押し、俺は独房の中を明るくした。
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