第9話 364年目、俺の妄想的な本

先が思いやられる俺の本(生きる為の)


飯を食って、腹拵えも終えていざ考えるが登場人物が未だに俺しかいない事実。妄想だろうと、俺の事実を多少入れようと考えた結果、片手ぐらいでしか居ない俺の知り合い、知人、友人、幼馴染に妹。


俺の365年の軌跡、必要なのは神宮司だ。と言っても最初の方しか出ないだろうが。知り合った経緯や独房にぶちこまれた経緯は必要な為の登場人物だな。


登場人物欄に神宮司絢諭と記し、横に補足を書こうとするが、浮かぶのは王子様の三文字のみ。何だよ、王子様って、や、確かに王子だったが。そーいや、無事に王に慣れたのかね、神宮司。


数十年前、良くしてくれた看守さんに外が今、どんな状況なのか教えてくれた事がある。現在から過去の事を、だけれど、その時には神宮司絢諭っつう王様は解らないって言われたんだよなァ、俺が捕まって何百年経ってたし、だからか?なんて思ったりはしたが。


次の登場人物は、俺の妹である水無月美月。こうやって紙に名前を書くと見辛いな、美月。美月は特に変わらずの、ゆるふわ愛されちゃんとしておこう。


兄として美月は本当に何処へ嫁に出しても良いくらい性格も見た目も完璧だと思ってはいる。こんなねくらでネガティブ兄の俺とは大違いだ。周りで盗み聞いた妹を持つ兄の心境では、仲が良くないと聞いたりしたが、俺と美月は仲が良かった方だと思う。


だからこそ、俺が捕まっちまった時に美月はどうなっちまったのか、気になってる。あれだけ性格も見目も良いなら幸せな結婚してくれりゃあ良いなァ、なんて妹の幸せを思うと頬が緩んだ。


美月の次は……、俺にも友達は居る、唯一のっつう奴を一人作ろう。思い浮かぶのは俺の幼馴染。


名前は相楽健次(さがらけんじ)、トレードマークは銀縁眼鏡、ちょっと茶色が入った色の髪、見た目真面目くんである、と思い出してみる。364年前の事だし思い出しづらいのは愛嬌だと思ってくれ。確か、頭も良いし普通に女子にモテたんじゃなかったか?神宮司と並ぶと霞んじまう認識もあるが。


補足として、真面目な見た目に騙されるな、と書いておく。や、ほんと、真面目に見えるが健次は不真面目、つうか教師受けが良いと言うかあれは世渡り上手だったな。


さて次は……、と考えて我に変える。


……もう、俺の知り合いがいない事実に!


「俺を入れて、登場人物が三人だ、と」


余りの事に呆然とし、鉛筆を握る手を強める、しかし折れる事はない。


登場人物三人で俺の本は成り立つのか?いや、まだ一人居るっ…俺を痛め付ける役が!名前も決まってないけど。


「………、やーめた、本とかムリムリ。本って頭の良い奴が書くもんだ、俺にはムリムリ」


登場人物と書いた紙を丸め、俺はドアに向かって投げ付けた。よし、職についてはまだ先だと思えば良い、最初はバイトで食い繋ぐ。


妙なポジティブさが生まれた瞬間だった。


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