第24話 進路
その後、町の人間、数人と話をしたが、とりあえず、正体を疑われるようなことはなかった。
一部のものは、俺らの話に対して、納得していないような表情を浮かべたが、それは、パーティの構成メンバーが意外すぎて、理解が追いつかなかっただけのように思える。そして、意識がそちらに向いてしまうため、俺らが、実は魔物かもしれない、などという方向に、疑いを持つ余裕がないのだ。
そういう意味では、アキナの作ったこの設定は、非常に有用であると言える。アキナが、そこまで計算していたのかは分からないが。
しかし、油断は禁物である。俺が、1人でストラリアに潜入したときも、多くの人間は、俺のことを疑わなかったからだ。俺のことを、即座に、魔物だと見抜いたのは、クレナイ、ただ1人。
もしかしたら、他の人間達も、疑ってはいたが、それを表に出さなかっただけなのだろうか。
考え出したらきりがないが、ひとまず、今回の変身は上手くいったと判断しよう。
ここ、サイハテは、だだっ広い雪原の中に、ぽつんと存在する小さな町だ。人口も少なく、栄えてるとは言えない。
まあ、魔王城の近くで、人間の町に、そんなに栄えられても困るが。
町の中も、地面は雪に
その数軒の中のひとつの、武器屋に入ってみた。
「いらっしゃい」
恰幅のいいおやじが言った。
俺は、店内の内壁にかけられた、さまざまな武器、防具に目を奪われる。さすがに、魔王城の最寄りの町だけあって、強力そうな武器、防具が並んでいる。
こういったものを見ると心が踊ってしまう。子どもの頃から、
しかし、悲しいことに、今は人間に変身している身なので、武器や防具を身に着けることができない。身に着けているふうに、変身することができるのだろうが、それはまた、何か違う気がする。
月光の
格好いい。
価格は、3万ゴールド。
俺は、この世界の相場が分からないが、おそらく、いい値段なのだろう。まあ、それ以前に、俺は、1ゴールドたりとも持っていないので、何も買うことはできないのだが。
「うちは、いいのを揃えてるよ」
「そうみたいですね」
「この先は、もう魔王城だぜ。あんた達の装備じゃ、とても進めねえ。というか、あんた達、そんな装備で、よくここまで来たな」
町の人間から、そう言われることは覚悟していた。俺らは、ミキモト達と同様、腰に木の棒、
これは、アキナの判断によるものだ。
弱い魔物を引き上げさせた作戦が、奏功していれば、多くの勇者は、まともにゴールドを稼ぐこともできず、ろくな装備を付けていないはずであり、下手に、いい装備を着けていると、かえって目立つのではないか、ということだ。
そして、以前に俺と戦った、ああああ や いいいい といった勇者達も、そこまでひどくなかったとはいえ、似たような装備だったので、初期装備で、サイハテまでやってくるのも、不可能ではないだろう、という考えもあった。
「いやあ、魔物から逃げて逃げて、命からがら、ここにたどり着いたんですよ」
俺は、情けない笑顔を演出しながら言った。
「へえ。じゃあ、あんまりゴールドは持ってねえのか? うちの装備は、ちと値が張るぜ」
やはり、いい値段なのだな。
ここで、1ゴールドも持っていない、と言うべきではないだろう。
「すみません。ちょっと、手が出せないですね」
おやじは、舌打ちをする。
「ったく、たんまり稼いでから、また来てくれよ。まだ、うちの装備、ひとっつも売れてねえんだ」
これは朗報だ。俺を倒せるような勇者は、まだ育ってないということだろう。
ここで俺は、長年の疑問であった、禁断の質問をしてしまう。
「装備品は、おやじさんが、自分で仕入れてるんですか?」
後半の町に行くほど、店で売っている装備品が、高価で強力になっていくのは、RPG のお約束だ。しかし、それらの装備品は、どこで作られ、どのように輸送されているのか。なぜ、強力な武器を、もっと早い段階で売らないのか。
もっと言えば、本当に魔王を倒してほしいなら、値が張る、などと言っていないで、強力な装備を、無料で、勇者達にどんどん渡すべきではないのか。
この世界において、そのへんのことを上手く説明してくれる設定があるのかが気になったのだ。
「ああ? どういう意味だ」
「いや、こんな雪原のど真ん中で、どうやって、こんな強力な装備を揃えてるのかなって、不思議に思ったので」
「……」
おやじの目が鋭くなる。
「あんまり、くだらねえこと気にしないほうがいいぜ。あんた達は、魔王を倒すことに集中してくれ」
都合の悪いところを突かれたのか、おやじは少し不機嫌になったようだ。設定がないのか、言いたくない何かがあるのかは分からないが。
あまりしつこく聞いて、正体を疑われても困るので、この質問はここまでにしておこう。
なんだか気まずくなったので、武器屋を出て、町の人達との話を続ける。
見える範囲の人間、全員に話を聞いたが、どうやら、この町では、町の人間が魔物に襲われたという話はないようだった。
確証があるわけではないが、一安心といったところだ。
俺達は、サイハテの町を出て、再び飛行し、次の町を目指した。勇者が、普通に旅をすればたどるであろう順路の、逆を行ってみることにする。
いくつかの町や村を回り、人々から話を聞いた。その中で分かったのは、この辺に、勇者が来たことは、まだ、ほとんどなく、来たことがあるのは、ほんの数パーティで、その全員が、貧弱な装備の、低レベルパーティであったらしい。
もっとも、勇者達のレベルは、町の人間からは目視できないので、なんとなくの印象でしかないようだ。
そして、その低レベルパーティには、俺らも含まれていることを考えると、手放しで信用できる情報ではないかもしれないが、一応、いい情報として受け取っておくことにした。
移動のために飛んでいる最中、ふと、視線を横にやると、海の向こうに、今俺が居る大陸とは、別の大陸と思われる陸地があり、その海沿いに、大きな港町があるのが見えた。
俺は、なんとなく、その町が気になった。
「ちょっと、あの町に行ってみようか」
「あれ、順路の逆をいくんじゃなかったの?」
パインが言った。
「あれは、チョーシの町ね」
「この世界で一番大きい港町じゃよ」
「へー、おばあちゃんは物知りだね」
「だてに、長く生きとらんわい。ふぉふぉふぉ」
あまりの役者っぷりに、彼女らが、ブラックデーモンであることを忘れてしまいそうになる。ブラックデーモン達は、どんな心境で、この芝居をしているのだろうか。案外、楽しんでくれているのなら、いいのだが。
「じゃあ、あの町に行ってみよう。なんだか楽しそうだし」
俺らは、飛行ルートを変えた。
町の真上を飛ぶのは避け、少し外れたコースを行き、近くの林に降り立ってから、歩いてチョーシを目指した。
先ほど、空から見たときにも大きく見えたが、歩いて近づくほどに、チョーシの町の巨大さに圧倒される。
幅、数キロに及ぼうかという、赤レンガの防壁が、町の陸側を囲っており、その数カ所に、鉄の門が設けられている。
一番近くの門まで歩いていくと、内側に居た兵士が、門を開けてくれた。
「ようこそ、チョーシの町へ! と言いたいところだが、悪いことは言わない。町には、入らないほうがいい」
真剣な顔をして、兵士が言った。
「何か、あったんですか?」
「この町では、今、勇者達が殺し合いをしてるんだ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます