第23話 設定
アキナ監修のもと、ブラックデーモン達の設定作りが完了した。俺の、必死の奮闘により、3人とも女性という点と、名前、髪型は、かろうじて生かしてもらうことができた。
当初の設定とは、だいぶ異なるが、やむをえまい。俺も、この世界の住人ではないので、この世界のリアリティというものが分からないのだ。アキナの意見に頼らざるをえないところがある。
「今回は、魔王城に一番近い町に行ってみたいと思う。近場の町がどうなっているのかを見てみたい」
ザクロ達が
「だけど、俺は、地理が分からない。姉さんは分かる?」
俺は、ブロンドツインテールのパインに問うた。
「あんた、昔っから、本当に計画性ないよねえ。行き先くらい、事前に調べておくもんでしょう」
おお、こいつめ。すっかり、キャラになりきっている。
「はは。ごめんごめん」
「東の山を越えた先に、サイハテっていう町があるよ」
東を指しながら、呆れ顔のパインが言った。
「よし。じゃあ、サイハテに行ってみよう」
俺は、顔だけをアキナのほうへと向けた。
「じゃあ、行ってくる」
「気をつけてね。ちゃんと、帰ってくんのよ」
アキナは、明るく言うと、こちらに背を向けてしまった。
「ああ」
こんな、何気ないやりとりで、少し、力が湧いてくるような気がした。俺は、やはり、魔王である前に人間だということか。
今なら、姫に寝室を与えて、
俺は、ザクロ達のほうへと向き直る。
「出発だ!」
そう言って、俺は、いつものように超空間に入り、玉座の間を出て、まずは、上空を目指して泳いだ。
人間と魔物の共存を目指す。
アキナに言われて、
希望が見えたような気分になっていたが、状況は何も変わっていないのだ。
今のところ、俺は、勇者達の進撃を止めることくらいしか、できることが思い浮かばない。それを続けた先に、光はあるのだろうか。
勇者は、なぜ魔物を殺すのか。魔物が、人間の平和を乱すからか。しかし、魔物は、実際に平和を乱しているのだろうか。それであれば、ストラリアをはじめとする、魔物を引き上げさせた地域は、平和になっているのだろうか。
しばらくの間、上空で考えていたが、いくら待っても、ザクロ達が追ってくる気配がない。
不審に思った俺は、一度、玉座の間まで戻り、超空間を抜けた。
目の前には、ザクロ達と、背を向けたアキナが立っている。
「あれ? どうしてついてこないの?」
ザクロ達は、なんのことだか分からないという顔をしている。
「ついていくもなにも、あんた、そこに立ったまんまじゃない」
「いや、超空間に行ってたんだけど」
「超空間? なにそれ?」
ああ、そうか。
ブラックデーモン達は、超空間に入れないのか。となると、俺単体はともかく、パーティでの移動には、ワープが使えないということだ。
仕方がない。今回は、飛んで移動することにしよう。
ふと、アキナの背中を見て、俺は、今さらながら、アキナに聞きたいことを思い出した。
「アキナ。お前は、どうして魔物達に攻撃されなかったんだ」
以前にも、似たような質問をしたことがあるのだが、そのときは、会話が噛み合わず、ちゃんとした返答を得られなかったのだ。
「どうしてって、言われても、ねえ」
振り向いたアキナも、困惑顔だ。
「あんたが、攻撃しないようにって、命令してくれたんじゃないの?」
「いや、そういう命令を出した覚えもないんだけど」
近くを走り回っていた、ドラキャットが、こちらのほうへ振り返り、近づいてくる。
「命令されなかったからだニャン」
「どういうことだ?」
「ボクらは、命令がない限り、勇者パーティ以外の人間を、そうそう襲ったりしないニャン」
「あれ? そうなのか」
ザクロ達にも、目で問うてみたが、今は人間になりきっているせいか、とぼけた反応をされた。
しかし、これは朗報だ。これが本当であれば、人間と魔物の和解は、そう難しくない気がする。そうなると、やはり、問題は勇者か。
「なんで、勇者と魔物は殺し合うんだ?」
「それは分からないニャン。あいつらは、ボクらを見つけると、すごい顔して切りかかってくるんだニャン。こっちも死にたくないニャン。
最後の情報は要らんが、やはり、勇者と魔物は、
そこへアキナが加わってくる。
「んー、でも、わたしがストラリアに居たとき、町の人間が、魔物に襲われるっていう被害が、何件もあったんだよね。だから、勇者達は、町の平和を守るために戦ってるんだと思ってたんだけど」
「でも、命令はされてないんだよな?」
「ボク達はされてないニャン!」
これは、どういうことだろう。
俺は、一度変身を解き、フルグラの姿へと戻り、その場の魔物達に問うてみた。しかし、ストラリアの人間を襲ったものは居なかった。ウソをつかれているだけかもしれないが。
改めて、勇者パーティ以外の人間には、手を出すなと命じて、俺は、再びフレークの姿へと変身した。
「この子達に命令しても、意味ないんじゃない? この子達、ずっとここに居るんだし」
「だからこそだよ。一応、念のため」
アキナに、もしものことがあったら、困る。そう思ったのだ。
俺の意図が分からなかったのか、アキナは、なんだか納得のいってない顔をしていた。
「しかし、町の人間が被害にあってるのを知っておきながら、こいつらと、ここまで旅してくるとは、いい度胸してるな」
アキナは、得意げに、ふっと笑った。
「まあね」
「じゃあ、改めて、行ってくる」
「うん。気をつけて」
俺は、ザクロ達に言う。
「サイハテの町まで、飛んでいこう」
俺が、玉座の間の扉まで飛んで移動すると、ザクロ達が走って追いかけてくる。
「なんで飛ばないの?」
「いや、わたし達、人間だし。飛べないよ」
パインが答えた。
「いや、飛べるでしょ。あんた達、ブラックデーモンでしょ」
「え!? わたし達、人間だよ!」
真剣な顔で応えるパインに、ため息をつく俺。
「いや、ごめん。たしかに、人間になりきれとは言ったけど、もうちょっと臨機応変に行こう。このままじゃ、話が進まないから」
3人は、目を見合わせる。
「はーい」
3人ともが、間延びした返事をした
扉を開け、通路に出て、俺達4人は上空へと飛び上がった。
「念のため聞くけど、超空間は本当に知らないんだよね?」
超空間のことは、本当に、3人とも知らないようだ。やはり、飛んで移動するしかあるまい。
サイハテは、魔王城の東、人間では登ることのできない、高山の向こう側にあるらしい。
魔王城は、周囲を高山に囲まれており、サイハテから魔王城まで、普通に行こうとした場合、高山に沿って、魔王城の西側まで迂回してから、洞窟を通るしかない。
しかし、空を飛んで最短距離で行けば、あっという間だ。高山を越えると、すぐに、サイハテらしき町が見えてきた。
「直接、町に降りると怪しまれるだろうから、少し離れた場所に下りてから、徒歩で町に入ろう」
「でも、勇者も、移動魔法を使ったときは、空を飛んで移動するんじゃない?」
パインがもっともな意見を述べた。
なるほど。そう言われたら、そうかもしれん。
「でも、一応、安全策を取って、徒歩で入ることにしよう」
「オッケー」
この辺は、雪原地帯になっており、近くに、身を隠せるような場所が見当たらない。仕方がないので、町から少し離れた、適当な場所に降り立ってから町へと向かった。
周囲には、改めて見渡すまでもなく、頭が3つある巨大なイヌやら、頭が5つあるドラゴンやら、俺が、まだ見たこともない魔物がうようよしていた。
さすが、魔王城の最寄りの町だ。
周囲の魔物達が、俺らを襲ってくる気配はない。それはおそらく、俺らが本物の勇者パーティでないことが分かっているからだろう。
「周りの魔物から見て、俺が、魔王だってことは分かるのか?」
ザクロとベリーには、いまいち話しかけづらく、どうしても、自然とパインに聞いてしまう。
「見ただけじゃ分からないと思う。でも、あんたが自分の口で名乗れば、それで伝わるはず。わたしにも、上手く言えないけど、感覚的にそんな感じ」
なるほど。襲われはしないが、名乗らなければ、魔王だとはバレない。人間のふりをして、隠密行動をするのであれば、そちらのほうが都合がいいか。
雪原をうろつく巨大な魔物達をかいくぐり、無事に、サイハテの入り口まで来ることができた。
入り口のすぐ近くにいた、おっさんに話しかけてみることにする。
「こんにちは」
「こんなところまで、よくきたな。ここはサイハテの町だ!」
そう言ったおっさんは、早速、好奇の目を向けてきた。
おいおい。若干、不審がられてる気がするぞ。アキナ。このパーティ、リアリティないんじゃないのか。
ここで文句を言っても仕方がないので、先手を打って、説明することにしよう。
「実は、俺の父が行方不明になってしまって、家族で、父を探す旅をしてるんです。あ、俺は勇者フレークといいます」
パーティメンバーが俺に続く。
「フレークの姉、パインです。私にとっても、大切な父なので、フレークが、父探しの旅に出るって言い出したときに、一緒に行こうって決めて、慌てて魔法使いになったんです」
「母のベリーです。いつものように、仕事に出かけた夫が戻らず、それとほぼ同時に魔物が出現し始めたので、何かあったに違いないと思い、子どもたちと話し合って、旅立つことにしました。子どもたちを助けられるよう、僧侶になりました」
「フレークの祖母、ザクロじゃ。まあ、居なくなったのは、あたしにとっちゃ義理の息子だがね、孫達にとっちゃ大事な父親じゃ。この老いぼれが、最後にひと花咲かせようと思っての。老骨に鞭打って、やってきたんじゃよ」
ザクロは、若干、苦しそうにヒューヒューと呼吸音を鳴らしながら言った。
「お、おばあさんが、戦士なんだな」
おっさんは、
「そうよ。まだまだ、若いものには負けんわい」
ザクロはニヤリと笑い、腰に差した棒を素早く抜いて、おっさんのほうへ突き出しながら言った。
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