第15話 水曜日から始まる2人


「205号室ちゅうたらここでんな?」

「ええ、ありがとう。那智さん」

「そないな、那智さんやのうて誠とか皐月っちみたいにまこっちゃんって呼んでくださいや」

「だってさ」

「ふふふ、じゃあ誠くんって呼ばせてもらうわね」

「笑ろた顔も別嬪さんやなぁ〜」

「ふふっありがとう、じゃあ私も片付けがあるから・・・」

「あ、せやな。ほな俺らは戻りますよって」

「俺ら?」

 まこっちゃんが僕もひとくくりにして一緒に戻りかける。

「何や?皐月っちは僕のいっこ隣やろ?201号室ちゃうんか?」

「うん?いっこ隣だからここが僕の部屋だよ」


 僕は鈴羽が顔を出している玄関を指差す。


「いやいや、何言うてるん?ここはこの別嬪さんの部屋やろ?なあ?」

「ええ、今日からここが私の部屋で皐月君の部屋よ」

「なあ?ほら別嬪さんもそう言うてはる・・・やん?」

 僕と鈴羽を交互に見て首をかしげる。

「皐月っちのお姉さん?」

「違うよ」

「皐月っちのお母さん?」

「違うから」

「・・・皐月っちのお兄さん?」

「そんなわけないじゃんか」

 まこっちゃんはもしかしてと言う顔で恐る恐る尋ねる。


「もしかして別嬪さんは皐月っちの・・・」

「はい、皐月君の彼女で九条鈴羽と申します」


 あ、固まった。


「お〜い、まこっちゃん〜?」

 そんな固まるようなことかな?

「ああ、えべっさんが呼んではるわ〜」

「誠くん?」

「はいっ!何でっしゃろ?」

 現金な人だなぁ、まこっちゃん。


 結局、この後まこっちゃんの部屋で引越しそばを食べながら僕と鈴羽のことを話した。

 それをまこっちゃんはハンカチを噛んで聞いていた。

 どこの芸人だよ・・・


「いやぁしかしこんな別嬪さんの彼女さんがおって羨ましい限りでんなぁ。僕も大学行ったらはよ彼女作ろ」

「まこっちゃんはどこの大学なの?僕は大藤大だけど」

「え?皐月っち大藤大なん?僕もやで」

「そうなの?何学部?僕は経済学部だけど」

「ああ〜学部はちゃうねんな、僕は法学部やねん」

「まこっちゃん法学部なんだ、賢いんだね」

「大藤大の法学部ってかなりの難関よね?誠くんすごいのね」

 まこっちゃんは鈴羽にそう言われて、いやぁそれほどでもありますねんと照れている。


「僕は親も兄貴も弁護士ですねん。僕は二浪してやっとですねん、あんまり期待されてへん気ままな次男ですわ」

 そう言うまこっちゃんは少し寂しそうに笑った。



「じゃあまたね」

「今日はおおきにな〜」

「ありがとうね、誠くん」

「は、はい!」

 ふふっと笑う鈴羽と僕はまこっちゃんの部屋を出て自分の部屋に戻る。


「ふぅやっと一息つけるね」

「ふふっ楽しい人だったわね」

「ホント、僕も今日初めて会ったばかりだからね」

「え??前からの友達じゃないの?」

「ううん、全然」

 鈴羽とリビングのソファーに並んで座りまこっちゃんとの出会いを話して聞かせる。


「あはは、何それ?」

「でしょ?僕もなんだか前から知り合いだったみたいな気になったよ」

「うふふ、でも同じ大学で楽しい友達が出来て良かったじゃない」

「まぁそうだね」

 少しゆっくりしてから鈴羽の荷物を片付ける。

 結構前から僕の家にいるのでそれ程荷物もなく時間もかからずに片付け終わった。


「えへへへ〜〜」

「ん?どうしたの?」

「うう〜ん、すぅきぃ〜」

 鈴羽が思いっきり甘えた声で抱きついてくるので僕もしっかりと抱きとめる。

「うふふっちゅっ」

 甘い声と甘いキスと、鈴羽の華奢だけど膨よかな感触を感じる。


「今日からはずっと一緒なんだよ〜朝起きるのも夜寝るのも〜」

「うん」

「ご飯食べるのもお風呂入るのもぜんぶぜんぶ〜」

「ふふふ、うん」

 鈴羽が嬉しそうに話すあいだあいだに僕はそっと唇を重ねる。


「ん、んっ、ずっとずっと大好きな人と一緒にいれるんだよ」

「うん」

「もうっ、皐月君。うんしか言わな・・ん、あっ、んんっ」

 途中で鈴羽の話を遮ってその甘く濡れた唇をふさぐ。


「それはね・・・僕も同じだから」

 抱きしめた身体はきつく抱きしめると壊れてしまいそうで・・・

 ソファの上で僕たちはひとつひとつお互いの気持ちを改めて確かめあう。


 それは甘いキスのカタチであったり鈴羽から香る甘い匂いだったり。

 優しく触れる指先であり・・・絡めた指の感触だったり。


 僕たちは時間がたつのも忘れてお互いを求めあった。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る