第9話 金曜日の夜のリビングで
母さんが余計な一言を言ったためにあの後、僕と鈴羽は来客の方々に捕まって大変だった。
夕方になりようやく解放されて今は本宅のリビングで寛いでいる。
リビングいるのは僕と鈴羽に父さん。
「本当母さんのおかげでひどい目にあったよ」
「うふふ、そうね。会長や喜多嶋社長の顔ったら・・・」
「門崎会長さんも随分と絡まれてたもんね」
鈴羽は着物からいつものカジュアルな格好に着替えている。
着物も似合っていたけどやっぱり鈴羽はこういうカジュアルな服装の方がいい。
「それは仕方ないだろうね。他の方々からすれば立花の家と門崎商事の結びつきが強くなると懸念したんだろう」
「そうなの?僕と鈴羽のことだから会社は関係ないんじゃないの?」
「そういう訳にもいかないだろう?門崎会長からすればご自分の秘書と和さんの息子が結婚するわけだからね」
「・・・結婚・・皐月君と結婚・・・」
「ん?どうかしたかな?九条さん」
「ああ、鈴羽は大丈夫だから気にしないで。父さん」
父さんの結婚ってキーワードでフニャフニャになった鈴羽はそっとしておいて。
「いやぁしかし皐月も結婚を考える年になったんだな。親としては感慨深いものがあるね」
「そうかな、まだもうちょっと先になるだろうけど」
「しかしだよ、あの場で和さんが大々的に言ってしまったからには、はい別れました。じゃ済まないからね」
「ははは、それはないよ。父さん。絶対にね、ねぇ?鈴羽」
「え?うん。うん?何が?」
「いや、だからね・・・僕と鈴羽が別れるなんてことないよねって話」
「ええっ!皐月君!私と別れる話してたの〜」
「例えばだよ、例えば」
「例えないでよ・・・ぐすっ」
僕と父さんの話を全く聞いといなかった鈴羽は色々と勘違いしたみたいで涙目になってる。
「鈴羽と別れるなんてことあるはずないだろ、何があったって絶対にないから」
「皐月君・・・」
「鈴羽・・・」
涙目の鈴羽があまりに可愛いくて、つい僕はそっと肩を抱き寄せて鈴羽を見つめる。
ゴホン!
「あ〜そういうのは私のいないところでしてくれないかな?」
「あわわ、す、すみません!お義父様!」
鈴羽が慌てて僕から離れて赤くなってる。
「ごめん、ごめん、父さん。ついね」
「やれやれ、皐月はそういうところが和さんに似ているんだよね」
父さんは穏やかな笑みを浮かべて僕と鈴羽を見てそう言った。
「そういえばまだ2人の馴れ初めを聞いていなかったね、年齢的にも随分と離れているしどこで知り合ったんだい?」
父さんにしては珍しく興味津々といった感じで聞いてくる。
「そんなに大したことじゃないよ。そうだね・・・あれは僕がまだ2年の頃だったかな・・・」
僕は初めて鈴羽を見かけた時のことから、あの雨の日の出来事を父さんに話して聞かせた。
付き合いだしたくだりはちょっと照れくさいから省いたんだけど。
「ははは、それはまた素敵ないい出逢いじゃないか!いいね、実にいいよ。ロマンチックだね〜」
「あまり言わないでよ、鈴羽がダメな感じになってるからさ」
父さんがあまりに嬉しそうに褒めるものだから鈴羽がフニャフニャになって小さくなってる。
僕はそんな鈴羽を撫でてやりながらふと父さんと母さんはどうだったんだろうと思った。
「なら父さんと母さんはどうやって知りあったの?」
「んん?私と和さんかい?」
「うん。母さんに聞いても絶対に教えてくれないだろうし」
「ははは、まぁそうだろうね」
「確か母さんとは同級生なんだよね?父さんは」
「ああ、小学校からのね」
そう言って父さんは昔を懐かしむかのように、そしてとても嬉しそうに話始めた。
「和さんと初めて出会ったのはね、小学校三年生の時だったね。私のクラスにね、和さんが転校してきたんだよ」
「それからずっとご一緒なんですか?」
我に返った鈴羽が父さんに詰め寄る。
「ん?ああ、そうでもないんだ。まぁそれは後にするとして・・・和さんが転校してきた時のことは今でもはっきりと覚えている。なにせ着物を着て学校に来たんだからね」
「小学校の頃から着物だったんだ?」
「そうだね、周りは珍しがって話掛けにいったんだけど、ほら、和さんってあんな感じだろ?あっという間に孤立しちゃってね」
「小さい頃からああいう感じだったんですね・・・お義母様は」
「うん、それでも我が道を行く人だから気にしてなかったみたいだけど、小学校はそんな感じであまり接点はなかったんだ」
父さんはお茶を飲んでから一息ついてまた語りだした。
僕と鈴羽はまるで絵本を読んでもらう子供のように目をキラキラさせて話の続きを待った。
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