第4話 木曜日の僕の実家


 明けて2日の木曜日、僕は鈴羽の運転する車で実家へと向かっていた。

 家に連絡すると迎えをよこすと言われたのだが、丁重にお断りしておいた。


「皐月君の実家かぁ〜楽しみだなぁ〜」

 鈴羽は運転しながらそんなことを言っている。

「そんなに楽しみなものじゃないと思うよ」

「え〜だって彼氏の実家だよ?ご両親に挨拶だよ?」

「あーこないだも言ったけどお正月のうちは多分大変なことになってると思うんだけど・・・」

「そういえばそんなこと言ってたね、車停めれるのかな?」

「そういう大変じゃないんだけど」

 鈴羽は別の意味で心配してるけど僕が気にしているのはそこじゃないわけで。


 まぁ着いてから考えるか。

 どうせ母さんのことだ、僕が何をもってしても軽く斜め上をいくだろうから。


 高速道路を降りてしばらく走り以前に鈴羽も来たことのある駅前の通りに出る。


「皐月君、ここからどう行くの?」

「うん、案内するよ。あの高台の上なんだ」

 僕は駅前からちょうど正面に見える住宅街を指差して答える。

「じゃああの辺りまで行ってみるね」

「よろしく」

 駅前通りを北に向かって走っていくと住宅街に上がっていく広い道にでる。

 この辺りはここ10年くらいで急激に開けた住宅街なので新しい家が整然と建ち並んでいる。

 どことなく鈴羽の実家のあたりによく似ている。

 住宅街をしばらく上がっていくと突き当たりから道が左右に分かれている。


「皐月君、右?左?」

「えっと、そうだなぁ右のほうが近いかな」

 どっちに行っても実家に着くんだけど右側のほうが駐車場に近いかな。


「鈴羽、ちょっと行ったら左側に門があるからそこから入ってね」

「門?あれかしら?」

「うん、あれだね」

 少し先に門があるんだけど何台かの車が順番待ちをしていた。


 ガードマンが近寄ってきたので窓を開ける。

「すみませんが当家にご用でしょうか?」

「長野さん、お久しぶりです」

 ガードマンの長野さんは元警察官で僕も小さい頃からお世話になっていた。

「え?あっ皐月坊ちゃん?これは失礼しました」

「やめてくださいよ、それに坊ちゃんは・・」

「ああ、そうでした。奥様から言われておりましたのに」

「・・・坊ちゃん?皐月坊ちゃん?」

「あ〜鈴羽、後で説明するね。長野さん、入っていいかな?」

「はい、もちろんでございます。連絡しておきますので本家の方にどうぞ」

「ありがとう。じゃあ行こうか、鈴羽」

「う、うん」

 キョトンとした鈴羽を促して門をくぐって中に入る。


「ねぇ皐月君、ここって?」

「うん、僕の実家だね」

「・・・全部?」

「うん、全部」

 裏の通用門から入ったのでちょうど裏庭の外周を走ることになっている。


「えっと、ここはお庭だよね?」

「そうだね、家はまだちょっと走らないと見えないかな」

「・・・皐月君ってお坊っちゃんなのね」

「僕がじゃなくて家が、だよ。まぁ大半は母さんだけどね」

 実際に母さんが宗家を継いでから立花の家は急速に拡大したと父さんが言っていた。

 しばらく走ると本家が見えてくる。

「あっ鈴羽、そっちに止めていいからね」

 本家の駐車スペースに車を止める。


「お疲れさま、鈴羽?」

「ここが皐月君の実家・・・」

「うん、僕の実家」

 車を止めた場所からは本家の母屋が見渡せる。

「とんでもない広さじゃない?」

 う〜ん、そうなのかな?部屋数が多いから何L DKって言っていいかわからないけど子供なら迷子になってもおかしくないくらいはある。

「まぁとりあえず降りようか」

「え、ええ」

 僕と鈴羽が車から降りると本家の方から小さな影が猛然と走ってくるのが見えた。


「おにいちゃ〜〜ん!!おねえちゃ〜〜ん!!」

 今までなら僕に飛びついてきた緋莉は勢いよく鈴羽に飛びついた。

「きゃあっ!緋莉ちゃん?」

「おねえちゃん!明けましておめでとうなの!あっお兄ちゃんも」

「おい、何だよ、その付け足したみたいなのは」


 えへへとニヤける緋莉を撫でてやると嬉しそうに目を細める。


「緋莉ちゃん、久しぶりね。元気だった?」

「うん!元気!元気!」

 鈴羽の手を引いて嬉しさ爆発の緋莉。

「緋莉、父さんと母さんは?」

「お父さんは会社だよ。お母さんは稽古場じゃないかな?朝から会ってないからわかんないの」

「そっか、じゃとりあえず家に入って待ってみるか」

 いつかのように緋莉を間に僕と鈴羽は本家の玄関をくぐった。


「おかえりなさいませ。皐月様」

「ようこそお越しくださいました。九条様」

 玄関を入るとそこにはお手伝いさんや使用人の皆が僕たちを出迎えてくれた。


「ただいま。みんなそんなに畏まらなくていいから戻っていいよ」

「はい、それでは失礼致します」

 皆がそれぞれの作業に戻っていくのを見ていた鈴羽は僕と緋莉を見て呟いた。


「住んでる世界が違うのかしら?」

「そんなことないよ、全部母さんの差し金だと思うけど。そうだろ?緋莉」

「うん。お母さんがおねえちゃんに失礼のないようにってみんなに言ってたの」

「ほらね」


 母さんなりの気の使い方なんだろうけどちょっと違う気がするなぁ。




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