冬の訪れと2度目の春
第1話 水曜日のクリスマスイブ
鈴羽のご両親に挨拶をしに行ってから二週間。
12月24日クリスマスイブ。
世間はすっかりクリスマス一色で街は恋人たちで溢れていた。
僕は公園のベンチに座ってそんな恋人たちをぼんやり眺めていた。
きっと一年前の僕なら羨ましいと思って見ていただろう。
公園の時計に目をやると時刻は7時40分。
そろそろ時間かな?
僕は公園の入り口に目を向ける。
行き交う人々幸せそうな恋人たちや犬の散歩をしているおじさん、この時期のここは日暮れと共にイルミネーションが点灯するので寒いのにもかかわらずまだまだ人通りが多い。
そんな中、今日はピシッとしたパンツスーツ姿の鈴羽が僕を見つけて足早にやってくる。
「皐月君!おまたせ!待った?」
「お疲れ様、久しぶりだからちょっと早く来ちゃった」
鈴羽は少し息を弾ませながら僕の隣に座って寄り添う。
「ごめんね、この時期はいつも忙しくてなかなか休めなくて」
「ううん大丈夫だよ。仕事だからしょうがないよ」
「ホントごめんね、年末年始は休みだからそこで穴埋めするね」
鈴羽が本当に申し訳なさそうに言う。
「ははは、全然かまわないよ。ほらたまにはこうして初めて話した時みたいに待ち合わせもしてみたいから」
僕はそんな鈴羽の肩を抱き寄せてちょっとおどけてそう言った。
僕が鈴羽のことをここで初めて見かけたのは年明けの1月末だったからもうすぐ1年になる。
あの雨の日に鈴羽が傘に入れてくれていなければ今こうして僕の隣に彼女はいなかったのかもしれない。
「どうしたの?」
「ん?鈴羽と初めて話したときのことを思い出してた」
「初めて話したとき・・・雨の日の?」
「うん。あの時、鈴羽が僕に傘をさしてくれなかったらどうなってたんだろうって」
「どうもなってなかったと思うわよ」
「どういうこと?」
「きっと次の水曜日に私か皐月君、どっちかが声をかけてたと思うから」
そう言って鈴羽はぎゅっと抱きしめるチカラを強める。
そんな鈴羽の頭をくしゃと撫でて僕もきっとそうだろうなって思った。
一週間早いか遅いかの違いだったんだろう。
僕にとってはその一週間がとても大事なものなんだけど。
「じゃあそろそろ
「うん」
僕は鈴羽の手を取りベンチから立ち上がってイルミネーションに彩られた公園を歩く。
「キレイね・・・」
「うん、去年は一人だったからあんまり見てなかったけど結構派手なんだね」
「私もこうして誰かとクリスマスのイルミネーションを見るのって初めてかも」
「少し見て回ろうか?」
僕らはしばらく公園のイルミネーションを見て回ることにした。
「最近のイルミネーションってすごいんだね」
「なんだかおじさんみたいよ?皐月君」
「そうかな?こうやって見ることがなかったからね」
「来年からは毎年一緒に見に来れるわよ」
結構広い公園だけど噴水広場から東西南北に続く道全てがイルミネーションで彩られていて恋人たちが足を止めて見上げている。
結果イルミネーションを見て回ったので家に着いたのは10時を過ぎた頃だった。
「改めて・・・Merry Christmas!!」
リビングで僕らはケーキにロウソクを灯してクリスマスを過ごす。
二人で過ごす初めてのクリスマス。
「うん。美味しい」
もちろんクリスマスケーキは僕が焼いた。
3日前からせっせと仕込みをして焼き上げた我ながら渾身の出来栄えだと思う。
「うん。いい出来だね」
程よく甘すぎず、生クリームとチョコクリームの絶妙なバランス。
「皐月君の女子力が高すぎる・・・」
「まぁ鈴羽ができない分は僕が出来るから問題なしだね」
「・・・それはそれでショックなんだけど」
「いいんじゃない?家事は分担ということで」
笑いながら僕は鈴羽の頬っぺたの生クリームを指ですくう。
「ううぅぅ〜」
「あははは、そんなところも大好きのうちだよ」
「そのうち皐月君がびっくりするくらい料理が上手になるんだから!」
「僕と一緒にいるから多分ならないよね」
「最近皐月君イジワルになってない?」
「そんなことないと思うけど?・・・ほらまたクリームついてるし」
頬っぺたの生クリームをもう一度とってあげる。
「絶対にイジワルになってるよぅ」
ケーキを食べ終わってお風呂の中でも鈴羽はぶちぶちと小声で文句を言っている。
「気のせい気のせい」
鈴羽の髪を洗ってあげてからゆっくりと湯船に浸かる。
「鈴羽の会社は仕事納めいつなの?」
「27日よ。28日が土曜日だからちょうどいいんじゃない?」
「そっか、ならどうしようかな?僕の実家に行くのは年明けてからにする?」
「そうね・・・大晦日は一回家に帰ってからこっちにくるとして2日か3日くらいでいいかな?」
「うん、じゃあそれくらいで考えておくね」
寒くなってくるとお風呂が気持ち良すぎて中々上がれなくなる。毎日ちょっとのぼせるくらいまで入ってる気がするなぁ。
お風呂上がりにリビングで冷たいコーヒーを啜りつつのぼせてグッタリしている鈴羽を眺める。
お風呂上がりの鈴羽は色っぽいなぁ。ソファにバスローブ一枚で倒れこんでるから色々チラチラ見えて非常に危険だ。
そういえばリョータが力説してたっけ。
『ハダカより下着姿の方が遥かにエロい!』って。
そんなバカなことを思い出して僕は一人で笑い、鈴羽を抱き抱えて寝室へと向かった。
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