第31話 土曜日の夜そして・・・


「そろそろお父さん帰ってくる頃だと思うけど」

時刻は午後の8時すこし前。


「土曜日でも仕事なんですね?」

「うん、結構忙しいみたいで最近ずっと土曜日も出勤してるみたい」

「お父さんってお仕事何されてるんですか?」

「建築士よ。家の設計とかをやってるの」

俺がお母さんに問いかけると何故か返事は全て鈴羽から返ってくる。

そんな僕たちをお母さんは黙ってニコニコと見てる。


「鈴羽と皐月君が結婚したらお父さんに家の設計してもらいなさいね」

「お母さん!」

どこまで本気でどこからが冗談なのかわからない人だなぁ。


「ただいま〜」

「帰ってきたみたいね」

お父さんが帰ってくるとお母さんは玄関の方にいそいそと向かっていって。


「お父さんもお母さんも仲が良さそうでいいよね」

「皐月君の両親はそうじゃないの?」

「うちは母さんがあんな人だから、父さんも苦労してるんじゃないかな?」

「・・・ああ、なるほどね」

父さんは穏やかな人だけど母さんがあのとおり何を考えているのかわからない人だから。


「こんばんは、立花君」

鈴羽とそんな話をしているとお父さんがリビングに入ってきた。

「ご無沙汰しております。急にお邪魔させて頂いて申し訳ありません」

「ははは、畏まらなくていいよ。前にも言っただろう?」

「あ、はい。それではいつも通りにしますね」

お父さんはお母さんと並んで向かいのソファに座る。


「それで今日はどうしたのかね?『娘さんを下さい』とでも言いにきたのかな?」

「お父さんまで!」

似た者夫婦なんだろうか?この人たちは。


「まぁそれはまた後日に改めて伺いますよ」

「ほほぅ」

僕はお父さんにそう言い返す。

そんな僕を見てお父さんはニヤリと笑った。

「すこし会わない内に大人になったのかな?」

「ははは、色々ありましたから」

多分、色んな事に対して僅かに余裕が出来たのは門崎会長や喜多嶋社長達との出会いがあったからだろうな。


「皐月君まで・・・もぅ」

「冗談で言ってるわけじゃないからね、鈴羽」


それから僕らと鈴羽のご両親とで夕食を食べてこの日はお開きなった。

終始和やかな雰囲気であったのが幸いだったけど鈴羽のご両親が僕のことをどう見たのかはやっぱりきになるところだった。


「それでは失礼します」

「うん、いつでも遊びにくるといいよ」

「そうね、いつでもいらっしゃいね」

「はい、ありがとうございます」

「じゃあお父さんお母さん、皐月君を送ってくるね」

鈴羽がそう言って駐車場に車を取りに行く。


「立花君。君は本気で鈴羽を妻にと思っているのかな?」

「はい、もちろんですよ。今までもそしてこれからもです」

多分鈴羽が席を外したら何かあるとは予想していたので僕は動揺することなくお父さんに答える。

お父さんは僕の目を真っ直ぐに見つめる。


「ふぅ、娘を嫁にやる時の心構えはしていたつもりだったがいざそうなると中々・・・」

お父さんは何とも言えない顔でお母さんを振り返る。

お母さんもまた何ともいえない顔でお父さんを見ていた。


「皐月く〜ん!」

家の前に車を持ってきた鈴羽が僕を呼ぶ。

「は〜い、ちょっと待ってね〜」

僕は返事をしてから改めてご両親に向き直る。

「それでは失礼します。次は・・・」

僕は僕の気持ちを込めてご両親にだけ聞こえるように言った。


「・・・わかったよ。皐月君・・・、娘を宜しく頼む」

「皐月くん、あの子をお願いね」

「はい!」

僕はそう言ってもう一度頭を下げてから鈴羽の元へと走っていった。



「皐月君、お父さんと何話してたの?」

「うん?内緒」

「え〜っどうしてよぅ」

「どうしてもだよ」

帰りの車の中で僕は鈴羽にあれこれ問い詰められながらも次に鈴羽の家に行く時のことを考えていた。



「聞いたかい?」

「ええ」

「なぁ母さん」

「何かしら?」

「娘を嫁にやる父親ってのはこんなに哀しくて・・・そして嬉しいものなんだな?」

「そうね、それは母親もそうですよ」

「・・・ちょっと飲まないか?」

「ええ、付き合ってあげますよ」


『次は、義理の父と母に会いに来ます』か・・・


中々洒落たことを言うものだな・・・彼は。





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