第30話 土曜日に鈴羽の実家へ


受験も無事に終わり後はクリスマスに年末と恋人達には忙しい時期が待っている。


そんな12月の半ば、僕は鈴羽と一緒に鈴羽の実家に行くことになっていた。


合格発表が済めば行くつもりでいたし、お父さんとも悪くはない関係を築けていると思う。

後はまだお母さんには会っていないので挨拶も兼ねて伺うことにしたんだ。


「皐月君〜準備出来た?」

「ちょっと待ってね、もうすぐだから」

「そんなに張り切らなくてもいいよ?お父さんもお母さんも堅苦しい人じゃないから」

「そうもいかないって、ちゃんとした格好でいかないと」

僕は一応買っておいたスーツを着て出掛ける用意をしている。

いくらなんでも普段着で挨拶に行くわけにもいかないからね。


「とりあえずこんな感じでどうかな?」

「・・・皐月君のスーツ姿だぁ」

「えっと鈴羽?」

鈴羽は物珍しげに僕の周りをクルクルと回ってから嬉しそうに抱きついてくる。


「ん〜〜スーツ姿の皐月君も新鮮でいいね」

「そうかな?」

「うん!」

玄関先で抱きついた鈴羽にキスしてから2人で実家に向かうために駐車場へ。


「そういえばお父さんてお母さんは今日は家にいるの?」

「お母さんはいると思うけど、お父さんは仕事だから夕方くらいになるんじゃないかな」

鈴羽の家に向かう車の中で聞いてみる。

土曜日でも仕事なんだ。


鈴羽の実家は僕の家から車で1時間程、結構な距離を走った。

新興住宅街といった感じの街並みの中に入っていく。


「キレイなところだね」

「うん、まだ出来てそれ程経ってないからかな」


住宅街は丁寧に区画整理されていて、京都の街並みを彷彿とさせる。

そんな中に鈴羽の実家は建っている。


僕の実家は別としてもそれなりに立派な家だった。

駐車スペースが4台あることからも想像がつくだろう。


「やっぱり緊張するね」

「うふふ、大丈夫よ。大丈夫」

車を停めて玄関へと向かう。


「ただいま〜お母さんいる〜?」

玄関のドアを開けて鈴羽が奥に向かって呼びかけると若い女性がパタパタと出てきた。

いくつくらいだろうか?30代くらいかな?

鈴羽によく似た雰囲気のおっとりした優しい感じの女性。

「鈴羽、今日は早かったのね?あら?そちらの方は・・・」

女性は僕を見てやんわりと微笑んでくれた。

鈴羽ってお姉さんいたっけ?

「もう、お母さん!今日連れてくるって言ったじゃない」

えっ?お母さん?この人が?

どう見ても30代後半くらいにしか見えない。


「あらあら、そうだったかしら?ごめんなさいね。鈴羽の母の九条美鈴です。えっと立花皐月くんだったかしら?」

「はっはい!あの、鈴羽とお付き合いさせて頂いてあいます立花皐月です!」

「そんなに畏まらなくていいのよ、さぁどうぞ」

「はっはい、失礼します」

「ふふっ皐月君、そんなに緊張しなくてもいいからね」

鈴羽と並ぶと姉妹にしか見えない。

お母さんはそう言ってお茶を用意しに奥へと戻っていった。


「ねぇ鈴羽のお母さんていくつなの?お姉さんかと思ったよ?」

「うふふ、よく言われるわよ。お母さんは今年で49歳だったかな」

「・・・うそ?」

「びっくりしたでしょ?」

世の中には歳をとらない人もいるんだなぁという見本みたいだ。


しばらくしてお母さんがお茶を出してくれて今はリビングで話をしている。


「それじゃあ皐月くんは大学合格したのね?よかったわね〜」

「はい、何とか年内に結果が出たのでこうしてご挨拶にと思いまして」

「堅いわねぇもっと楽にしていいのよ、ねぇ鈴羽」

「そうよ、皐月君、楽にしてね」

「うん」

なんだか鈴羽が2人いるみたいで落ち着かない。


「それで皐月くんはうちの鈴羽を貰ってくれるのね?」

「ぶはっごほっごほっ」

「ちょっとお母さん!急にびっくりさせないで」

むせた僕に鈴羽がお茶を差し出してくれる。

「あ、ありがと、鈴羽」

「あらあら、ごめんなさいね。てっきり『娘さんを僕にください』って言いに来たのかと思って」

「もう、お母さん!」

「ほほほほ」


ちょっと天然ぽいけどな話しやすい人だなぁ。

「すみません、ちょっとびっくりしました」

「あら?そう、でも皐月くんはそのつもりでしょう?」

お母さんはそう笑いながら僕の目をじっと見つめる。


「もちろんそのつもりです。それが今か今じゃないかだけですけど」

「・・・面白い子ね。あなたは」

「皐月君・・・」

「それじゃあパパにちゃんと言っておかないとね、鈴羽は売約済みですって。でないとすぐお見合いの話を貰ってくるから」

「お母さん!」

「よろしくお願いします」

鈴羽は僕とお母さんの会話を冗談交じりに聞いているみたいだけど僕は本気だ。

それはお母さんもわかってるみたい。


そんな何となく微妙な駆け引きの様な会話は鈴羽のお父さんが帰宅するまで続けられた。




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