第17話 魔女と謎の少女1
「うーむ」
ウォルタは自宅で椅子に座りながら、手元の紙を見つめて唸っていた。
「おいウォルタ、どうしたんだ?」
夕食後の皿洗いを済ませたフレイが、ウォルタの様子が気になり尋ねた。
「……ちょっと、困ったことになってね」
「困ったこと?」
「ええ、それが……」
時はその日の早朝まで遡る。ウォルタはいつも通り、依頼掲示板の前へ赴き、今日受ける依頼を選んでいた。
(ここの所、採取系の依頼ばっかりで、フレイも気が緩むって言ってたし、ここらで魔物退治でも受けましょうかしら)
ウォルタが掲示板の前で立ち尽くしていると、突如、横から走ってきた何者かによって突き飛ばされた。
「いった! ちょっと何よ!」
倒れたウォルタは、自分を突き飛ばした者に向かって言った。
「……ご、ごめんなさい。急いでて」
ウォルタにぶつかってきたのは、黒いコートに、フードを目深く被った、同い年ぐらいの少女だった。
「……そう、まあいいわ。大丈夫、ケガはない?」
ウォルタは立ち上がると、少女に手を差し伸べた。
「……はい、大丈夫です」
少女はウォルタの手を取ると、立ち上がった。
「ま、お互い気を付けましょう。急いでるんでしょ、私に構わず行って大丈夫よ」
ウォルタは少女にそう促した。
「……あの、少しお聞きしたいのですが」
少女がウォルタに尋ねた。
「ん? 何よ」
「……この都市に住むギルド、ヴィネアに所属するウォルタさんという方をご存知でしょうか?」
少女はウォルタの目をみてそう言った。
「……奇遇ね、私がそのウォルタだけど」
ウォルタは少女に若干の疑心の目を向けた。
「……そうですか、よかった。私、ウォルタさんにお会いしたくて、遠くからこの都市にまでやって来たんです」
少女は顔に微かな笑みを浮かべた。
「私に? 何の理由があって?」
ウォルタはより警戒心を強めた。
「……実は、ウォルタさんの腕を見込んで、退治して頂きたい魔物がいるんです」
少女はそう言うと、懐から一枚の紙を取り出し、ウォルタに見せた。そこには地図と、魔物のイラストがのっていた。
「……私に、魔物の退治依頼ってわけ。でも、何故私に? 私より優れた魔女はこの都市にごまんといるわ。正式な手続き踏んで、依頼達成の難易度をつけてもらって、より優れたギルドに請け負って貰った方が確実だと思うけど」
ウォルタは少女から受け取った紙に目を通しながら言った。
「……それでは、ダメなんです。詳しい訳は話せませんが、とにかくお願いします」
少女はウォルタに頭を下げた。
「……しょうがないわね。分かったわ。この依頼受けさせてもらうわ」
ウォルタはそう言って、少女から受け取った紙を懐にしまった。
「……本当ですか。ありがとうございます」
少女はウォルタにもう一度頭を下げると、足早にその場を後にした。
「へぇ、そんなことがあったんだ」
向かいの椅子に座り、ウォルタから話を聞いたフレイが言った。
「ええ、でも何か気になるのよねぇ」
「何が?」
「色々とよ。急いでいるって言ったのに、私に人を尋ねて来たり、偶然、それが私のことであったり、非正規の依頼を訳もはなさずお願いしてきたり、普通じゃ有り得ないことばかりだわ」
ウォルタは頭を抱えながら、そう言った。
「んー、確かに変だけど、本当に魔物に困っているんだったら、放ってはおけなくない?」
フレイがテーブルに身を乗り出してそう言った。
「それもそうなのよねぇ。まあ、もう受けるって言っちゃったし、行ってはみるけど」
ウォルタは椅子から立ち上がった。
「場所はどこなんだ?」
フレイが尋ねた。
「北のデコ山の近くにある、トト遺跡よ。退治の対象は、シャットゴーレムという魔物。まあ、早いに越したことはないし、早速、明日行ってみましょう」
「ああ、分かった」
二人は明日の支度を済ませると、しばらくして床に就いた。
次の日、ウォルタとフレイは目的地のトト遺跡へとやって来た。
「……うわぁ、何だここ。ボロボロだなぁ」
遺跡を目にしたフレイが眉をひそめながら言った。遺跡にはそこら中に倒れた柱らしき物が散乱しており、本来のものとはかけ離れた姿をしていた。
「この遺跡はかなり前に調査が終了していて、今は放置され、誰も近寄らない場所らしいわ。そんな場所の魔物を退治して欲しいなんて、この依頼、益々怪しいわね」
ウォルタが遺跡を見回しながら言った。
「うーん、実はなんかの罠だったりしないよね?」
流石に違和感を覚えたフレイが尋ねた。
「……かもね。でも魔女として、受けた依頼を放り出すことはできないわ。行くしかないわね」
ウォルタは遺跡の入り口らしき場所に向けて歩き出した。
「……まあ、くれぐれも気を付けて行こう」
フレイもその後に続いた。
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