第18話 魔女と謎の少女2

「ここが遺跡の中か……」


遺跡の内部に設置された階段を下りながら、フレイがつぶやいた。


「外とは違って、結構しっかりしてるわね」


ウォルタも辺りに気を配りながら階段を下った。すると、突如、足元の方から獣の咆哮らしき物が響いた。


「……この下みたいね」


二人は足早に階段を下りると、開けた場所に出た。すると、そこには岩石からできた巨大な人型の化け物と、紫色のサイドテールの髪をした、一人の少女が立っていた。


「あ、あなたは!」


ウォルタは少女を見ると叫んだ。


「……久し振り……って程でもないわね、ウォルタさん」


少女は不敵な笑みを浮かべながら言った。


「何だ、ウォルタの知り合いか?」


フレイがウォルタに尋ねた。


「……昨日の朝会った少女よ、私にこの依頼を頼んだ張本人。一体、どういうつもりかしら?」


ウォルタは顔に冷や汗を浮かべながら尋ねた。


「……深い理由はないです。ただ、私はウォルタさん、そしてフレイさん。あなた方二人を始末するためにここで待っていただけです」


そう言うと、少女はどこからともなく一本の剣を取り出した。


「……どうやら、フレイ、あなたの予想が当たったみたいね」


ウォルタは銃を取り出すと言った。


「全然、うれしくないけど」


フレイも剣を取り出して言った。


「……おっと、あなた方の相手は私ではない。このシャットゴーレムです」


そう言うと、少女は隣に並び立った、シャットゴーレムにの背中に、取り出した剣を突き刺した。すると、シャットゴーレムは咆哮を上げると共に、その体に目に見える電流の様なものをまとった。


「……今のって!」


ウォルタの脳内にかつての記憶が蘇った。フレイと出会った日に戦ったポカツリー、そしてルリの捜索で戦った火の玉の魔物のことを。


「……なるほど、人様の魔導具を盗んで、魔物に突き刺していた犯人……あなただったてわけね」


ウォルタは少女をにらみつけてそう言った。


「……ええ、その通りです。もっともどちらもあなた方に倒されてしまいましたけど」


少女をは口元に笑みを浮かべてそう言った。


「……つまり、お前がウチの剣を盗んだ犯人だったてことか。無事戻ってきたからいいものを、盗むなんてひどいじゃないか!」


フレイは少女に向かって言った。


「……眠れる森の美女から、剣一本をせしめるなんて簡単なことです」


少女はフレイの言葉をさらっと流した。


「色々と聞きたいことはあるけど、なぜ、わざわざ他人の魔導具を使う訳、あなたも魔女ならそこにこだわる理由はないんじゃなくて?」


ウォルタが少女に尋ねた。


「……いいえ、私は魔女ではないので、魔法は使えません。ただ、魔導具に僅かに残った、持ち主の魔力を活性化させる能力を持っています。そして、魔物に魔導具を入れ込むことによって、その活性化させた魔力を魔物に注入し、魔物に魔導具の持ち主の魔法を付加することができるんです」


「……丁寧なご回答どうも。でもそんなこと、私たちに話してしまっていいのかしら?」


ウォルタが口元に笑みを浮かべながら言った。


「……構いません。私との約束通りここに来て下さったお礼です。もっとも、あなた方はここで消えることになるのですから、無意味な情報ですけどね」


少女はそう言うと、踵を返して歩き出した。


「待ちなさい! 簡単に逃がすと思ってんの!」


ウォルタは少女の元へ駆け寄ろうとした。


「……私の名はニール。もし生きていたらまた会いましょう、ウォルタさん、フレイさん」


そう言い残すと、少女は突然その場から姿を消した。


「消えた?!」


そう言うウォルタの頭上にシャットゴーレムの巨大な拳が迫っていた。


「ウォルタ! 上!」


フレイがウォルタに向かって叫んだ。


「ああ、もう!」


ウォルタは振り降ろされたシャットゴーレムの拳をかわすと、フレイのいる位置まで後退した。しかし、そのシャットゴーレムの攻撃の衝撃によって、二人が下って来た階段への道が、崩れ落ちた瓦礫によって封鎖された。


「……まったく、こんな罠にかかるなんて、私も案外お人好しだったてことね。行くわよフレイ!」


「ああ!」


二人は魔導具を構えた。すると次の瞬間、シャットゴーレムは両腕を振り上げ、その腕を足元の地面目掛けて叩きつけた。その衝撃によって、床から剝がれたプレートが飛び、二人を襲った。


「このくらい!」


フレイは飛んできたプレートを軽くかわした。そして、同じくプレートをかわしたウォルタが辺りを見回して異変に気づいた。今のシャットゴーレムの攻撃の衝撃によって、遺跡内が大きく揺れ、天井が僅かに崩れたのだった。


「どうやら、あんまりもたもたしてると、魔物と仲良く生き埋めね」


ウォルタは顔に冷や汗を浮かべた。


「そいつはごめんだね!」


そう言いうとフレイはバッグから魔導石を取り出し、自らが握る魔法剣にスキャンした。


『デュアル』


魔導石から音声が鳴り、もう一本の魔法剣が出現した。フレイは二本の剣に炎を灯すと、魔物との距離を詰めた。


「一気に決めてやる!」


フレイが魔物の直前まで来たとき、突如、魔物は全身から電撃を発し、向かい来るフレイを吹き飛ばした。


「うわっ! 電気⁉」


受け身を取ったフレイが言った。


「……どうやら、あれがニールが新たに加えた魔法らしいわね」


そう言うと、ウォルタはバッグから魔導石を取り出し、握った魔法銃にスキャンした。


『ラピッド』


魔導石から音声が鳴り、魔法銃がガトリング型へと変化した。


「これなら、どう!」


ウォルタが引き金を引いた銃からシャットゴーレムに向けて、何発もの魔法弾が放たれた。しかし、それらは命中したものの、魔物の強固な体によってはじかれた。


「……いつぞやの山で戦った奴より硬いわね」


魔導石を使った攻撃にも耐える魔物の強固さに、ウォルタはたじろいた。すると、シャットゴーレムは電気を操り、近くの、瓦礫を一ヶ所に集め、大きな瓦礫の玉を生み出し、それを二人目掛けて投げつけた。


「ウォルタ、下がって!」


そう言って、ウォルタの前に出たフレイは、一旦、魔法剣を一本に戻すと、その一本を力強く握った。


(魔力の一点集中!)


フレイは魔力を込めた剣の刃で、飛んできた瓦礫の玉を受け止めた。そして、そのまま、その玉を真っ二つに切り裂いた。


「へへん、こんなもの、師匠との特訓で使った鉄の塊に比べればどうってことないね!」


フレイは口元に笑みを浮かべて言った。


「いいじゃない、フレイ! その技ならあいつも切れそうね」


ウォルタも笑みを浮かべながら、フレイに言った。


「うーん、でもあの周りの電気をどうにかしないと、本体まで近づけないよ」


フレイは顔を曇らせた。


「……その電気の鎧を剝がす必要があるわね」


ウォルタがそう言った次の瞬間、シャットゴーレムは再び足元を拳で殴り、プレートを二人に向けて吹き飛ばした。


(……サナとの特訓で身につけた魔力のコントロール、それを応用すれば!)


ウォルタは飛んできたプレートをかわすと、フレイに向かって叫んだ。


「フレイ、私に考えがある! デュアルの魔導石を貸して!」


「分かった! 受け取れウォルタ!」


フレイはそう言うと、魔導石をウォルタに投げ渡した。そして、それを受け取ったウォルタは、魔法銃に二つの魔導石をそれぞれ立て続けにスキャンした。


『ラピッド』


『デュアル』


それぞれの魔導石から音声が鳴り、魔法銃が光に包まれた後、ウォルタの手元に、二丁のガトリング型の魔法銃が現れた。


「魔導石をいっぺんに二つ⁉」


フレイが驚いた。


「ええ、今までの私では魔導石の二重使用は、その消費魔力が多すぎてできなかった。でも、今は違う。サナとの特訓で魔力のコントロールを身につけた私なら、最低限の魔力でその魔導具をあつかえるわ!」


そう言うと、ウォルタはシャットゴーレムに向けて二丁の魔法銃を構え、それらの引き金を引いた。それぞれの銃口から無数の水魔法の弾丸が放たれ、シャットゴーレムの体に命中した。しかし、その弾丸たちが、シャットゴーレムの体に傷をつけることはなかった。


「……おい、効いてないみたいだぞ」


フレイがウォルタの方を向いて尋ねた。


「構わないわ、ダメージを与えることが目的じゃないから。まあ見てなさい」


ウォルタはフレイにシャットゴーレムを見る様に促した。すると、シャットゴーレムが体にまとっていた電流がどんどんと消えかけていった。


「電気が消えた、どうなってんだ?」


フレイがウォルタに尋ねた。


「私が何発もの水魔法の弾丸を浴びせたのは、あいつの体を水浸しにするためよ。それによって、あいつの体の周りの電気が水を伝って漏電し、厄介な鎧が剥がれるってわけ」


ウォルタはふふんと鼻を鳴らしながら言った。


「なるほど、それなら後はウチの剣で!」


「ええ、頼むわ、フレイ」


フレイは剣に魔力を込めると、シャットゴーレムとの距離を一気に詰め、その剣で魔物の体を真っ二つに切り裂いた。





「ふう、まったくひどい目にあったわね」


フレイと共に遺跡内から脱出したウォルタが言った。


「まったくだ。けど、ウチらを始末するだなんて、何か恨まれるようなことしたかな」


フレイが首を傾げた。


「……私たちが彼女の作り出した特殊な魔物を二度も倒したせいかしら? まあ、どっちみちいい迷惑ね」


「……また、あいつはウチらの前に現れるのかな」


「さあね、出来れば、こんなことはもう勘弁願いたいけど。さて、もう帰りましょう。フレイ、巻き込んで悪かったわね」


ウォルタはフレイの方を振り返って言った。


「別にいいよ」


フレイは笑顔でそう言った。二人はトト遺跡を後にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る