第15話 魔女と秘密の特訓1

「じゃあ、ちょっと行ってくるよ」


ウォルタの自宅の玄関の、ドアノブに手を掛けたフレイが言った。


「ええ、行ってらっしゃい……ってフレイ。あんた、ここんところ、この時間になると、出掛けるけど、どこ行ってんの?」


椅子に腰かけながら、読書をしていたウォルタが、手元の本から目を離して尋ねた。


「ふふふ、そりゃあ、秘密の特訓さ。ウォルタも来るか?」


「……私が行ったら秘密じゃなくなるじゃない」


「あ、そうか。じゃあ普通の特訓だ。ウォルタも来るか?」


「……まあ、時間もあるし、ご一緒しようかしら」


ウォルタは椅子から立ち上がって背伸びをした。


「よし、決まり! 早速、師匠に会いに行こう!」


「ええ! ……って師匠?」





ウォルタはフレイの案内のもと、サラ川南部へとやって来た。


「あなたの言う、師匠ってこんなところにいるの? 魔物の少ないサラ川近辺とはいえ、都市から随分と離れているけど」


ウォルタがフレイに尋ねた。


「ああ、なんたって師匠だからな。平穏な都市よりも、魔物が潜む自然の中で暮らす主義なんだって」


フレイが笑顔でそう答えた。


「……その情報だけで、だいぶワイルドな方だとご察しするわ」


ウォルタは顔に冷や汗を浮かべた。


「会えば分かるけど、かなりワイルドだぞ。驚くなよ」


そう話しながら歩く二人の前に、とある小さな小屋が見えてきた。


「あっ、あれが師匠の家だよ。おーい! 師匠ぉー!」


フレイは駆け足でその小屋へと駆け寄った。しかし、小屋の周囲には人影が見当たらなかった。


「……誰もいないみたいね」


ウォルタがそう言いながら、周囲を見回していると、突如、近くの大樹の上から大声が聞こえた。


「ハハハ! よく来たな!」


「木の上⁉」


ウォルタがその声のした場所を見上げると、そには木の枝の上に立つ、一人の朱色のポニーテールの髪をした女性の姿があった。


「師匠!」


フレイがその女性に向かって、叫んだ。


「とぉっ!」


女性はそう叫ぶと木の枝から飛び降り、空中で一回転した後、地面に着地した。


「……ワイルドなんて言葉じゃ収まらないわね」


ウォルタがぽつりとつぶやいた。


「こんにちは! フレイ! ……と、そちらさんは初めましてだな! 私の名はサナ! よろしく!」


サナはサムズアップした右手を二人の前に突き出した。


「おう、師匠! 今日は友達を連れてきたんだ。同じギルドのメンバーのウォルタだ」


「ウォ、ウォルタよ……よ、よろしくサナさん」


この時点でウォルタはサナのテンションの押され、辟易していた。


「ほう、君がウォルタか! 君のことはフレイから聞いているよ! よろしく! だが、私にさん付けは無用! 呼び捨てで構わん!」


サナは自分の胸をドンと叩いてそう言った。


「……そ、そう、よろしくサナ」


ウォルタは苦笑いでそう言った。


「どうだ、ウォルタ、驚いたか?」


フレイが笑顔でウォルタに尋ねた。


「……ええ、驚いたわ。腰が抜けるくらい」


ウォルタが疲れ切った表情でそう答えた。


「よし! なら早速、修行場に移動しよう! 着いて来い!」


三人はその修行場といわれる、近くの森の中へと入って行った。

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