魔女と悪霊1

「突然だけど、ウォルタは幽霊って信じるか?」


食堂で自らが注文した、カレーライスを平らげたフレイが尋ねた。


「突然ね……まあ、信じないこともないけど。なんで、そんなこと聞くのよ?」


向かいの席に座ったウォルタが、コーヒーを啜りながら言った。


「いやぁ、ウォルタって暗い所苦手じゃん。だから幽霊も怖いのかなって思って」


「そりゃあ暗い所は……苦手だけど、幽霊の類は別に怖いと思わないわ。日頃から魔物という化け物を相手にしているせいかしらね」


そう言うとウォルタはコーヒーカップに口をつけた。


「なるほど、ならこの依頼受けても大丈夫そうだな」


フレイはウォルタに一枚の依頼書を見せた。その依頼書を読んだウォルタは一瞬、口の中のコーヒーを噴出しそうになった。


「……幽霊屋敷で悪霊退治……ってあんた何、勝手に依頼取って来てるのよ!」


ウォルタはフレイから依頼書を取り上げた。


「えーいいじゃん、たまにはさぁ」


フレイは口を尖らせながら言った。


「しかも、なによこの内容……悪霊退治って」


「なんか、依頼主の人の別荘に悪霊が出現するらしくてさ、それを追っ払って欲しいんだって」


「悪霊って……魔物ですらないじゃない」


ウォルタは頭を抱えた。


「でも、そいつのせいで困ってる人がいるのは事実だし、退治してあげようよ!」


フレイは椅子から立ち上がった。


「……はぁ、しょうがないわねぇ。分かったわ、この依頼受けましょう」


ウォルタは渋々、依頼書をフレイに返した。


「やった! ありがとう、ウォルタ!」


フレイは笑顔でそう言った。


「……幽霊屋敷ねぇ」


ウォルタは天を仰ぐと、深いため息をついた。





数時間後、ウォルタとフレイは都市ドマンナカの郊外にある、依頼主の別荘の屋敷にやって来ていた。日はすっかり落ち、辺りには人影も見えなくなっていた。


「……なんでよりによって、こんな時間なのよ」


屋敷の門の前で、ウォルタは文句を言った。


「しょうがないじゃん、明るいうちは悪霊が出ないっていうんだからさ」


フレイは依頼主から預かった鍵で門を開けると、どんどん庭の中へと入って行った。


「あなた、ためらいないわねぇ。一応、人ん家なのよ」


ウォルタも文句を言いながら門を通った。


「平気、平気。なんたって悪霊退治のためなら、屋敷内での戦闘も許可してくれるような人だもの……ってウォルタ、本当は怖くて、入りたくないだけなんじゃないの?」


フレイがウォルタの方を振り向いてニヤリと笑った。


「じょ、冗談! 誰が怖くなんか! とっととドア開けなさい、入ってやろうじゃないの!」


ウォルタは顔を真っ赤にしながら、ずんずんとフレイがいる地点まで歩み寄った。


「はいよ!」


フレイは同じく依頼主から預かった鍵で屋敷のドアを開けた。


「おじゃましまぁす……」


フレイは小声でそう言って、屋敷の中に足を踏み入れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る