魔女と熱烈ファン1
「はぁ……」
都市ドマンナカにある、魔女達行きつけの食堂。
そこで食事中のウォルタは深いため息をついた。
「いやー、ここの食堂のカレーは最高だな!」
向かいの席に座ったフレイは、大きめの皿に盛られたカレーライスを頬張っている。
「……」
「どうしたんだウォルタ? いつにも増して浮かない顔だな」
無言のウォルタが気になりフレイは尋ねた。
「いつにも増しては余計よ。実は最近困ったことがあってね」
「困ったこと?」
「ええ。その、いわゆる熱狂的なファンってのが、私についちゃったみたいで……」
フレイはカレーをすくうスプーンを握る手を止め、目を丸くした。
「……おいおい、まさかそのファンに好かれすぎて困っちゃう! ……なんて言うんじゃないだろうねぇ?」
フレイはニヤついた顔をウォルタに向けた。
「そんなわけないでしょ! ……そのファンがここのところ毎日、私にサインを求めに来るのよ」
「いいじゃないかサインぐらい、書いてやれよ」
「書いたわよ……何十枚と」
ウォルタが眉間にしわを寄せてそう言った次の瞬間、彼女の背後に何者かの声が響いた。
「ウォルタ様ぁー!」
その声の主は、水色の髪をした小柄な少女だった。
「……来たわね」
ウォルタの顔は一段と陰りが増した。
「ウォルタ様! 今日の分のサイン、よろしくお願い致しますわ!」
少女はウォルタに色紙とペンを差し出した。
「……あのね。私、あなたには何十枚とサイン渡したはずだけど」
ウォルタは右手で頭を押さえながら、少女の方を振り返った。
「いいえ、ウォルタ様のサインは何枚あっても足りませんわ! 本日も是非ともお願いしますわ!」
少女はテーブルの上に色紙とペンを置き、深くお辞儀をした。
「……この子が?」
フレイが尋ねた。
「……そうよ」
ウォルタはため息混じりにそう答えた。
すると、少女はたった今気づいたかのようにフレイに顔を向けた。
「あら。初めまして、わたくしアンと申します。あなた、ウォルタさんのお友達でいらっしゃいまして?」
「ん? まあ、そんなとこかな。フレイっていうんだよろしく。あっそうだ、よかったらウチがサインしようか?」
フレイが机の上の色紙とペンに手を伸ばそうとすると、アンはそれらを取り上げた。
「結構ですわ。わたくし、ウォルタ様以外の魔女の方に興味ありませんの。それにウォルタ様のお友達となれば、わたくしのライバル同然じゃなくって?」
「ら、ライバルぅ?」
フレイの頭の中は疑問符でいっぱいになった。
「はぁ……フレイ、これで分かったでしょ?」
ウォルタはうなだれたながら、フレイに同意を求めた。
「うーん……でもまあ、好かれるってことはいいことなんじゃないか?」
フレイは笑顔でそう答えた。
「あんたねぇ……はぁ」
ウォルタは観念したのか、アンから色紙とペンを貰うと、渋々サインをした。
そしてそれを彼女に渡した。
「いい、私のサインはこれで最後よ。分かったら、もう私に付きまとうのはやめて」
「はい! ありがとうございますわ!」
アンはペコりとお辞儀をすると、色紙を抱きかかえたままどこかへ去って行った。
しかし、アンの熱烈なアピールはこれでは終わることはなかった。
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