4-2
部員全員が目を見開き、息を飲んだ。理恩は構わず続ける。
「野神先生が知っていることを全部話してもらう」
「そっか……! 生霊を飛ばすくらいに気になっている何かがこの学校にあるってことだもんね。それが何かを聞き出すのね!」
梢が目を輝かせると、理恩は「もし何かを知ってるなら手っ取り早いからな」と答えてから、部室の窓に視線をやった。
「……あまり時間はなさそうだな」
理恩のそのひと言に、梢も窓の外へ視線を向けた。
梢も感じていたからだ。今は旧校舎に留まっている野神沙耶香の霊の気配が、僅かに少しづつ――だが確実に新校舎の方へ近づいていることに。
***
その家屋は、吉祥寺の閑静な住宅街の中にあった。
新興住宅地なのだろう。同じようなデザインのものが幾つも並んでいる。
オカルトミステリー研究部の面々は、ここから徒歩15分のところにある駅で待ち合わせをしてから歩いてきた。ちなみに話し合った結果、制服で訪問することになった。神楽坂が機転を利かせて菓子折りを持ってきた。梢にはその発想はなかったので助かった。
「ここよ」
そう言って神楽坂が指差した先に【野神】と記された表札があった。
門から玄関までのアプローチには白い砂利が敷いてあった。玄関先には大きさの異なる鉢植えが幾つか置いてあるが、どれも枯れている。
「なんか……緊張するな」
大森がインターホン前で深呼吸を繰り返していると、横から腕が伸びてきて、躊躇いもなく呼び出しボタンを押した。理恩だ。
少ししてからスピーカーから男性の声がして、6人は門の奥へと進んだ。
「いらっしゃい、よく来たね。ここは学校からは少し遠いだろう」
玄関を開けてくれたのは、野神慎也、本人だった。
学校誌に映っていたよりも随分と痩せてしまい、頬がこけてしまっている。
別人と言われても納得してしまう人が殆どだろう。
「お久しぶりです。あの、すみません、大勢で押しかけてしまって」
神楽坂が頭を下げながら、野神慎也へ菓子折の入った紙袋を差し出すと、野神慎也は「構わないよ。こんなに賑やかなのは久しぶりだ。これ、皆で食べようか。お茶を用意してくるからここに座って待ってて」そう言って、客間である和室へ案内してからキッチンへと消えた。
この家に入った時に最初に感じたのは、線香の匂い。
それと生活感のなさだった。
「紅茶でいいかな」
程なくしてお盆にカップとティーパックの入った箱を乗せた野神が現れた。
「お構いなく」
神楽坂が席を立ったので、梢もそれに倣って立ち上がった。
「手伝います」
「ああ、悪いね。ポットを持ってくるよ」
スマートに動く神楽坂とは反対に、立ったはいいが、何をしていいのかわからない梢は再び腰をおろした。
「菓子でも出してりゃいいんじゃねえの?」
相変わらずの無表情で理恩が梢を馬鹿にしてきたので、梢は「今やろうとしてたのよ!」とムキになって菓子折りの包装紙を剥がし始めた。
「お待たせ。それにしても、こうやって沙耶香に線香をあげに来てくれたのは君たちが初めてだよ。ありがとう」
大きなテーブルの端でカップにお湯を注ぎながら野神がしみじみと言った。
大森は野神のことを生徒から人気のある教師だと言っていた。離職してしまえば懐いていた生徒も疎遠になっていくのだろうか。そう考えると寂しいものだな、と梢は思った。
「早速ですが、お線香をあげても?」
紅茶を人数分淹れ終えたところで理恩が言葉を発した。
「ええと、君は」
「1年の室生と言います」
「宝生くん……。それに大森と神楽坂以外は私のことを知らないはずだが……。沙耶香とは面識が?」
野神の疑問も当然のことだろう。神楽坂は野神に何人かでまとまって行く、としか伝えていなかったのだから。
「初めまして。2年の佐野です」
「同じく2年の田中です」
「あ、ええと1年の小比類巻と言います」
「野神先生、俺たちは――」
大森がここに集まった人間がオカルトミステリー研究部のメンバーだと言おうとしたところで理恩が割って入った。
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