2-5

「じゃあ、七不思議調査ツアーは明日ってことで! これから神楽坂さんと柏木先生のところへ行ってくるよ。皆は解散で」


 大森の言葉に全員席を立ち、部室から出ていった。


 いつもはおまえが部長か! と突っ込みたくなるくらいに喋る理恩が今日は大人しかった。梢も最後に部室を出ると、理恩の背中へ声をかけた。


「今日はだんまり? 小嶋先輩と何を話したか聞かなくていいの?」


 すると、理恩は面倒くさそうに分厚いレンズ越しに梢を見た。


「気づかなかったのか」

「何が?」


 キョトンとする梢に理恩はため息を吐いた。


「何よ」

「昼休み。俺も近くにいたから会話は全部聞いてた」

「え!? いたの!?」


 全く気が付かなかったことに梢は驚愕した。

 確か、近くのベンチには誰もいなかったはずだが……。


「木の上にいたから」

「は?」


 忍者かよ!


 見た目通りに怪しいやつだと梢は確信した。出来れば関わりたくない人種だが、祖母は離れるなと言う。


「あのさ。宝生くんは何をやってるの? ちゃんと調べてるわけ?」

「俺が出張るのはまだ先だ」

「随分と偉そうだけど、そんなに能力が高いの?」

「梢よりはな」


 今までいっその事、霊感なんてなくなってしまえばいいと思っていたが、理恩に鼻で笑われると無性に腹が立った。


「私はまだ能力が開花してないだけよ」

「じゃあとっとと開花させろ。ま、俺ひとりでも何とかなるだろうけど、負担は減らしたいからな」


 本当にこの男は――。


 梢がヒクヒクと顔を引き攣らせていると、理恩は「明日だけど、それなりに心構えしておけ。あの怨霊のせいで低級霊がかなり寄ってきてるから」

と付け加えた。


 それは梢も感じていた。


 昼間だというのに、そこかしこに得体の知れないものの気配がある。

 これが夜になったら――そう思うと身震いした。


「旧校舎で、この2年の間に何があったのか調べた」

「え」


 梢はゴクリと生唾を飲み込んだ。


「野神沙耶香の死後、屋上で度々彼女の姿を見たという証言があった。それと、転落した場所――旧校舎裏にある焼却炉が勝手に燃え始めたりしたそうだ」

「なんで焼却炉が……」

「わからない。けど、事件と何か関係があるのかもしれない。今となっては何も出てこないだろうけど」

「他に霊障は?」


 怨霊ともなれば生きている人間を道連れにするはずだ。

 例え、それが自身の怨みに無関係の人間であっても、だ。


「今のところ死んだ人間はいない。だけど、精神が崩壊した人間ならひとりいるな」


 そう聞いて、梢の脳裏に小嶋尊の名前が浮かんだ。


「やっぱり……そうなの?」


 交際相手に自殺と見せかけて殺されたとしたら、同じ女としてやはり怨むだろうと、梢は思った。

 それと同時に悲しみが胸に湧き上がる。


「まだわかんねえけどな。なんかしら知ってる可能性はあると思う」

「……小嶋先輩も何か知ってるのかな」


 今のところ、周と接していてわかったのは、恋人を亡くして変わってしまった兄の為に、どこか彼は遠慮をして生きているということだ。


 明るくみえるその立ち振る舞いも、周囲を気遣って実は無理をしているのかもしれない。


「ホントに惚れた?」


 口角を上げた理恩に、梢は顔を瞬時に真っ赤にさせた。


「なんでそうなるのよ!」

「俺には関係ないけど。でも本来の目的を忘れるなよ?」

「ご心配しなくてもモテすぎる男はタイプじゃないから」

「知らんがな」


 いつかこの男をギャフンと言わせてやると、梢は心に誓った。


「あれからどうだ?」


 2人で帰るつもりは毛頭ないが、帰り道が同じなので結局並んで校舎を後にした。


「あれから?」

「旧校舎で倒れてからだよ。何か変わったことはないか?」

「特には。ああいうことはわりと日常茶飯事だし……って、そうだ! 聞こうと思ってたの。あの時私、何に取り憑かれたの?」

「なんだ、記憶がないのか?」

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