2-4
春といってもまだ少し肌寒い中庭のベンチにはそれほど生徒は座っていなかった。
空いたベンチにふたり並んで座ると、購買部で買ってきた菓子パンをそれぞれ膝の上に広げて置いた。
「すみません。考えさせてと言われたのに」
「俺も梢ちゃんに興味あるし、誘ってくれて嬉しいよ」
周はそう言ったが、2年4組の教室へ顔を出した時、彼は複数人の女子に囲まれていたから、もしかしたら迷惑だったのかもしれない。
「小嶋先輩は優しいんですね」
「そんなことないけど。ひょっとして、これから毎日誘いに来てくれるの?」
「そのつもりです」
「あはは! じゃあクラスの女子に言っておかないとな」
「先輩ってモテますよね」
コロッケパンを頬張りながら梢が言うと、周はカツサンドを齧りながら「本当に俺を好きな子はいないと思う」と笑った。
「え。明るいし、顔もいいし、スポーツも出来て、うちの部の人たちとは雲泥の差……」
「何部なの?」
うっかり部活のことを口にしてしまい、梢は焦った。
「ええと……引きません?」
「あ、待った。俺が当てるよ。そうだな……あんまり汗とかかくの苦手そうだから、文化部。当たり?」
「そうですね……運動部ではないです」
「写真部とか?」
カメラはあるが、あそこで撮るのは人物でも風景でもなく、心霊写真だ。
「……オカルトミステリー研究部、です」
梢が消え入りそうな声で言うと、周は目を丸くした。
「それは……意外というかなんというか」
「いいんです。引きますよね。わかります。全員メガネだし」
「メガネ関係ある?」
あはは! と声を高くして笑う周に、梢は引きつった笑顔を見せた。
「なんでまた入部したの?」
「ああ、それは――」
イタコの孫だから。なんて言えない。
「こう見えて霊感があるんですよ、私」
今度こそ完全に引かれた。そう思ったのだが、予想に反して周は興味津々といったふうに「へえ! 幽霊とか視えちゃうの?」と聞いてきた。
「私は視えないですよ! 気配とかはわかりますけど」
「そうなんだ。俺も怖い話とかは、わりと好きだよ。中学の頃、友達と夜中の学校に忍び込んで肝試しとかしたし」
「肝試しで思い出しました。今度、部で学校の七不思議を検証するツアーやるんですよ。今から憂鬱です」
「え、面白そうじゃん。俺も行きたい」
思わぬ方向へ話が転がってしまった。
「本気ですか?」
「本気本気! 他にはどんな活動してんの?」
活動と言うかはわからないが、現時点の最大の目標は、旧校舎に棲みついている怨霊を祓うことだ。その為に事件の調査を始めているなど、関係者の血縁である周に言えるはずもなく、梢は苦笑いで返した。
「あ、部外者に全部は話せないか」
梢の苦笑いの理由を守秘義務的な何かと、周は勘違いしたらしい。
「そこまで大袈裟なものでもないですけど、一応」
「そっか、そうだよな。困らせるようなこと言ってごめん。でもそういう話嫌いじゃないから、何か面白い話あったら聞かせて!」
「はあ……」
きっと、彼には霊感が皆無なのだろう。
だから、面白がっていられるのだ。大森たちのように。
昼休みの終わりを知らせるチャイムが鳴ったので、梢たちはそれぞれの階へと別れた。
そして、放課後。
オカルトミステリー研究部は、旧校舎のことなどなかったかのように、七不思議について盛り上がっていた。
「決行は明日の夜はどうかな。金曜日だし」
大森がそう言うと、いつも通りに拍手の音が鳴り響いた。
「夜に校舎に入るなんて出来るんですか?」
梢が疑問を投げかけると、大森は不敵な笑みを浮かべた。
「本来、ここの学生は完全下校時間以降は居残ってはならない、が、我々オカルトミステリー研究部にはその特性上、特例として許可がおりてるんだ。但し、顧問の
こんな小さな部に特別措置が取られているのにも驚いたが、顧問がいるという事実に梢は驚いた。
「顧問……いたんですね」
「当たり前だよ、じゃないと部として成り立たないからね。ちなみに柏木先生はものすごい怖がりだから部室に寄るのは本当にたまにしかないレアキャラだったりするけど」
普段顔を出さないのは、顧問としてどうかと思うが、ここの部員は教員がいなくても悪さをしないというある意味信頼をされているということの現れなのだろう。
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