2-3
どれもこれも今どき小学生でも鼻で笑うような話だが、この人たちは真剣なのだ。梢は思わず吹き出しそうになるのを必死に堪えた。
「実は去年もツアーをやったんだ。でもその時も誰ひとりとして霊感がないから何も起こらなくて……。結局校内をパトロールしただけだった」
パトロール!
さらに追い打ちをかけられ、梢は必死に唇を噛み締めた。肩が震える。
「だが、今年は違う! 宝生くんと小比類巻さんがいれば、俺たちはきっと怪奇現象に出会うことができる!」
部室内に割れんばかりの拍手の音が響いた。
***
梢が自宅へ帰宅すると祖母の部屋に呼ばれた。
それはいつものことで、今日あった出来事などを祖母に話すのだが、祖母は梢が話す前からその内容を知っているようだった。
昨日も顔をみた途端に「大丈夫か」と声をかけられた。
怨霊の霊気に触れたことも、何かに憑依されたことも祖母は知っていた。
祖母の身体が元気ならば、祖母だけで解決出来てしまう案件なのだろう。
「おかえり、梢」
「ただいま戻りました。おばあちゃま」
歳を重ねたといえど、祖母は美しかった。
梢は祖母に似たのだと誰もが言う。
「今日は何があった?」
いつもは包み隠さず話すのだが、今日は少しばかり躊躇した。作戦とはいえ、人を騙したのだから。
「ごめんなさい!」
だから梢は先に謝ることにした。
すると祖母はふわりと笑った。
「大丈夫だよ。梢は悪くない」
やはり祖母は全て分かっている。
ならば、と梢は意を決して祖母へ問いかけた。
「おばあちゃま。私の学校にいる怨霊って自殺じゃないの?」
「どうだろうねえ」
祖母はそうとぼけてみせるが、梢は諦めなかった。
「教えて欲しいの。もし、警察がいうように自殺なら、私たちが関係者を疑うことは今よりもさらに傷口に塩を塗るようなことになる」
「梢、おまえには力がある。ばあちゃんと同じ力がね。そしてそれは遠くない未来に開花するだろう」
「遠くない未来っていつ? 今すぐに知りたいのに……」
「梢が思う通り、ばあちゃんは全てを知ってる。けどね、イタコというのは仏さんを自分へ降ろしてその言葉を代わりに伝える役目と、それともうひとつ、とても大切な役割があるんだよ。それは仏さんと文字通り心を通わせることだ。事実はわかっても、その気持ちまでは魂を重ねないとわからないんだよ。他のイタコはどうかわからないが、ばあちゃんは今までそうやって仏さんと心を通わせてきた」
魂を重ね合う。
今の梢には出来ない芸当だ。
「大丈夫。梢の近くにいる男の子……、あの子が守ってくれる」
梢の脳裏に理恩の顔が思い浮かんだ。
「宝生くんのこと?」
「そうだ。あの子の力は本物だよ。絶対に離れたらダメだ」
梢は眉をひそめた。
確かに理恩はあの禍々しい空気の中、妙に冷静だったし、倒れた梢を保健室まで運んでくれた。見た目よりも頼れる男ということは、少しだけ……ほんの少しだけだがわかった。
祖母が本物だと言うのなら、霊能力者として力が強いのも本当なのだろう。
「……せめてイケメンだったら」
ため息とともに吐き出した言葉は、リビングからかけられた母の声に掻き消された。
「梢―? ご飯できたからお母さんに運んでくれる?」
「はーい!」
梢がそう返事をし、祖母の部屋から出ていこうとした時、祖母が梢を呼び止めた。
「ああ、それと」
「ん?」
「“黒猫”には用心しなさい」
黒猫。
そういえば旧校舎に入る時に目の前を横切ったのは黒猫だったことを思い出した。
***
翌日、昼休み。
結局、梢は理恩の言う通り小嶋周を昼食へ誘い、中庭へと来ていた。
すでに桜の花びらは枝から離れ、芝生の上に花を咲かせている。
「梢ちゃんは積極的なんだね」
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