ガーゴイルスレイヤー
「遺跡を発見しました。かなり古い遺跡で、扉の横には2体の石像が設置されています」
「たぶんガーゴイルだな」
「でしょうね。近づくと襲われるから、少し離れて石像を判定」
「石像に擬態しているガーゴイルの正体を見抜くことはできません」
「ガーゴイルはPCが近づかない限り、石像のフリをしてるんですよね?」
「はい」
「なら遠距離から先制攻撃できるわね」
「……できますね」
「じゃあ魔法拡大/数の戦闘特技を使って、シュートアローでガーゴイル2体を同時に攻撃!」
「私も」
シュートアローは妖精魔法レベル6。
矢を魔法の力で飛ばして物理ダメージを与える魔法だ。
「シュートアローを使うのなら、今回は少し変わったシステムで戦ってもらいます」
「どういうシステム?」
「ダーツです」
「は?」
「ダーツの的は1から20点まであるので、ターゲットペーパーを使いましょう。これなら1~10の数字が書かれているので、+2すれば2dと同じ感覚で判定できます」
「……なるほど、そういうシステムか」
「ちなみにシュートアローは必ず当たる魔法なので命中判定は必要ありません。物理ダメージなので防護点が適用されます」
「HP低いから楽勝でしょ」
2人連続でダーツを投げる。
「あ、クリティカル」
「ガーゴイルAが落ちました」
「やった!」
続いてBを攻撃。
「3足りません」
「1ターンキルは無理だったか」
だが次のラウンドで落とせるので問題はない。
……かと思いきや、
「ここでなぜか倒したはずのガーゴイルAが復活します」
「ええ!?」
「……これはあれね。2体同時に倒さないといけないやつ」
「あー、そういうことか」
デジタルのRPGではそういう敵がたまに出てくる。
……というか国民的RPG『最後の空想5』のガーゴイルがまさしくそれだ。
「攻略法が単純すぎましたね」
「そうね」
ガーゴイルAのHPは元に戻ってしまった。
だがこちらは遠距離から攻撃している。
ガーゴイルは飛べるものの、擬態していたので飛行状態ではない。
なので移動力が足りず、1ラウンド目はこちらに接近して攻撃することができない。
「楽勝ね」
2ラウンド目でガーゴイルのHPを調節し、3ラウンド目で2体同時に倒す。
攻略法さえわかれば怖くない。
2発殴られたものの、大したダメージも受けなかった。
「じゃあ遺跡に突入」
「大きな部屋に宝箱が1つだけあります」
「……怪しいわね」
「宝箱にカギや罠は?」
「カギはかかっていませんが、罠が仕掛けられていました」
「じゃあトラップ解除ね」
ころころ
……2人とも失敗。
「いきなり罠にかかるのは痛いな。開けるなら帰りにしよう」
「でも最初の部屋にわかりやすく配置されてるのよ。遺跡を探索するのに必須なアイテムかもしれないじゃない」
「……たしかに。仕方ない、開けるか」
再び罠解除判定をすることにした。
ちなみに2度目の解除判定で失敗した場合、問答無用で罠が発動する。
罠が発動するのはあくまで『同じPCが2度失敗した場合』だけであり、PC全員が1度目の解除判定を失敗しても罠は発動しない。
PCに優しいシステムだ。
爆発して巻き込まれたら困るので、トラップを解除している間は距離を取っておく。
ころころ
「あ」
「トラップ発動。精神抵抗力判定をしてください」
ころころ
「判定失敗。毒ガスが噴出して正気を失いました。シュートアローで味方を攻撃します」
「げ!?」
「今回もダーツを使う特殊ルールで、達成値の比べあいになります」
「何の達成値?」
「算出ダメージですね。2人が同時にシュートアローを放ち、矢が空中で激突するというシチュエーションです。算出ダメージの高いほうが勝ち。相手を上回っている分だけダメージを与えられます」
「つまり俺が10ダメージで、瑞穂が8ダメージだったとしたら、2ダメージ与えられるってことですか?」
「そういうことです。ちなみに精神抵抗力判定は毎ラウンドあり、1ラウンドごとに+1されます」
「……ようするに判定が成功するまでの間、攻撃され続けるってことか」
「そういうことです」
あくまで精神抵抗力判定が成功するまで自分へのダメージを軽減するのが目的なので、こちらが大ダメージを叩き出してはいけない。
相手がクリティカルを出してきたとき、いかにダメージを削るか。
それが重要だ。
お互いにHPは33。
そう簡単には死なないだろう。
「でも空中で矢が激突することなんてあるの?」
「シュートアローは必中の魔法ですから」
絶対に当たることを前提にしたシチュエーションらしい。
「……ん? これ、瑞穂がわざと的を外せばノーダメージで切り抜けられるんじゃないか?」
「あ」
「混乱したPCのダーツはGMが投げるのでそれは不可能です」
「ちっ」
やはりノーダメージで切り抜けられるほど甘くはなかった。
お互いにダーツでチクチク刺されること数回。
ころころ
「精神抵抗力判定に成功。正気に戻りました」
「やった!」
宝箱から矢を120本入手する。
セッション前に先生から渡されたキャラクターシートを見ると、矢を12本収納できる矢筒を1個、24本収納できるえびらを2個装備している。
……嫌な予感しかしない。
ガーゴイルに同士討ちと序盤から厄介な展開が続いたものの、その後は特に難しい仕掛けもなく、順調に遺跡の最深部へ。
「宝箱を発見しました」
「カギと罠は?」
「ありません」
「じゃあ開ける」
「宝箱にはぎっしりと魔晶石が詰まっていました」
魔晶石はMPを代替できるアイテムだ。
戦闘でMPが足りなくても、魔晶石を割れば魔法を発動できる。
「ぎっしりって、具体的にどれぐらい?」
「総額15万G相当の魔晶石です」
「おお!」
「正真正銘のお宝ね」
「……でも魔晶石ってのが気になるな」
「なんで?」
「お前がGMなら、どういう時に大量の魔晶石を宝箱の中に入れる?」
「あ」
「……宝箱の中身で展開を予想しないでください。まあ、正解なんですが」
「やっぱりか!」
敵が来る前に魔晶石を2人で分けておく。
半分とはいえ75000Gだから相当な量だ。
「宝箱に仕掛けがあったようで、通路からガーゴイルの集団が現れました。その数6体」
「6体!?」
「……魔法拡大/数で魔法を撃つ対象を一体増やすたびに消費MPは増える。魔晶石を割って、ガーゴイルをまとめて攻撃しろってことか」
シュートアローの消費MPは6。
魔法拡大で対象を1体増やすごとに消費MP+6。
シャレにならない。
距離があるのでこのラウンドに殴られることはないが、次のラウンドでは攻撃される。
ころころ
「よし、先制取った!」
「HP低いからそこまで難しくはないけど、失敗したら痛いわね」
同じラウンドに倒せないと復活するのがこわい。
「くそ、なるようになれ!」
魔晶石を割り、なかばヤケクソ気味にダーツを投げまくる。
「よし、クリティカル!」
ダーツで重要なのは同じ場所を狙うこと。
中央(ブル)をずっと狙い続けることで、命中精度が飛躍的に増していった。
おもしろいようにクリティカルへ刺さる。
しかも、
「パリーン!」
魔晶石を割りまくり、限界まで攻撃対象を広げてガーゴイルを撃つ。
「援軍が現れました」
「くそ!」
さらにダーツを投げまくる。
ここまで大規模に、そして一方的に攻撃しまくったことはない。
シチュエーションはひどいが、なかなかスリリングなイベントバトルだ。
問題があるとしたら、
「……MP1~5点の魔晶石を買う場合、1点につき100Gかかる。6~10の場合は1点につき200G。5点上がるにつれ100Gずつあがっていくってことは……」
冷や汗を垂らしながら電卓をはじく。
結果は絶望的だった。
「PC2人で魔晶石割ったら1ラウンドでほぼ5万じゃない!」
「戦利品がたくさん手に入りますよ?」
「ガーゴイルの戦利品なんてショボイのしかないじゃないですか!」
「経験点もがっぽりです」
「ガーゴイルじゃ、たいして経験点たまらないでしょ!」
「PCよりもレベルの低い敵を倒すのに、15万の魔晶石を全部割らせるっていうのがひどいな」
「……ひどいっていうか笑うしかないレベルね」
「楽しんでいただけたのなら幸いです」
「いや、楽しくて笑ってるわけじゃないから!」
引きつった笑顔でガーゴイルを蜂の巣にする。
何匹か仕留めそこなったものの、致命傷には至らず、なんとかガーゴイルを殲滅して無事に遺跡を脱出した。
相当な数のガーゴイルの集団を倒したので、遺跡を管理していた冒険者ギルドから相場の倍になる特別報酬も入手。
剣のかけらは1つも入手できなかったが、経験点もそこそこ入ったので魔晶石のことさえ考えなければ悪くない。
問題は色々あったものの、ダーツの戦闘も風変わりでゲームを堪能できた。
「この戦闘システムならTRPGでプレイするより、ダーツの競技にしたほうが面白いんじゃないの?」
「そうですね。もともとゼロワンをモデルにした戦闘方法ですし」
「なるほど。ゼロワンのバーストを、2体同時に倒さないと復活するに置き換えたのか」
ダーツのゼロワンは減点式のゲームで、101や201のような『下2ケタが01の得点』を先に0にしたプレイヤーの勝ち。
勝利条件はあくまで0にすることであり、101をオーバーすると『バースト』して、そのラウンド開始時点の得点に戻る。
つまりラウンド開始時点の得点が41なら、60点取ってもクリアにならず、また41からやり直しになる。
ガーゴイルはゼロワンの応用で、1体目を倒しても2体目を倒すことができなければ、1体目はラウンド開始時のHPに戻って復活するのだ。
「2人のプレイヤーがそれぞれ別のガーゴイル×2と戦って、先にガーゴイル×2を倒したほうが勝ちってシステムにしよう。これならダーツゲームとして成立するはずだ」
ガーゴイルはレベル3なので、剣のかけらを入れてHPを+15してもいい。
これで難易度を調節できる。
ゼロワンならぬフォーティーワンだ。
ダーツゲームなのでガーゴイルの攻撃は省略されてしまうものの、レベル6のフェアリーテイマーならHP33前後だ。
ガーゴイルの命中は5、フェアリーテイマーの回避も5。
数値が同じなら2回に1回は外れる。
ガーゴイルの攻撃力は2d+4。
2dの期待値は7なので11。
防護点2を引いて9ダメージ。
フェアリーテイマーを倒すには4回当てないといけない。
2回に1回は外れるので8回攻撃する必要がある。
ようするにガーゴイルを倒すのに必要な平均ラウンド数以内にフェアリーテイマーが倒されることはない。
このダーツゲームにおいて、ガーゴイルの攻撃は無視しても特に問題ないのだ。
「何かつまみながら投げるか」
「じゃあクッキーがいい!」
「あいよ」
シンプルなバタークッキーにする。
飲み物はタンポポコーヒーだろうか。
香ばしい匂いが特徴で、バターをたっぷり使ったスイーツと相性は抜群。
1つ食べ始めたら止まらなくなるパターンだ。
コーヒーほどの苦味はないので後味もいい。
「ラブアローシュート!」
クッキーをつまみながら、3人でそれぞれ別のガーゴイル×2と戦う。
瑞穂は明らかにクリティカル狙いだった。
うまいプレイヤーならクリティカルを連発し、1ラウンド目でクリアするのも不可能ではない。
だが、
「あああ!? せっかく1ターンキルできたのに! 失敗した失敗した失敗した!」
まぐれで1体目を1ラウンドで落とせても、初級者が2体同時に落とすのは難しいだろう。
結局、1体目のガーゴイルは1ラウンド開始時のHP(要するにノーダメージ)に戻ってしまう。
「次は俺か」
HPは26しかないので、初級者でも2ラウンド目で倒すのは不可能ではない。
しかし2ラウンド目で確実に倒せるかというと微妙だ。
1体目は倒せたとしても、2体目を倒し損ねれば復活してしまう。
2ラウンド目で倒しにいかず、HPを地道に削れば初級者でも3ラウンドで確実に倒せるだろう。
リスクを承知で2ラウンド目で倒しにいくか、確実に3ラウンド目で倒すか。
それが問題だ。
ここは2ラウンド目で倒しに行く。
ダメージが回らなければ3ラウンドに切り替える。
先生も同じ作戦のようだ。
「ちっ」
2ラウンド目、思うようにダメージが伸びなかった。
倒すのは3ラウンド目になるだろう。
先生も1ラウンド目でほとんどHPを削れていない。
おそらく引き分けだ。
「……魔法拡大/数、ガーゴイル3体にシュートアロー」
「は?」
「ここで先生がアユ太君のガーゴイルAを落とせば、ガーゴイルAは2ラウンド開始時のHPに戻ります」
「そういうゲームじゃないですから、これ!」
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