ドラゴンライダースレイヤー
「プロセルシア帝国の神都ラースでは、皇帝即位1周年のお祭りが開催されていました。目玉はトーナメントです」
「天下一武道会?」
「いわゆる『騎乗試合(ジョスト)』です。まずは上空へ矢を放ち、2機のドラゴンライダーが矢の周りをぐるぐると旋回、タイミングを見計らって円の中心へ突撃し、すれ違いざまに騎乗槍(ランス)で相手ライダーを落とす競技です」
「なにそれ格好いい」
「ロック・ユー!」
「相手を落とせなかったら再び矢の周りを旋回し、矢が地面へ落ちるまで何度も突撃を繰り返します。矢が地面に落ちるまでに決着がつかなかったら両者とも失格。引き分けはありません。ドラゴンへの攻撃と、ドラゴンによる攻撃は禁止。ライダーの『操獣』技能と槍さばきの勝負です」
「攻撃禁止ならドラゴンじゃなくてもよくない?」
「プロセルシアはドラゴンが爵位の証なんだよ」
「ほわい?」
「騎乗しているドラゴンが強いほど爵位が高くなり、ドラゴンの縄張りが広いほど領土も広くなります。爵位=ドラゴンであるため、ドラゴンが死ぬと爵位も領地も没収、さらにドラゴンの後を追って殉死(じゅんし)しないといけません」
「じゅんし?」
「ハラキリ!」
「微妙に違う」
「そうですね。殉死は主の後を追って死ぬことです」
「うげ……」
文字通り主君に命を捧げていることの証明、あるいは主君があの世に行っても寂しくないように後を追うことだ。
身近な例だと古墳に殉死した奴隷などが埋められている。
さすがに毎回大量の奴隷を殺すのは非効率的なので、後世では人間の代わりにハニワを埋めるようになった。
「現実世界でも戦争で馬を攻撃しないことがよくありました。馬が貴重な財産だからですね。なのでプロセルシアでは、トーナメントでも戦争でも相手のドラゴンを無闇に傷つけてはいけません」
「へー」
「ただし現在では、というかこのシナリオのオリジナル設定ですが……。新皇帝によって殉死が禁じられています」
「当然といえば当然だな」
ハニワが生まれた理由と同じだ。
ドラゴンが死ぬたびにライダーが殉死していたら、どんどん優秀なライダーがいなくなって蛮族とも戦えなくなる。
誰も得しない。
「一流のライダーは『ドラゴンに手を出すべからず』という鉄の掟をも逆手に取ります。たとえばドラゴンが空を飛ぶとき、空気抵抗を少なくするために首をまっすぐに伸ばしていますよね? ジョストでは減速覚悟であえて首を上げます」
「あ……。ドラゴンへの攻撃は禁止されてるから、首を上げるとライダーの体が後ろに隠れて突けなくなるのね」
「はい。ドラゴンの首で正面からの攻撃を防ぎ、首の陰から槍を突き出す。あるいはすれ違う瞬間に真横から相手を突く。もしくはすれ違う寸前に首を下げて正面から攻撃。木製の槍を『く』の字にしならせて、首を器用に避けながらライダーを突くテクニックもあります」
「至近距離(クロスレンジ)だと接触(クラッシュ)するのデハ?」
「でかいからどうしても翼が当たるよな」
「すれ違う瞬間に翼を折りたたんだり、ドラゴンの体を横に傾けるのがセオリーです。上下逆さまになることもありますね。……ネタが細かすぎるので今回の戦闘システムでは再現できませんでしたが」
悔しそうに拳を握る。
なんとかドラゴンジョストを再現しようとしたものの、処理が煩雑になるので途中で断念したらしい。
「トーナメントに参加しますか?」
「……すればいいんでしょ」
どう考えても『しない』といえる雰囲気ではない。
戦闘システムが無駄になってしまう。
「では登録しましょう」
ホワイトボードのトーナメント表に名前が書かれた。
優勝するには最低でも3回勝たないといけない。
長くなりそうだ。
「やあやあ我こそはケノン・ヘプタ伯爵なり! 派手な仮面をかぶり、槍を高々と掲げながらライダーが入場してきました」
「仮面のライダー?」
「龍騎(ドラゲナイ)!」
……かなり権利的に危ないネタを放り込んできた。
「ん? 伯爵ってことはノーブルドラゴンか!?」
「ふぁっ!?」
「こっちに勝ち目ないじゃない!」
高レベルドラゴンに乗るには高レベルライダーでなければならない。
騎獣を見ればライダーのレベルがわかるということだ。
「さすがにノーブルドラゴンを制御できるライダーはプロセルシアにもほとんどいません。ライダー技能レベルによってドラゴンを従えているというより、伯爵だから仕方なく背中に乗せてやっている感じですね。本気で飛ぶと伯爵が落ちてしまうので、性能的にはドラゴネットと同じです」
「よかった……」
本来はドラゴンに認められなければ背中には乗れない。
だがドラゴン=領土=爵位=権力という土地柄のため、ドラゴンも土地や権威、人間への愛情、安定した生活などに縛られてしまう。
だから伯爵家に対して忖度(そんたく)して低レベルライダーも背中に乗せているらしい。
まともにドラゴンに乗れない貴族が多いこの時代。
ノーブルドラゴンの力をドラゴネット(10~12)レベルまで引き出せる伯爵はかなりのライダー技能を持っている。
油断はできない。
ころころ
「知識判定成功。伯爵のデータはサンプルキャラとほぼ同じです」
「レベル11か」
同じデータということは、先に攻撃したほうが圧倒的に有利。
先手必勝だ。
「先制判定に負けるとやばいぞ」
「先制判定は変則的なものになります」
「え」
「ジョストには3つの行動パターンしかありません。チャージ、回避、そしてカウンターです」
「チャージは助走して追加ダメージを増やす特技だっけ?」
「はい」
チャージでは5m走るごとにダメージが+1される。
助走が必要な技なので、一度チャージしたら敵から距離を取らないとチャージできない。
わざわざ敵から距離を取ってまでチャージすることはないから、敵を吹っ飛ばしたり、敵が逃げたりしない限り、1人の敵には一度しかチャージしない。
状況によってはぜんぜん使えない技だ。
「ジョストは矢の周りを回っているので、お互いにタイミングを合わせないといけません。相手が中央へ突撃したら、自分も突撃しないといけないわけですね。だいたい先に突撃したほうがスピードに乗っていますから、チャージによる追加ダメージが発生するのは先手だけです。この競技は決着がつくまで旋回しながら円の中心へ突進し続けるので、何度でもチャージが使えます」
「永遠(エターナル)チャージ!?」
「……目が回りそう」
「ジョストでは毎ラウンド、GMとPCが同時に1dを振ります。サイコロの目1あたり5m、つまり6を出せば30mになり、チャージの追加ダメージが6になります。出目の大きいほうが先手になり、攻撃にチャージが乗ります。同値の場合は振り直しです」
「移動力25mしかないんだけど」
「スピードポーションを飲めば6ラウンドの間+5mになります」
「先制判定で負けたほうはどうなるんですか?」
「回避かカウンターを選択します」
「カウンターはグラップラーの技(アーツ)では?」
「お互いが飛行状態でないと使えない、このシナリオのオリジナル流派の奥義です。習得条件はライダー技能と武器習熟A/スピアだけなので、グラップラー技能やカウンターは必要ありません」
カウンターは敵の攻撃に対し、回避ではなく命中で判定をする変わった戦闘特技だ。
こちらの命中が相手の命中を上回っていれば、敵の攻撃を避わしつつ相手を攻撃できる。
ただし失敗したら敵の攻撃が直撃し、その後のダメージ判定を『12』として計算しないといけない。
つまりカウンターに失敗したら12(2dの最大ダメージ)を食らう上に、クリティカルなのでさらに追加ダメージを食らってしまう。
命中でかなり相手を上回っていないと使いにくい技だ。
「ジョスト・カウンターはC値-2です。しかもこの効果はラウンド終了まで継続します」
サンプルキャラのC値は9。
ダメージ判定でクリティカルが出たら、もう一度2dを振ってダメージを追加できる。
なんらかの効果でC値を減らしても、クリティカル時のダメージ判定ではC値が元に戻るのが普通だ。
だがジョストカウンターではクリティカル時のダメージ判定でもC値が-2になるらしい。
C値-2なら2dの期待値7でクリティカルが発生する。
2dで7を出し続ける限りダメージを追加できるので、かなり強力な技だ。
「ちなみにジョストではクリティカルを3回出すと相手を落馬させられます。このクリティカル回数は累積されます」
「カウンター一択じゃない」
「そうかもしれませんね」
○ジョストの流れ
1dでチャージと先制判定 → 回避かカウンターを選択 → 以下繰り返し
ころころ
「あ、先手ゲット」
「回避します」
ころころ
「ひらり」
あっけなくチャージを避わされた。
再び先制判定になる。
「ではジョストの流れを理解したところで、そろそろ本気で行きましょう。括目(かつもく)せよ、これがノーブルドラゴンの『スーパーチャージ』であーる!」
「スーパーチャージ?」
「回避が4下がる代わりに『全力移動』でチャージできる技です」
「全力移動って……通常移動の3倍!?」
「1dでは足りないので2dで先制・チャージ判定をします」
「最大追加ダメージ+12!?」
「いえ、飛行時の全力移動なら75m飛べるので、6ゾロが出た場合の追加ダメージは+15です。あ、スピードポーション込みなら+18ですね」
「バカじゃないの!? しかもこっちのサンプルキャラ、スーパーチャージ持ってないじゃない!」
「あんふぇあ!」
スーパーチャージを持ってないということは、先制・チャージ判定で1dしか振れない。
先生がスーパーチャージを使ってきたら、1d対2dになるのでほぼ確実に先手を取られる。
「あ、ちなみにスーパーチャージで下がるのはあくまで回避です。カウンターは命中で達成値を比べあうので-4にはなりません」
「うわあ……」
相手にスーパーチャージがある以上、正面からの殴り合いでは勝てない。
ということは、
「ふふ、頑張ってカウンターを決めましょう」
「わかってるわよ!」
もともとカウンター有利のシステムだ。
最初の判定で先生は後手になったのにカウンターを使わなかった。
おそらくそれがハンデなのだろう。
……ただしカウンターに失敗したら、確実にスーパーチャージのクリティカルを1発食らう。
滅茶苦茶な戦闘システムだ。
ころころ
「ジョスト・カウンター!」
クリティカルによる落馬狙いでジョスト・カウンターを連打。
同値だと回避されてしまうものの、そこまで分の悪い賭けではない。
運がよければ勝てる。
……はずなのだが。
「り、リカバリィ!」
リカバリィなどで毎ラウンドHPを回復できるとはいえ、スーパーチャージの追加ダメージ&カウンター失敗時の自動クリティカルがでかすぎる。
次に直撃を食らったら死ぬだろう。
仮にカウンターを成功させようと、クリティカルが出なかったら終わりだ。
ころころ
「ジョスト・カウンター!」
「ナイスショット!」
何とかカウンターは成功した。
あとはダメージ判定だ。
C値=期待値なので確率的には安全圏。
勝てる。
だがそういう邪心を持つとたいていろくなことにならない。
「……あれ? これただのイベントなんだから、別に負けてもペナルティないのよね?」
「参加費で1000G取られたぐらいですね」
「なーんだ。どうせ最後まで勝ち抜くの無理だし、緊張して損したわ。てい!」
ころころ
「おおう!?」
まさかの6ゾロ。
「クリティカルヒット!」
無欲の勝利だ。
「こ、こんなはずでは!? 木製のランスが金属鎧の胸部をとらえ、ランスが砕け散りました」
ジョストの映画を見ればわかるが、疾走する馬上で全体重をかけた一撃が金属鎧に当たると木製のランスは衝撃で砕け散り、ライダーは吹っ飛ぶ。
想像以上に格好いいので一度は観ておくことをオススメする。
ドラゴンライダーは相手が落ちるまで、空中で何本もランスを持ち替えて相手を突くのだろう。
何発ランスを食らおうと、意識を失わない限り決して手綱を離さない。
死闘だ。
「気絶した伯爵がノーブルドラゴンから落馬しました。ノーブルドラゴンが慌てて伯爵を助けに行きますが、試合が長引いていたため地面は目の前」
「え」
「ぐしゃっと鈍い音が会場に響き渡りました」
「死んだ!?」
ころころ
「受け身判定でもダメージを減らせませんでしたね。頭から地面に突っ込んで即死です」
「……どっちが?」
「ノーブルドラゴンです」
「じーざす!」
死んだのが伯爵なら試合中の不幸な事故で話がつく。
跡継ぎで揉める程度だろう。
しかしドラゴンが死んだとなるとシャレにならない。
最悪、爵位も領土も没収。
領土にレッサードラゴンかドラゴネットがいれば乗り換え可能だが、ドラゴンの格=爵位なので、子爵以下に降格させられて領土も大幅に削られるだろう。
しかも皇帝によって殉死さえ禁止されており、伯爵は名誉の死さえ許されない。
「殉死の認められていた時代では、殉死しなかったドラゴンライダーは罪人でした。ドラゴンスレイヤーとして暴竜(マローダー)という、理性を失って暴れるドラゴンを退治しないといけません。もしドラゴンを殺さなかったり、ドラゴンに騎乗したりしたら、ドラゴンスレイヤーは呪いによって死んでしまいます」
「ええ……、なにその無茶苦茶な掟」
「だから皇帝が改革したんだろ」
ドラゴン信仰の厚いプロセルシアにおいて、『失騎者』やドラゴンスレイヤーはそれほどの不名誉なのだ。
「ところが伯爵は皇帝の命に背き、ノーブルドラゴンの遺骸の前で殉死します。ドラゴンと添い遂げずして何がドラゴンライダーか!」
「あ、これやばいやつだわ」
「さらに伯爵領ではノーブルドラゴンと伯爵さまの後を追って我らも殉死すべきだと議論が白熱」
「うああ、泥沼化してきたぞ」
「注意(わーにんぐ)!」
「不穏な気配を感じた皇帝が改めて殉死の禁令を出したものの、これが見事に逆効果。伯爵領では殉死が続発。とうとう討伐軍が差し向けられることになりました」
どうしてこうなった。
……たぶんジョストで勝たなくても、何かの拍子で誰かのドラゴンが死ぬシナリオだったのだろうが。
それでも後味が悪い。
たぶん元ネタは森鴎外の小説『阿部一族』だろう。
細川忠利の遺言『生きて新藩主を助けよ』に従ったのに『周りはみな殉死したのにお前は何をやっているのか』とそしられ、怒って腹を切ったら『藩主の遺命に背いた』と難癖をつけられる。
やがて阿部一族は屋敷に立てこもり、藩の差し向けた討ち手と戦って滅亡した。
救いようのない物語だ。
個人的には忠臣蔵の後に読む(あるいは『神器なき戦い』や『異世界転生』で有名な映画監督によるドラマ版を見る)のがオススメである。
かたや主のために仇敵の屋敷へ討ち入り、かたや屋敷に立てこもって主からの刺客を迎え撃つ。
対照的だ。
「PCには2つの選択肢があります。1つは伯爵家に加勢すること。もう1つは討伐軍に加勢すること。もちろんどちらにも参加しないという選択肢もあります」
「伯爵家に加勢したら逆賊ですよね?」
「はい。下手をしたら賞金首になります」
「……どうすればいいのよ」
「介錯(カイシャク)つかまつる!」
アリスが手刀ですっと首を切るしぐさをした。
「……まあ、俺たちがノーブルドラゴンを殺したのがそもそもの原因だからな。骨は拾ってやろう」
「殺したの私じゃないから!」
とりあえず方針は決まった。
伯爵家のお偉いさんの首を切り(1つ間違えたらこれも殉死になりそうだが)、討伐軍が一族郎党皆殺しにする前に女子供を保護する。
爵位と土地を失うのは避けられなくても、野生のドラゴンを自力で捕獲すれば子爵にはなれる(ライダーギルドからドラゴンを買うという選択肢もありそうだが、それでプロセルシアの爵位をもらえるのか怪しい)。
一応ドラゴン捕獲までは手伝ってやろう。
「では『ヘプタ攻城戦』を始めましょう! ルールは2.5のリプレイ『水の都の夢みる勇者』2巻で採用されていた『友軍指揮』とほぼ同じです。敵味方ともに100の兵力があり、基本的に兵力1で敵兵を1人倒せます」
「それ、1人1殺すれば簡単にクリアできない?」
「いえ、相手が空を飛んでいたり、城壁の上にいたりすると状況的に不利なので、1人倒すのに兵力が2必要になります。それと範囲魔法を使えば、1人で敵を2体倒すことも可能です」
「ふむふむ」
「行為判定をした兵士は疲労により行動不能になります。つまり敵にやられなくても兵力が1減るわけですね」
「兵士のレベルと能力は?」
「レベルは全キャラ固定。エルフのファイターやドワーフのシューターのように、プレイヤーが種族や職業をカスタマイズして雇えます。騎獣もライダーギルドからレンタルできますが、ドラゴンは10匹まで、城門を破壊できる象戦車(デモリッシャー)は1匹しか雇えません」
「あー、なるほどね。だいたいわかったわ」
絶対こいつはわかってない。
「マップをぷりーず」
「どうぞ」
□□□□□□□□□
□壁壁壁壁壁壁壁□
□壁 壁□
□壁 壁←壁の上にシューター×30
□壁 壁□
□壁 壁□ 壁の周りをドラゴンライダー×10が巡回
□壁壁壁門壁壁壁□
□□□□橋□□□□ 城内にはファイター×10とソーサラー×40
□□□□橋□□□□
□は水
城壁(壁)
グラスランナーのシューター×30
城壁の上にずらっと配置されている。
城壁はかなり高いため、倒すには2倍の兵力が必要(一人倒すのに兵力が2必要)
堀
城壁の周りは水で満たされている。
人間のドラゴンライダー×10(ドラゴンにライダーが乗っているので総兵力は20)が巡回している。
戦闘力は通常兵士の4倍(一人倒すのに兵力が4必要)
城内
ドワーフのファイター×10
エルフのソーサラー×40 魔法で攻撃されると兵力が2減る
門
兵力100
内側から鍵がかけられている。
内側から開けるか、デモリッシャーのチャージで壊すしかない。
「城門を壊すためにデモリッシャーを派遣しても、橋の上でシューターとドラゴンライダーに襲われる、か」
「正攻法でいいんじゃないの? ドラゴンライダーはドラゴンライダーで倒す。城壁のシューターは魔法使い1人の範囲魔法で2人ずつ倒す」
「マジックは『グラスランナー』に無効化(キャンセル)されマス」
「え?」
「シューターの種族はグラスランナーです。グラスランナーはMP0の小人。魔法を使えない代わりに『精神抵抗に成功すると魔法を消滅させる』種族特性があります。なのでグラスランナーを魔法で攻撃しても、2人に1人は精神抵抗で魔法を無効化してきます」
「グラスランナーは魔法で範囲攻撃できないってこと?」
「はい。魔法では1人しか倒せず、城壁シューターはソーサラーを2人倒せます」
「……シューター30体いるのに魔法が効かないって」
「ドラゴンライダーを倒すのにドラゴン10匹とライダーが10人必要。城壁のシューター×30を倒すのにシューターが60人いる。デモリッシャーを動かすのにライダーが1人いるから、残りの兵力は18。……さて、どうやったら城内のファイター×10とソーサラー×40を兵力18で倒せると思う?」
「GMを殴る」
天才あらわる。
「最難関はドラゴンライダーだな。こいつらを何とかしたい。こっちのドラゴンライダーを温存できれば、ライダーで城壁のシューターを倒せるはず」
「えーと、ドラゴンライダーを1体倒すには4人必要。魔法でライダーを2体同時に攻撃すれば、4人で2体倒せるわけだから……。ソーサラー20人でドラゴンライダー倒せる?」
「無理です。ドラゴンライダー1体でソーサラーが4人倒されますから」
「……どうしようもないじゃない」
「ソーサラー40人でドラゴンライダー倒すとして、こっちのドラゴンライダー10体でシューターは何人倒せますか?」
「20人です」
「……残りシューター10人を20人で倒すと、40+20+20で80。デモリッシャーとライダーを使うと残り兵力18」
「さっきと同じじゃない!」
なかなか突破口が見つからない。
「エルフで堀を泳いでウォールウォーキング」
「いくらエルフが泳ぐのが得意でも、泳いだ直後に魔法で壁を登ってシューターを倒すのは無理があります。そもそも登っているときは無防備ですし」
あらゆる方向からドラゴンライダーやシューターを倒そうとするものの、たった一つの冴えたやり方は見つからなかった。
「糖分補給しましょ」
「そうだな」
打開策が見つからないので小休止。
作るのは面倒なので、もうすぐ保存期限が切れそうな乾パン(非常時用)にする。
「……ぶろっく」
「思ってたより固いな。お汁粉で煮るか」
「え、なにその変な食べ方」
「空母・赤城方式だ。昔の乾パンはこんな風に固くて食べにくかったから小豆で煮たらしい」
「へー」
カボチャで作ってもうまい。
というか普通はカボチャで作ったものを小倉煮と呼ぶ。
乾パンの塩気と小豆の甘さがちょうどいい。
「……あれ、なんか普通に食べられる」
「牛乳を混ぜても美味しそうですね」
「ジャパニーズ・シリアル」
「ちなみに重巡洋艦・摩耶(まや)ではうどんにお汁粉をかけてたらしいぞ」
「それはいらない」
「ちっ」
同じく余り物のうどんは自分で処理することにした。
これは『あずきおふと』と呼ばれるもので、東北ではこういう風にうどんを食べる人がたまにいる。
ある意味、お汁粉の餅や白玉がうどんに変わっただけだ。
コシのあるうどんにすれば食感も楽しめる。
煮てよし、かけてよし、飲んでよし。
それがお汁粉である(いつの間にかメインが乾パンからお汁粉に代わってしまったが、うまいので問題ない)。
「さて……」
伯爵領攻略に戻る。
一息入れたのでだいぶ頭も回るようになってきた。
「ソーサラーをドワーフにしまショー」
「は?」
「それだ! ドワーフは種族特性の『炎身』で炎の攻撃が効かない。ドラゴンの炎のブレスを無効化できる。ドワーフのソーサラー×20で集中攻撃だ!」
「ドワーフのソーサラーが20人も集まって魔法を唱え始めたら、ドラゴンライダーもUターンしますよ?」
「ぐぬぬ!」
ドラゴンライダーもブレスの効かないドワーフが天敵だとわかっているし、それが20人も集まって魔法を唱え始めたら逃げるのも当たり前。
さすがに一筋縄ではいかない。
「ではライダーをドワーフにしまショー!」
「お、こっちもドラゴンライダーなら逃げられる心配がない。しかも相手のライダーは人間だからブレスが効くぞ!」
「あ、本当だ!」
「それにライダー技能には二人乗りの『タンデム』もある。ドワーフの二人乗りライダー1体で2体のドラゴンライダーを倒す!」
「……ドラゴネットは3部位のモンスターです。ライダーを合わせると4。つまり二人乗りであっても5対4の戦いになるわけで、数的有利とは言い難いですね。ドラゴネットには炎のブレスも利きませんし」
「う……」
「ライダーにダイレクトアタック!」
「それよ! ライダーを集中攻撃して戦闘不能にしてしまえば、ドラゴンは無力化されるはず」
「野生ならともかく、騎獣なら正式な騎手以外の命令は聞かない。ライダーをやられたら棒立ちになるはず」
そもそもドラゴンライダーはドラゴンを殺せないから、ライダーのいないドラゴンは攻撃できない。
そしてライダーのいないドラゴンが、その風習を利用してこちらを一方的に攻撃することもないはずだ。
たぶん騎獣訓練を施されたプロセルシアのドラゴンなら、ライダーが戦闘不能になったら安全のために不時着するだろう。
「……わかりました。二人乗りドワーフライダー1体でドラゴンライダー2体の撃破を認めましょう」
「ぐれいと!」
これでどうにかなるだろう。
「えーと……。ドラゴン10、二人乗りだからドワーフのライダー20で合計30。まず2人乗りドワーフライダー5体でドラゴンライダー10体を潰して、残りの5体でシューター×30を叩けばいいのね?」
「ああ。二人乗りドワーフライダー5体で城壁のシューターは何人倒せますか?」
「20人です」
「残り10人か。こっちは残り兵力70だから、倍のシューター20でゴリ押すか?」
「そうね。デモリッシャーで城門を破壊しても残り48人もいるし」
「デモリッシャーはタンデムにしまショー」
「なんでだ?」
「赤穂浪士(あこーろーし)!」
「四十七士(しじゅうしちし)ですね」
忠臣蔵で吉良邸の討ち入りに参加した47人だ。
伯爵領に討ち入るなら人数を調整したほうが面白いかもしれない。
「……1人なら誤差の範囲だな。ついでに『軍師(ウォーリーダー)』にして『鼓砲』を使おう」
「こほー!」
忠臣蔵といえば陣太鼓。
ウォーリーダー技能の鼓砲は範囲内にいるPCの能力値を高める効果があるので丁度いい。
ただし効果範囲は名誉点に左右されるので、無名の人間がやっても半径6mぐらいにしか効果がない。
「魔法で2人ずつ倒せば50人なんて楽勝でしょ。討ち入りじゃー!」
「ソーサラー×40もマジックを使ってきマス」
「あ、全員で突っ込んだらこっちも魔法でやられるんだ。それなら先にソーサラー40人で相打ち。残りの7人もソーサラーにしてファイターを倒す!」
「では、こちらはPCの数で防衛に回る人数を決めることにしましょう。そちらがソーサラー40人で橋を渡ってくるのなら、ソーサラーを20人出します」
「は?」
「この戦闘システムには先制判定がありません。同時に魔法を撃つので40対20でも結果は同じです」
「なにそれ、ずるい!」
「敵地へ攻め込むとはそういうことです」
「まあ、『城攻めは敵の3倍の兵力がいる』っていうのが戦争の常識だからな」
「3倍どころかこっちは3人少ないのよ!」
こっちの出方を見て戦力を温存されると、ソーサラー×40で四十七士が潰される。
しかも残りファイター×10。
……だが我に秘策あり。
「いるだろ、ソーサラーを1人1殺できるキャラが」
「あ、グラスランナー!?」
「ざっつらいと!」
「グラスランナーのシューターでソーサラー×40の魔法を消しつつ攻撃。残りの兵力をソーサラーにして範囲魔法をかませばファイター×10もやれるはずだ」
「やれますね」
「証明終了(QED)!」
これでようやく伯爵領を攻略。
通常戦闘では味わえない頭脳戦だった。
残りはボスだけ。
「巨大なドラゴンに乗ったライダーが5機出てきました。ドラゴンとともに生き、ドラゴンとともに死ぬ。これぞドラゴンライダーの本懐(ほんかい)なり!」
「ボス5人!?」
「……まともに戦ったら死ぬぞ」
「ジョストをぷりーず」
「1対1の決闘を申し込む、ということですか?」
「イエス」
「会話の流れ次第ですね」
「伯爵はジョストで死んだんだから、汚名返上に乗ってきそうな気がするわね。……っていうかこの場合、戦うの私?」
「そりゃ、お前がノーブルドラゴン殺したわけだからな」
「殺してない!」
事実がどうであれ、こちらが仇敵であることに変わりはない。
「ここは伯爵の真似して挑発したほうがいいわね。やあやあ我こそはプロセルシア最強のドラゴンライダーなり! 遠からんものは音に聞け、近くば寄って目にも見よ!」
「最強のドラゴンライダーだと? 聞き捨てならんな」
「ふふん、この仮面を見てもそんなこと言えるのかしら?」
「え、もしかして伯爵がかぶっていた仮面ですか?」
「拾ってたことにしてもいいでしょ?」
「……データに反映されないのならOKです。そ、それは父上の仮面!? もしや貴様が!?」
「そう、私こそあなたの仇敵ノーブルドラゴンスレイヤー。伯爵の汚名を返上したければかかってきなさい。もちろんジョストでね!」
「望むところだ!」
『決闘(デュエル)!』
それにしてもこのライダーたち、ノリノリである。
「知識判定をお願いします」
ころころ
「レッサードラゴンですね」
「……伯爵よりレベル高い」
「くそ、1対1に持ち込んでも勝率が低いな」
「スーパーチャージは持っていないので次善手ではあります」
「これが次善手(ベター)なら、最善手(ベスト)はなんデス?」
「友軍指揮の残存兵力で殴る」
数は正義。
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