フォールンドラゴンスレイヤー

「今回もサンプルキャラはレベル15です」


 ……デスシナリオが確定した。

「舞台は太陽の王国こと『ラ・ルメイア王国』。太陽神ティダンのプリースト技能を取れば色々と便宜を図ってくれるでしょう」

 遠回しに『キルヒアやライフォスのような便利な神ばっかり信仰するな』と言っている。

「ではティダンを取って『エクソシスト』になりマス」

「エクソシストって悪魔祓い師だっけ?」


「いえ、ソードワールドでは『不死殺し』と書いてエクソシストと読みます。ティダン教のアンデッドスレイヤーですね」


「へー」

「なら俺もプリースト技能を1だけ取って『聖騎士(パラディン)』になろう」

「あ、2人だけずるい!」

「お前も取ればいいだろ」

「メテオストライク撃ちたいから今回はソーサラーなのよ!」

「ならコンジャラーもMAXにして魔導師(ウィザード)になりまショー!」

「ウィザード?」


「拡張版(サプリメント)の『ウィザーズトゥーム』で導入されている魔法技能ですね。真語魔法(ソーサラー)と操霊魔法(コンジャラー)は共通点が多く、この2つの魔法技能を持っていると『深智魔法』を使えます」


「なにこれすごい! 呪文詠唱まで書いてある!」

 ウィザーズトゥームには約500種類の魔法が収録されており、詠唱が必要な魔法にはすべて呪文が書かれていた。

 たとえばファイアボールなら、


ヴェス第六階位の攻ジスト・ル・バン火炎フォレム灼熱ハイヒルト爆裂バズカ――火球フォーデルカ


 となる。

 こういう設定が好きな人間にはたまらないだろう。

「賢者じゃなくて魔導師なのもいいわね。賢者(ワイズマン)なんて堅苦しくていけねえ。私のことは大魔導師(アークウィザード)と呼んでくれ!」

「お、おう」

 なにかの漫画かゲームのネタなのだろうが、出典がわからない。

 とりあえずスルーしておく。

「そういえばパラディンってなに?」

「ラ・ルメイアのお隣の国『セフィリア神聖王国』の神官戦士だ。ティダンじゃなくてライフォスだけどな」

 エクソシストとパラディンは犬猿の仲なのだが、15レベルのティダン教徒と1レベルのライフォス教徒なので信仰の深さが違う。

 パーティー間で宗教戦争になる可能性は低いだろう。


 なおパラディンになるにはファイター技能とプリースト技能が最低でも5レベル、あとはセージ技能や一般技能の学者(スカラー)、紋章学者(ヘラルティスト)などを習得していることが望ましい。


 ただ最近は金や権力でパラディンの称号を買う者も多いので、ファイター15、一般技能のスカラーとヘラルティストを5レベルずつ取ってある俺なら特に問題はないはずだ。

「スカウトがいまセンね」

「なら俺がレンジャーをスカウトに変えとこう」

 不屈とポーションマスターがなくなるのは痛いが、代わりにファストアクションとヘイストがある。

 なんとかなるだろう。


「15レベルの依頼はめったにないので、冒険者の店で適当に時間を潰していると、いつの間にか周囲が霧に包まれていることに気づきます」


「魔法の霧?」

「今まで体験したことのない感じの不気味な霧です」

「15レベルでも未経験って……」

「やばい感じだな」

「次第に霧が濃くなってきて息苦しさを感じます。具体的に表現するとHPとMPの最大値が-2されるような圧迫感です」

「ダイスロール!」

「どうぞ」


ころころ


「『魔竜の瘴気』っぽいですね」

「げ、フォールンドラゴン!?」

「なにそれ?」

「ソードワールド2.0時代に『ドラゴンレイド』っていうイベントがあってな、それに登場したモンスターだ」

「フォールンドラゴンやダムドミアズマと呼ばれる存在からは魔竜の瘴気と呼ばれる霧状のものが噴出されており、瘴気の中に一日以上いるとHPかMPのどちらかの上限が1下がります」

「HPもMPも-2されてマスが?」

「いま発生しているのは密度の濃い瘴気なので、無条件でHPとMPの両方が2下がります。HPとMPのどちらかが5以下になると自発的な行動はできなくなり、0になると『ダムドスレイブ』というアンデッドのような存在になります。瘴気を生み出しているフォールンドラゴンやダムドミアズマを倒せば元に戻せますが、穢れが1点たまります」

「そのフォールンドラゴンっていうのを倒せばいいのね。外に出て周囲を探索!」


「市民がダムドに襲われ、エクソシストたちが処理に追われていますね。この世に太陽ある限り、悪の栄えることはなし! 我ら太陽の使徒! 悪しき存在を討ち滅ぼさん!」


 先生が左手を腰溜めに握り、開いた右手を高らかにかざした。

 ティダン教徒のポーズらしい。

「ジーク・ティダン!」

 アリスも真似して右手をかざした。

「ジーク・ティダン!」

「……お前は無神論者だろ。とりあえずザコどもを一掃しろ」

「はーい。敵の配置はどうなってるの?」

「冒険者の店から出たばかりなので……。PCを中心に、大通りの左右に敵の群れがいますね。ダムドは透明な魔晶石の涙を流しながら市民に襲い掛かっています」

「魔晶石の涙? 戦利品でそれ剥いだらMP肩代わりできる?」

「低純度のものでは無理です。高純度の涙なら普通の魔晶石と同じようにMPとして消費できます」

 ちなみに涙の魔晶石は珍しいものなので、通常の魔晶石よりも高値で売れる。

「えーと、まずは『マルチターゲット』ね」

 ウィザーズトゥームをめくりながら魔法を発動する。


ダヴ第十階位の拡ツェンド・ヌ・ナン増加ディッグ増強バルスト増加オグマンテ――重的アグランダミエ。マルチターゲット! これで範囲魔法を同時に複数の地点に撃てるから、ヴェス第十五階位の攻フィブレド・ル・バン強化ディッグ召喚イステドア衝撃ショルト破壊タドミール――隕石ステラカデンテ。左右の敵の群れにメテオストライク!」


 さっそく深智魔法を活かし、左右の敵へ同時に隕石を落とした。

「ついでにダブルキャストで左の敵にアシッドクラウド!」

「よし。なら俺は右に突っ込んでキャッツアイ(中略)、で全力攻撃3からの薙ぎ払い2、そしてフェンリルバイト! さらにファストアクションを発動して全力攻撃3からの薙ぎ払い2をもう一発!」

「ホーリーライト2!」

「フォールンはアンデッドに似てますが、穢れのないピュアソウルなので対アンデッド用の魔法は効きません」

「しっと!」

 キルヒアではないのでソーサラーもコンジャラーも使えない。

 やむなくゴッドフィストで殴り、生き残りは次のラウンドで倒した。

「エクソシストにくわしい状況を尋ねよう」

「では合流すると、エクソシストはティダンのプリーストがいることに気づきました。この世に太陽ある限り、悪の栄えることはなし!」

「ワレら太陽(たいよー)の使徒(シト)!」

「悪しき存在を討ち滅ぼさん!」

「……楽しそうだな、お前ら」

 俺もライフォスではなくティダンにしていればよかったのかもしれない。


 一人ライフォスでもティダンでもない奴がいるが。


「同じティダン教徒なのでエクソシストから情報をもらえます。どうも敵の動きが妙だ。都市を占領するには数が少なすぎるし、王族を暗殺するにしては動きが派手すぎる。これはオトリで、何か別の狙いがあるのかもしれない」

「オトリか……。狙うとしたらどこだ?」

「自分の目で確かめたほうが早いでしょ。空飛んで周りの敵をまとめて知識判定できる?」

「できます」

「じゃあ私よりセージの高いアリスにフライト!」

「あいきゃんふらい!」


ころころ


「6つの目に4枚の翼を持つ『フォールンエルダードラゴン』が、フォールンドラゴンを率いて城を襲ってますね。剣のかけらはなし、レベルは26」

「……やばい奴がいるぞ」

「少し離れた場所をフォールングレータードラゴン、といってもデータ上はレベル20のドラゴンゾンビですが……。このフォールングレータードラゴンが魔法の研究施設を襲っています。ドラゴンの上には15レベルのフロウライト」

「フロウライト?」

「『カルディアグレイス』で追加された種族ですね。生きた魔晶石と呼ばれる人族です」

「金属生命体!?」

 飲食も呼吸も必要とせず、毒や病気も無効。

 その代り薬草、ポーション、食事に分類されるアイテムなどの効果も受けられない。

 そのくせ睡眠は必要らしい。


 理由はよくわかっていないそうだが、マナの補給や魂の疲労を癒すためではないかと考えられている。


「一匹だけ群れを離れて単独行動ってのが怪しい」

「じゃあ『ディメンジョンゲート』で穴を開けて研究施設のそばまで移動!」

「視界の範囲内なので移動できますね。すでにフロウライトは内部に侵入しています」

「突入(ゴー)!」


「あ、フォールングレータードラゴンは大きすぎて室内へ入れないので外にいます。それとドラゴンから濃密な瘴気があふれているので視界が悪く、室内を覗いてディメンジョンゲートというのも無理です。それと瘴気が濃くなったので毎ラウンドHPとMPは-2」


「どうする? 俺は『影走り』があるからドラゴンの横を素通りして中に入れるぞ」

「……先手を取って殴れば簡単に倒せる相手だけど、さすがに前衛なしだとやばいんじゃないの?」

「レベル20にダイレクトアタックされたら死にマス」

「だよな」

 『インスタントゴーレム(一瞬でゴーレムを作れる魔法。ただし6ラウンドしかもたない)』で『ドラコ・プラチニジウム』を作れば壁にできるものの、素材がないから作れない。

 5部位のドラゴンに連続で殴られたら、紙装甲の魔法職は避わすこともできずに死ぬ。

 ここは俺も残って戦うしかない。

ヴェス第十五階位の攻フィブレド・ル・バン強化ディッグ召喚イステドア衝撃ショルト破壊タドミール――隕石ステラカデンテ。メテオストライク! ついでにダブルキャストからのアシッドクラウド!」

「キャッツアイ(中略)、で全力攻撃3からの薙ぎ払い2、そしてフェンリルバイト! さらにファストアクションを発動して全力攻撃3からの薙ぎ払い2をもう一発!」

「……頭部以外落ちました」

 攻撃障害がある(近接攻撃は頭部に届かない)ので1ラウンドキルはできなかったが、1ラウンドで頭部以外は完全に破壊した。

「ゴッドフィスト!」

 やはり先手を取って総攻撃すればこちらの敵ではない。


「フォールンドラゴンを倒したので霧が少し薄くなります。ただ戦闘で爆音が響きましたから、フロウライトには確実に気づかれましたね」


「研究施設に入って探索!」

「できません」

「ほわい?」

ヴェス第十五階位の守フィブレド・レ・アレ防御シルド強靭ドゥーロ守備ディフェイン遮断クロクレ――強殻トルトゥーガ。セーブ・ザ・ワールド! PCが内部へ足を踏み入れる瞬間、研究所は半球状のバリアに覆われました。物理的に侵入することは不可能です」

「ディスペルマジックとかパーフェクトキャンセレーションは?」

「あらゆる魔法も能力もシャットアウトされます。術者が解除するか、効果時間が切れるまで手出しはできません」

「ぐ、この施設で何かしてるのはわかってるのに何もできないのか!」

「しかもセーブ・ザ・ワールドが切れたらディメンジョンゲートでエスケープされマス」

 目的を果たすのを止める方法がない上に、逃亡する敵を捕まえることもできない。

 高レベル魔法使いの恐ろしいところだ。

「それからおよそ30分後、セーブ・ザ・ワールドが解除されました。外で暴れていたフォールンドラゴンたちも引き上げていきます」

「中に突入します」


「もぬけの殻ですね。おまけに研究員は皆殺し、資料は八つ裂きにされ、火もかけられています」


「最悪!」

「くれいじー!」

「いや、ポゼッションがある。研究員の霊を呼べば何をしてたのかわかるはずだ」

「じゃあ消火してポゼッション!」

「研究員の霊が降りてきました。……ああ、恐ろしい恐ろしい」

「フロウライトは何をしてたんだ?」


「……彼は魔法文明時代の文献を探していた。それも事もあろうに『流星の魔法王』の古文書を! ああ、なんということだ!」


「誰それ?」

「流星の魔法王はメテオストライクを極め、どれだけ離れた場所にいようとも正確に標的を撃ち抜いたという。伝説ではテラスティア大陸からアルフレイム大陸にいる魔法王を暗殺したらしい」

「ICBM(インター・コンチネンタル・バリスティック・メテオストライク)!?」

「なにそのめちゃくちゃな魔法!」

「メテオストライクはコールゴッドのように魔法行使に1時間かければ、射程1キロ、半径500mを破壊できる戦略魔法になります。流星の魔法王の『大陸間弾道メテオストライク』はその強化版ですね」

「……やっぱり魔法王にはろくな奴がいないな」


 まさにファンタジー版、大陸間弾道ミサイル(ICBM)。


 こんなメテオストライクが実用化されてしまったら、ラクシアに安全な場所はない。

 世界の果てに逃げようとも隕石が追ってくる。

 ラ・ルメイア王国へメテオストライクをされる前に、フロウライトを捕まえなければならない。

「フォールンドラゴン絡みだから、フロウライトはフラクシス教徒だろうな」

「フラクシスってどんな神さまだっけ?」


「3000年に一度『竜刃星』もしくは『ミセリア』と呼ばれるホウキ星がラクシアの上空に現れ、『フォールンソウル』という魂を地上に落とします」


「じゃあ竜刃星はいまラクシアの上にいるの?」

「います」

 竜刃星から落ちてきたフォールンソウルがドラゴンの死体に宿りフォールンドラゴンになる。

 ……たまにワニのような変な生物に宿ってしまうこともあるが。


「女神フラクシスはフォールンこそラクシアの本来の支配者だと考えており、世界を魔竜の瘴気で作り変えようとしている大神(メジャーゴッド)。ラクシアは三本の『始まりの剣』によって作られたソードワールドなわけですが、フラクシス教は始まりの剣を偽神(デミウルゴス)のようなものだと考えています」


「グノーシス?」

「はい。『この世界は偽神(デミウルゴス)によって作られた不完全な世界』だと考える思想ですね。グノーシス主義では神(キリスト)がデミウルゴスであり、アダムとイヴをそそのかした蛇(サタン)こそ真実の世界の使者になります」

「ラクシアは始まりの剣によって作られた偽物の世界なのだ、ってこと?」

「はい。ちなみに竜刃星の核は剣の形をしているという伝説もあります。始まりの剣には実は4本目の魔剣『フォルトナ』があるという伝説もありますから、竜刃星も始まりの剣やフォルトナと関連のある魔剣なのかもしれません」


「……もしかしてフラクシスは、竜刃星(ミセリア)をメテオストライクしようとしているのデハ?」


「あ」

「それよ! 流星の魔法王っていうことは、あらゆる種類のメテオストライクを使えたってことでしょ」

「特殊なメテオストライクで竜刃星を地上に落とそうとしてるのか」

 筋は通っている。

 フラクシス教徒ならばリスクを犯してでも手に入れたい魔法だろう。

「大陸間のメテオストライクとなると、大がかりな儀式が必要ですよね?」

「そうですね」

「メテオストライクだからたぶん野外よね? 空から探せば見つかるかも」


「見つかりマシた」


「ええ!?」

「ここデス」

 アリスがダグニア地方の地図を指差した。


『魔霧の森』


 ファンタジーでよくある『迷いの森』だ。

「……ラ・ルメイアに近くて、常に霧が立ち込めてるからフォールンドラゴンの魔竜の瘴気も目立たない」

「フラクシス教の隠れ家にはうってつけね」

「でも迷いの森なんだよな。『入った者を迷わせ、二度と外に出すことはない』って書かれてるレベルだぞ。フォールンでも自由に動き回るのは難しいはず」


「イスタン河(リバー)からアタックしているのデハ?」


「そう考えるのが妥当か……」

 森を貫く河を遡上すれば、迷うことなく魔霧の森を抜けられるらしい。

 ただ魔物が多いし、この河を普通の船で遡上するのは無理だ。

 それこそフォールングレータードラゴンレベルの騎獣で、河伝いに移動するぐらいでなければ……。

 もしフラクシスがこの森に潜んでいるとしたら、間違いなく目印となる河の周囲に隠れ家がある。

「……ライダー技能がないから騎獣で河沿いに移動するのは無理ね」

「この河を進める船はバルナッド共和国にしかないみたいだな」

「レンタルできマスか?」

「正攻法では無理です」


「じゃあ名誉点を消費してバルナッド評議会議長のラファロ・パーレと『親しい友人』になって、シュトラウブ商会から船を借ります。まだ航路が確立されてないらしいから、俺たちが安心して停泊できる拠点を構築します」


「今回の経験点で超越者になれますから……。ダグニア地方レベルの英雄に、友人として頼まれるとどうにもなりませんね。……わかった、船を手配しよう。航路を切り開いてくれたらレンタル費用はいらない。むしろボーナスで10万G払わせてもらおう」

「やった!」


 船も調達できたので、順序は逆になってしまったが、シナリオの序盤をクリアした経験点でレベルを上げることにする。


 待望の超越者だ。

「クリエイトゴーレム用の素材買わなきゃ」

 装備や消耗品の調達もあるので、短くても30分はかかる。

 シナリオの後半が始まる前に腹ごしらえしといたほうがいいだろう。

「なにがいい?」


「サイクロンロースカツ!」


「……ローカスツです」

 サイクロンローカスツは、その名前からロースカツとネタにされまくってるモンスターだ。

 ちなみに雑食イナゴの群れである。

 イナゴはローカストだが、群れなので複数形のローカスツと呼ばれている。

 レベルは13。

 なかなか強い。

 現実のイナゴの群れも災害レベルなので、決してバカにはできない。


 とりあえず筋を切り、包丁の背で叩いたロースに小麦粉、卵、粗めのパン粉をまぶしてラードで揚げる。


 1口サイズ(正確には2口だが)に切り分け、サイクロンっぽく丸く盛り付けた。

「でかっ!?」

「粗めのパン粉だとボリューム感が増して見えるからな」

 パン粉が粗いので外はサクサク、筋を切って叩いているので中は柔らか。

 ラードで脂身の旨みもジュワッと引き立つ。

 ソース、カラシ、マヨネーズ、わさび醤油、塩、何をかけても最高だ。

 トンカツの前にキャベツの千切りをつまみ、胃に野菜を敷き詰めていれば油も吸収される。

 口の中をさっぱりさせてくれるウーロン茶もあれば、いくらでも食べられるだろう。


 余ったトンカツに千切りキャベツとソース、マヨネーズ、カラシを合わせ、カツサンドにすれば冷めてもうまい。


 カツ丼でも可。

 こうして何重にも楽しめるのがトンカツのいいところだ。

「じゃあクリエイトゴーレムでドラコ・プラチジニウムね」

 カツサンドをつまみながら、ゴーレムを作成して船で河を遡上する。

 イナゴのごとく大量のモンスターが襲い掛かってくるものの、


ころころ


「落ちました」

 超越者とゴーレムの相手にはならない。

 呆気なくいくつかの拠点を構築し、ディメンジョンゲートで兵士を呼んで駐留させる。

 こうして安全を確保したので、

「河辺を足跡追跡」


「人族やドラゴンの足跡がありますね」


 フラクシスの痕跡をたどって森へ進む。

「濃密な瘴気が出てきました。HPとMPの最大値を-2してください。これからは移動などで一定時間が経過するたびに最大値が減っていきます」

「……あれ、これやばくない?」

「迷わないことを祈ろう」

「グッドラック!」

 瘴気から出ないと最大値は戻らない。

 迷うと大変なことになる。

「1dを2回振ってください」

「……ランダムで進む場所が変わるパターンね」

「はい。一度も行ったことのない場所へ進む場合はランダム、一度行った場所なら一定の確率で目的地へ進めます」


ころころ


「あ、いきなり大樹ですか」

「たいじゅ?」

「ユグドラシルの若木と遭遇しました」

「ぐ、レベル20!」

 魔霧の森にはユグドラシルの若木があるという伝説があるので遭遇してもおかしくはない。

 6部位で、コア部位の幹は3回行動という厄介な敵だ。

 ……強敵ではないが、とても無傷では終わらない。


ころころ


「落ちました」

 フロウライトと遭遇するまでにどれだけの強敵と戦うことになるのだろう。

 不安しかない。


ころころ


「鏡の池ですね」

「で?」

「特に何もありません」

「いや、何もないわけないでしょ」

「無視して先に進もうとすると、絶対池から何かが出てくるな」

「リサーチ!」


ころころ


「池は鏡のようにPCの顔を映してます」

「で?」

「それだけです」

「ええ!?」

「マジで何もないのか? ……一応、後ろを警戒しながら先へ進みます」

「何も起こりません」

 たぶん、ここは何か別のイベントで利用するのだろう。

 安心して先へ進む。


ころころ


「色とりどりの果実が実ってます」

「たわわ!」

「見識判定ですね」

 目標値11なので楽勝で成功。

 赤い実(1日の間、火属性のダメージを-2、水・氷属性のダメージを+2する)を手に入れた。


ころころ


「湿地にフォールン・フロウライト・バジリスクの群れがいます。データ上はレベル18のサファイアバジリスクとほぼ同じですね。ただどのバジリスクも魔物形態なのでレベル20です」

 バジリスクはドレイクやディアボロと並ぶ蛮族。

 バジリスクは魔物に変身することができ、全長5mほどの8本足のトカゲのような姿になる。

 その姿は醜悪で、変身すると知能も低くなるため、バジリスク自身もこの形態を嫌っているらしい。

 最大の特徴は『石化の邪視』などの邪眼を持っていること。

 精神抵抗に失敗すると体が石化していく。


 石化が進行するたびに能力値が-6されていき、どれか1つでも0以下になると完全に石になる。


 しかも石化の邪視は補助動作なので毎ラウンド使ってくるというのが恐ろしい。

 サファイアバジリスクは対象を石ではなくサファイアにする蛮族なので、フロウライトバジリスクに睨まれると魔晶石になるのだろう。

「群れって何匹いるの?」

「2dを」


ころころ



「21匹です」

「ふぁっ!?」

「逃げろ!」


「バジリスクは追ってきます」


「ぎゃー!?」

「レベル20が21匹なんてシャレにならんぞ!」

「エスケープを使いマスか?」

「いや、鏡の池に行く」


ころころ


「移動判定成功です」

「よし、迷わずに池に戻れた!」

「池で何するの?」


「バルバロスブックによると、石化の邪視は+4以上で精神抵抗に成功すると鏡で跳ね返せる」


「あ、本当だ」

「しかもバジリスクは魔物形態だと知能が低くなる。池に飛び込んで自滅させろ!」

「まん・いん・ざ・みらー!」

「ざばーん。バジリスクはPCを追いかけて池へ大挙し、水面に映る自分の姿を敵と勘違いして石化の邪視を放ちました」


ころころ


「目標値+5で精神抵抗に成功。邪視が反射した場合、バジリスク自身は精神抵抗することができません。ほとんどのバジリスクが魔晶石になりました」

「まーべらす!」

「戦利品で魔晶石剥げる?」

「残念ですが、バジリスクの石像はあまり価値がありません。魔晶石もクズ石です」

「がっかり」

「ただ数が多いので、中には良質な魔晶石もあったようですね。魔晶石のバジリスクがフロウライトになって動き出しました」

「いやー!?」

 悪夢だ。

 フロウライトを含めバジリスクが何匹か残っているので、急いで池を渡って別の場所へ進む。


ころころ


 バジリスクやユグドラシル以外に大した敵はいなかった。

 問題は移動するたびにHPとMPの最大値が-2されることだろう。

 早くフロウライトを見つけないと詰む。


ころころ


「これまで倒した敵のほとんどが復活してます」

「なんで!?」

「フォールンから産まれるダムドは、瘴気の中にいる限り倒しても蘇ります。10分かかりますが、死体をちゃんと処理するべきでしたね」

「……10分かかるたびに最大値が減るんでしょ?」

「もちろんです」


ころころ


 ザコを一掃して先へ進む。

「フロウライトとフラクシス教徒、それとフォールンエルダードラゴンを発見しました。メテオストライクの儀式をしています。発動直前ですね」

「儀式は止められますか?」

「正攻法では無理です。周りに邪魔されますね」


「メテオストライクにメテオストライクできる?」


「は?」

「フロウライトが竜刃星をメテオストライクするのはわかってるんだから、こっちも竜刃星にメテオストライクするの」

「つまり落とすのではなく逆に打ち上げて落下を防ぐ、と?」

「そうそう」

「可能ですね」

「いえー!」

「昇天(アセンション)!」


「ただし達成値の比べあいになります。魔法行使判定に負けたら竜刃星はラクシアへ落下し、勝てば元の軌道に戻ります」


「望むところよ!」

 堕天(フォールン)と昇天(アセンション)の激突。

 シチュエーションとしてはこれ以上ない。


ヴェス第十五階位の攻フィブレド・ル・バン強化ディッグ召喚イステドア衝撃ショルト破壊タドミール――竜刃星ミセリア!』


 打ち合わせもしていないのに、隕石(ステラカデンテ)ではなく竜刃星(ミセリア)で呪文を詠唱した。


『ミセリア・ストライク!』


ころころ


 同時に2dを振る。

「たかが石ころ1つ、メテオストライクで押し返してやる!」

「竜刃星が元の軌道に戻りました」

「こんぐらっちゅれーしょん!」

「でかした!」

「えへへ。超越者は伊達じゃない!」

 これで竜刃星が落ちてくることは……


「フォールンドラゴンに身を守らせつつ、もう一発メテオストライク!」


「げ!?」

「リピート!?」

 完全に油断していた。

 敵の陰謀を防いでホッとしていたところへ、すかさず第二のメテオストライク発動。

「こっちもメテオストライク!」

「何にメテオストライクするんですか?」

「えーと……」

 敵の狙いがわからない。


 それに竜刃星ならともかく、無数に存在している隕石のどれを落とすか瞬時に判断してメテオストライクで封じに行くなんていう芸当は不可能だ。


 結局ただのメテオストライクになり、儀式をしていたフラクシス教徒を殲滅。

 フロウライトとフォールンドラゴンには多少のダメージを与えたにすぎなかった。

「では、こちらのメテオストライクも無事に発動します。しかし地上に隕石は落ちてきません」

「ほわい?」

「なんだ? なにをしたんだこいつ?」

「判定で何したかわかる?」

「わかります」


ころころ


「どうやら隕石を竜刃星に落としたようです」


「ええ!?」

「……なんで竜刃星を破壊したんだ?」

「おそらくハヤブサですネ」

「はやぶさ?」


「たしかに『小惑星探査機ハヤブサ』と似ているかもしれません。小惑星は地球と違って大気がありませんから、紫外線などを防ぐことができず、小惑星の表面は風化しています。ハヤブサは上空から小惑星の表面を破壊してクレーターを作り、風化していない小惑星内部の物質をサンプルとして持ち帰りました」


「つまり竜刃星を隕石で破壊して、衝撃で舞い上がった破片をメテオストライクで地上に落とす!?」

「正解です。そして竜刃星の核は剣の形をしているという伝説もありましたね。というわけで竜刃星の剣のかけらを自分たちにメテオストライク!」

「自分たちに!?」


ころころ


「適用ダメージと同じ数だけフロウライトとフォールンドラゴンに剣のかけらが入ります。最大HPが200ほど増えました」

「馬鹿じゃないの!?」

「ついでにとてつもない密度の瘴気が発生。毎ラウンドHPとMPの最大値が3減っていきます」

「がっでむ!」

 殺意しかない。

 ホーリーブレッシング2でHPを+100できるものの、森の探索ですでに最大値がかなり減っている。

 長引くと危険だ。


「竜刃星のかけらの中には透明な魔晶石も混じっていますね。久しいな、兄弟たちよ」


「え、このフロウライト。竜刃星から落ちてきたの?」

「少なくともフロウライトはそう信じてます。フロウライトこそ竜刃星のフォールンソウルであり、ラクシアの真の支配者なのだ! 今こそ世界を真の姿に戻す時!」

「思い込みで世界を作り変えられたんじゃ、たまらんな」

「恨むのなら世界を歪めた始まりの剣と、穢れた世界に適応した己を恨むがいい」


「……SF漫画でそういうネタあったわね。世界を腐らせていたと思ってた生物は、実は世界を浄化する存在だった。科学文明に汚染された世界に適応した人間は、綺麗な空気の中では生きられない」


「皮肉(あいろにー)」

 ICBM、グノーシス、ハヤブサ、適応進化……。

 マニアックなネタが満載のシナリオだ。

「では戦闘を始めましょう」


ころころ


 イニシアティブブーストSSで無難に先制ゲット。

「えーと、全員にヘイスト」

 これで手番終了時に1dで5か6が出たら、もう一度主動作ができる。


「インスタント・ゴーレムでドラコ・プラチジニウムをもう1体作って、ダブルインディケイトで2体同時に操作したいわね。あ、クイックリザレクション使えるから4回死ねるわよ」


「イレイスブランデッドもありマス」

「……やばいな、このパーティー」

 イレイスブランデッドは行使に一日かかるものの、魂の穢れを1点消せる。

 人間は穢れ0なので最大4回までクイックリザレクションで蘇生可能。

 そして穢れを消すイレイスブランデッドがあれば、何度でもクイックリザレクションで生き返れる。

 ついでに超越者なので『運命凌駕』を使えば死んでも自動的に1回だけ生き返る。

 運命凌駕では穢れが増えないので最大で5回死ねるわけだ。

「スパーキングメテオ! ブレス・オブ・ファイア!」

「のー!?」

「運命凌駕!」

「クイックリザレクション!」


 穢れを管理して限界まで死にながら敵を削っていく。


 ……まるで別のゲームをプレイしているようだ。

「ゴッドスタンプ、ダブルキャスト、ゴッドフィスト!」

「フロウライトが落ちました」

「いぇあ!」

「……が、瘴気の影響ですぐに起き上がります」

「ぐ、フォールンドラゴンを先に倒さないといけないのか!」

「HP回復されちゃうじゃない!」

 敵も味方も何度でも生き返るカオス。

 それでも5回死ねるというのは大きなアドバンテージだ。

「キャッツアイ(中略)、で全力攻撃3からの薙ぎ払い2、そしてフェンリルバイト! さらにヘイストが発動してもう1発!」


「フォールンドラゴンの頭もフロウライトも落ちました。……まだだ、まだ終わらんよ! メテオストライク!」


「え、死んだんじゃないの!?」

「死んだ瞬間に瘴気が消えるわけではありませんから。瘴気の力で復活します。ただこのメテオストライクは竜刃星にかけたものですね。とうぜん何も落ちてきません。なぜだ!? なぜ竜刃星が落ちてこない!?」

「何度も死んだせいで錯乱してるな」

「じゃあメテオストライクでトドメ。あ、ヘイスト成功。もう一発メテオストライク」

「……お前は鬼か」

「おーばーきる!」

 瀕死のフロウライトをメテオストライクで跡形もなく吹き飛ばす。

 さすがにもう復活できない。

「メテオストライク連発すれば、竜刃星の剣のかけら集められる?

「それは試してみないとわかりませんね」


「……ヴェス第十五階位の攻フィブレド・ル・バン強化ディッグ召喚イステドア衝撃ショルト破壊タドミール――隕石ステラカデンテ!」


「おいやめろ!」

「うぇいと!」


「メテオストライク!」


ころころ


「適用ダメージ分だけ剣のかけらが手に入りました」

「やった!」


「しばらくすると、まるで意思を持つかのように剣のかけらが動きだし、1つに集まって魔剣ミセリアになりました」


「え……」

「やばい、離れろ!」

「デンジャー!」


「遅かったようですね。ミセリアは魔剣の迷宮と魔物を作り出しました。内部にはもちろん瘴気。一定時間ごとにHPかMPの最大値が1下がり、クエストをクリアするまで迷宮から出ることはできません」


「ぎゃー!?」


 ……入った者を迷わせ、二度と外に出すことはない。


 その日、霧魔の森に新たな伝説が生まれたという。

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