マシンスレイヤー

「プリースト技能の『ゼスティリア』って誰?」


 キャラクターシートに見知らぬ神の名前が書かれていた。

 おそらくオリジナルのキャラだろう。

「殺戮の女神ゼスティリア。魔法文明時代に『クチナシの魔法王』を倒して神になった小神(マイナーゴッド)です」

「特殊神聖魔法の構成は?」

「これです」

 さらにもう一枚、プリントアウトされたシートがテーブルに置かれた。

 神聖魔法をまとめたものらしい。


 ソードワールドは信仰する神によって使用できる特殊神聖魔法が違う。


 あくまで『特殊神聖魔法』であって、神さえ信仰していれば『基本神聖魔法』は使える。

 ただし人族と蛮族では使える基本神聖魔法が微妙に違う。

 なぜなら『蛮族やアンデッドにだけ効果を発揮する魔法』などがあるからだ。

 蛮族がプリースト技能を身に着けた場合、人族に対して影響のある神聖魔法を使えるようになる。

 シートにまとめられているのはゼスティリアの特殊神聖魔法と、対蛮族の基本神聖魔法だ。

「キルヒアと同じデスね」


「オリジナルの魔法を考えるのは面倒なのでキルヒアと同じものにしました。ただキルヒアは古代神(エンシェントゴッド)なのに対し、ゼスティリアはマイナーゴッドです。信者が少なく力も弱いので消費MPが+2です」


「わ、最悪」

 キルヒアと同じ構成なのに、わざわざマイナーな神を信仰させられて消費MPが増える理不尽。

 まあ、手間をかけて作ってもらったサンプルキャラなので文句は言えないのだが。

「魔法王って何人もいたのよね?」

「はい。3000年前の『魔法文明』時代は現代よりもマナが溢れていたらしく、強力な魔法王たちによって支配されていたそうです。この地方の王侯貴族は、あらゆることを魔法で解決していました」

「ほわい?」


「見るのも魔法、聞くのも魔法、物も魔法でつかみ、足で歩くことはなく魔法で空を飛ぶ。手でできることをわざわざ魔法でやるのが貴族のステータスだったわけですね。結果、貴族は肉体が退化していきました。目がなくなり、口がなくなり、手足がなくなり、最終的にはブヨブヨの肉の塊になったのです」


「うえ……」

 想像するだけで気持ち悪い。

 呪文詠唱なしに魔法を使えたこと、そもそも退化して口がなくなっていたことから、クチナシの魔法王と呼ばれていたそうだ。

 なおゼスティリアが魔法王を倒した理由は明らかになっていない。


「ではシナリオを始めましょう。舞台は多脚型の機動要塞アトラク=ナクアです」


「うぉーきんぐ要塞(べーす)?」

「はい。クモ型の要塞で、背中に人の住める都市が築かれています。脚があるので悪路も走行可能。しかも最大時速40キロ」

「はやっ!?」


「要塞のレベルは25。脚部の『踏み荒らし』を回避するのはまず不可能ですし、場所が悪ければ複数の脚部から同時に攻撃されるため、地上からの侵入はほぼ不可能。また広範囲マナサーチやライフセンサーなどが作動しており、一定以上の大きさがある生物が近づくと対空武器で撃ち落とされます」


「鉄壁だな」

「そうですね。しかも無数の魔動機がブルブルブル、ドルンドルンドルンと要塞内をパトロールしています」

「……なにその変な駆動音」


「魔動機の名前は擬音から取られてるんですよ?」


「りありぃ?」

「本当だぞ。リプレイにも書いてある。『ドゥーム』は足音だし、『クイン』は砲塔を回す音だ」

「光弾を撃つと『ザーレーイ!』という音がするから『ザーレィ』です」

「なにそれ、ダサかっこいい」

 由来を聞くとアレだが、割とうまくネーミングできている気がする。

 個人的に結構好きだ。


「ですが、ある日突然。要塞と魔動機がコントロール不能になり、人を襲うようになりました」


「敵が侵入して要塞のコントロールを奪ったってこと?」

「だろうな。『この要塞は我々が乗っ取った!』みたいなアナウンスは?」

「ありません」

「侵入してたとしても少人数っぽいな。ということは……」


「援軍(リーンフォースメント)が来マス」


「対空武器がないと上から簡単に侵入されるぞ」

「ベースマップをぷりーず」

「内部構造はわかりませんが、上部構造の地図は市販されています」

 地図でクモの背中はだいたい把握できた。

 問題はなにを優先して動くかだ。


「……内部構造がわからんから制御室がどこにあるのかわからん」


「メインコントロールは後回しにしまショー」

「じゃあ対空武器?」

「だな。それと対空ユニットの『エアロドゥーム』だ。こいつのコントロールを取り返せば、空からの侵入はほとんど防げるはず」

「でもどうやって取り戻すの?」

「魔動機術(マギテック)技能判定(ロール)では?」


「そうですね。たとえば扉の鍵を開けるのはスカウト技能ですが、魔動文明の機械的な扉を開ける場合はマギテック技能になります。エアロドゥームのコントロールを取り戻す場合は、マギテック技能でエアロドゥームの精神抵抗を突破しないといけません」


「インスピレーションは使えマスか?」

「……ある種の知識判定なので使えます」

「よし!」

 キルヒアの特殊神聖魔法は便利なものが多い。

 インスピレーションは1日に1回しか使えないものの、観察判定や知識判定に自動成功する。

 『プレコグ』は直後の未来を予知し、行為判定の2dを4・4(8)に固定できる。

 プレコグさえ唱えておけば、2dを振った後にプレコグの能力を発動して出目を8にできるので大惨事になりにくい。

 ……ゼスティリアでは消費MP+2だが、唱える価値のある魔法だ。


「ただしマギテック判定をする場合は対象に接触してください。遠距離からではできません」


「見つかったら戦闘になるわね」

「コントロールを取り戻そうと思ったら、殴られるのを覚悟でエアロドゥームに近づかないといけない。しかも1体じゃ防空できないから、何体かのエアロドゥームに接触する必要がある」

「侵略者(インベーダー)はエアロドゥームに接触(タッチ)してナイのでは?」

「ん、そういえばそうだな」

「遠距離からコントロールできる方法があるってこと?」

「イエス。ロールをプリーズ」


ころころ


「どうやら侵入者は『アル・メナスネットワーク』を通じてコントロールを奪っているようです」


「なにそれ」

「魔動機術の発動には『マギスフィア』が必要ですよね? 要塞と魔動機はマギスフィアを中継してネットワークで繋がっており、侵入者は制御室から全機体のコントロールを乗っ取ったようです」

「そのネットワークはPCも使えるのデスか?」

「ネットワークに繋がっているマギスフィアに接触すれば使えます。1体のエアロドゥームのコントロールを取り戻せば、エアロドゥーム全体のコントロールを取り戻すことも可能ですね」

「エアロドゥームは全部同じプログラムで動いてるから、1体ハッキングできれば残りのエアロドゥームも同じ方法でハッキングできるってことですか?」

「そういうことです」

 量産型にありがちな弱点だ。

 多様性がないから1つのウイルスで全滅する。

 これでだいぶ楽になるだろう。


「魔動機は知能が低いからいくらでもやりようがあるんだよな。要塞内をパトロールしてるとはいっても、決まったルートを決まった時間に移動してるわけだから動きが読める」


「あんぶっしゅ!」

 エアロドゥームを待ち伏せして接触する。

 プレコグで2dの出目を8で固定すれば、事故もなくコントロールを奪えた。

 対空武器も1つ落とせばまとめてコントロールを奪える。

 これで防空システムは完璧。

「空を飛ぶ敵が現れました。エアロドゥームやスカイシップですね。機動要塞のエアロドゥームとは仕様が違うのでハッキングはできません」

「撃ち落とそう」


「クインクインクイン! ザーレーイ!」


 対空砲火で侵入者を撃ち落とす。

 援軍を潰してしまえばあとは簡単。

「ゼスティリアに栄光あれ!」

 コントロールを取り戻した魔動機たちを従えて制御室へ突入。


「数の暴力でメインコントロールも取り戻しました」


「いえー!」

 報酬と経験点をもらい、消耗品を補充してキャラを成長させる。

 キャラ成長にはそこそこ時間と手間がかかるので、ここで一服することにした。


「フィッシュフライサンドとピンクレモネードをお願いします」


「あいよ」

 フィッシュフライサンドはソードワールドノベル(リプレイではなく小説)『堕女神ユリスの奇跡』に登場したものだ。

 リプレイの『トレイントラベラーズ』では『フィッシュ&チップス風サンドイッチ』も登場している。

 今回はトレイントラベラーズのレシピに準ずる。

 塩抜きしたタラをジャガイモの細切りと一緒に揚げ、ザワークラフトを添えてパンに挟めば完成だ。


「炭水化物(カーボ)オン炭水化物(カーボ)」


「これぞジャンクフードね」

 こってりとした揚げ物を、ザワークラフトでマイルドに。

 やはりフィッシュアンドチップスには酸味が合う。

 クランベリージュースでほんのり色づけされたピンクレモネードも口をさっぱりさせてくれた。

 これがソードワールドの世界で売られているのだからすごい。


「PCたちは要塞の制御室へ呼び出されます。エネルギー供給装置が壊されており、マナ不足が深刻だ。現状では主砲を一発撃つだけで、要塞の機能が一時的に停止する」


「……とんだ欠陥兵器だな」

「敵に鹵獲(ろかく)された時のことを考え、強力な兵器や修復機能を活用するには外部からエネルギー供給しないといけないように設計されているんです。アトラク=ナクアの場合、マナ生成型の機動要塞からエネルギー補給を受けないと継続的に活動できません」

「へー」


「報告によればアトラク=ナクアよりも巨大な『魔動巨兵(コロッサス)』がこちらへ向かっているという。マナ不足にあえぐ機動要塞は格好の獲物だ。おそらく今回の襲撃も彼らの仕業だろう」


 コロッサスは魔動機文明に造られた人型ロボットだ。

 基本的に残骸しか残っておらず、敵として出てくるのは珍しい。

「機動要塞の足では逃げ切れない。主砲で仕留められなければ手数で負ける。高密度のマナが必要だ」

「そんなのどこにあるの?」

「この近くに魔法文明時代の遺跡がある。どうもゼスティリアがクチナシの魔法王を倒した場所らしい。錬金術師(アルケミスト)が巨人の死体から、高密度のマナの水を生成しているそうだ」

「なんでクチナシの魔法王の遺跡に巨人の死体が?」


「クチナシの魔法王は2人いたからだ」


「ええ!?」

「同じ二つ名の魔法王が隣国にいたため、よく混同されるらしい。伝説ではエンハンサー技能で巨人になった魔法王だという。膨大な魔力のすべてをエンハンサー技能につぎ込んでいるため魔法を使えない。ゆえにクチナシ」

 エンハンサー技能は特殊な呼吸法で肉体を自由自在に変化させる技能。

 ドラゴンの尻尾や、ウサギの耳、猫の目キャッツアイ、大鷹の翼ワイドウィング、魔神の指デーモンフィンガーEtc。

 ファイアブレスも吐けるし、自己再生能力もある。

 魔法ではないものの、マナを操る技術には違いない。


 クチナシの魔法王はおそらく『ジャイアントアーム』と『タイタンフット』を使ったのだろう。


 あくまでベースが巨人なだけで、すべての練技を使えるはず。

「でもエンハンサー技能って効果時間短いでしょ?」

「エンハンサー技能を極めてドラゴンになった男の伝説がある。魔法王ならばコロッサス級の巨人になっても不思議はない」

 物事を魔法で解決するクチナシの魔法王と、腕力で解決するクチナシの魔法王。

 思想が真逆なため、長きにわたって戦争を繰り広げていたらしい。

 この2人の争いを終わらせたのが、当時まだ人間だった頃のゼスティリアだ。


「魔法王に対するトラウマもあって、魔動機文明では『魔術を民衆のものに』がスローガンになったそうです」


「へー」

 誰でも魔法の恩恵を受けられる世界にしよう、ということらしい。

 魔法文明時代にも魔法のアイテムは作られていたが、基本的に魔法の知識や技能がないと使えない。

 だが魔動機文明では魔法のアイテムが機械的に大量生産され、誰でも使うことができた。

 この差は大きい。

「じゃあ女神の遺産を回収しに行くか」

「ダンジョンアタック!」

 マナの水をもとめて魔法文明の遺跡へ潜る。


ころころ


「『魔化された巨人の死体』を発見しました」

 アルケミスト技能で第一原質(プリママテリア)を抽出し、マナの水を生成する。

 あまりにあっさり目的を達成できたことで拍子抜けしていると、

「そこまでだ」

「え、なに?」


「マナの水を渡してもらおう。PCが振り向くと肉の塊が10個浮いていました」


「ミートボール!?」

「なんで魔法王がいるのよ!?」

「判定を」


ころころ


「クチナシの『魔動』王の僕(しもべ)ですね」

「魔動王?」

「あらゆることを魔動機にやらせているため、肉体が退化してしまった魔動術師です」

「うえ……」

「収斂進化(コンバージェンス・エヴォリューション)」

 環境に適応する生物が生き残るということは、環境によっては同じような肉体に収斂(しゅうれん)するということだ。


『高度に発達した科学は魔法と見分けがつかない』


 某SF作家の名言を思い出す。

「機動要塞の燃料になるからには、コロッサスもマナの水で動けるんだろうな。ということは、こいつらも燃料不足で困ってる」

「魔法文明の巨人から生成される化石燃料で、魔動文明の巨人を動かすつもりなのね」

「皮肉(あいろにー)」


 ここでマナの水を確保できれば、コロッサスがエネルギー切れになる可能性も出てくる。


 数的不利だが、ここは絶対に引いてはならない。

「気持ち悪いから早く倒しましょ」

「無用な器官を極限までそぎ落とし、洗練されたこの姿。貴様らにはわからぬと見える」

 わかりたくもない。

「ていうか、どこから声だしてるの?」

「肉塊の周りにはマギスフィアと銃が浮いており、マナに反応して動いています」

「ん? 魔法王は魔法の発動体がなくても魔法を使えたと思うんですけど、こいつらはマギスフィアがないと魔法が使えない?」

「使えませんね」


「……魔法王は自分の魔力でクチナシになった。こいつらは魔動機の力でクチナシになった」


「機械に依存してるってこと?」

「ああ。なにをするのも自分の魔法だった魔法王と違うのは、全部魔動機任せにできるところだ。魔動文明ではクズ魔晶石をエネルギー源にすることがある。自分の魔法でなんでもするのがステータスだった貴族とは真逆。自分の力では何もしない。それがこいつらのステータスなのかもな」

「マギスフィアが生命維持装置(ライフライン)なら、マギテックロールでハッキングすれば倒せマスね」

「……でもそれだと1人しか倒せないんだよな」

「エアロドゥームみたいに、1人倒せば全員倒せるんじゃないの?」

「エアロドゥームは量産型だからまとめてコントロールできたんだ。ミートボールとはいえ相手は人間だぞ」


「ミートボールも大量生産(マスプロダクション)なのでは?」


「おかずじゃないんだぞ。……ん、いや、待てよ? もしかしたらあり得る話かもしれん」

「ええ!?」

「たしか人造人間(ルーンフォーク)は髪の毛や爪なんかをジェネレーターに入れて、機械的に培養してる設定ですよね?」

「はい。ルーンフォークが結婚した場合、両親の細胞をジェネレーターに入れて培養すれば両親の特徴を持ったルーンフォークが生まれます」


「ミートボールもルーンフォークと同じはずだ。手足も何もないんだから子供を作れないはず。だからジェネレーターで仲間を作っている可能性が高い」


「クローンですネ」

「あ、自分の細胞だけを使えばクローンができるんだ」

「そういうことだ。エアロドゥームはまったく同じプログラムで動いていたから、1つのコンピュータウイルスで全滅した。クローン人間もエアロドゥームと同じで、全員が同じ遺伝子配列をしている。多様性がないから同じウイルスで全員死ぬ」


「ほぼ正解ですね。ミートボールは全員、同じジェネレーターから作られた存在です」


「たぶん魔動王のクローンだな」

「……シナリオの前半の戦術を応用して後半の敵を倒す。いかにも先生の作りそうなシナリオね」

「褒め言葉として受け取っておきましょう」

 攻略法さえわかれば怖くない。

 マギテック判定でマギスフィアの生命維持装置を止め、アル・メナスネットワーク経由で残りのミートボール9個もまとめて料理する。

 他のシナリオでもこの戦術が使えればいいのだが、量産型やクローン、ネットワークなど、前提条件が多すぎるのが欠点だ。


「そういえばここ、ゼスティリアゆかりの遺跡なんでしょ。なんか情報ないの?」


「一応、探索しとくか」

「インスピレーション!」

「……知識判定の自動成功ですか。えー、それだと魔法文明時代の文献が見つかりますね。ゼスティリアは殺戮の女神ではなかったことがわかります」

「え」

「特殊神聖魔法に予知能力のプレコグがあるように、彼女には予知能力がありました。そしてゼスティリアはある時、数千年後の未来を予知します」

「数千年!?」

「3000年前のゼスティリアが予知した数千年後だから、魔動機文明後期か?」


「いえ、ゼスティリアの未来予知に魔動機文明は登場しません。それどころか魔動機術すら存在していません」


「は?」

「彼女が見たのは『魔法文明が滅びなかった未来』です。その予知では数千年後も魔法王たちが世界を支配していました。やがて巨大なドラゴンが現れ、協調性のない魔法王たちは各個撃破されてしまいます。そして世界は滅びました」

「なにそれ、ぜんぜん予知できてないじゃない」

「これを予知したから魔法王を殺したんだろ」

「魔法王(マジシャンロード)をジェノサイドして運命(デスティニー)を変えたのデスね?」

「はい。暴力はより強い暴力にねじ伏せられる。個人の才能や血統に依存する魔法文明の力では、個の頂点であるドラゴンに勝てません」


「だから魔動機文明なのね。『魔術を民衆のものに』」


「誰でも魔法を使えてしまうと、魔法の価値が薄れてしまう。道具に依存すると自分の魔法を使う機会が少なくなり、やがて使えなくなってしまうでしょう。巨人の腕力も同じです。そういう誰でも手軽に使えてしまう類の技術は、魔法王や貴族たちによって抹消されていました」

「現実世界でも機械やAIが発達すると人間の仕事が奪われるって主張する輩(やから)がいるしな。産業革命が遅れたのもその手の運動があったからだ」

「ニュアンスは似てますね。魔法王がいる限り魔動機術は発展しない。文明は停滞してしまいます。だからゼスティリアは魔法王を駆逐した。ドラゴンに対抗できる文明を生み出すために」

「そのドラゴンはなんなのデスか?」


「ゼスティリア本人が書いた文献ではないので、詳しいことはわかりません。ただ『エンシェントドラゴン』が人間を滅ぼすとは考えにくいとあります。考えられるのは『邪竜ラズアロス』、あるいは『フォールンドラゴン』、そして『蛮王』。一番可能性が高いのは蛮王だと思われる」


「ドレイクロード?」

「はい」

 300年前の『大破局(ディアボリック・トライアンフ)』で、魔動機文明を滅ぼしたのが蛮王だ。

 大破局で蛮王も死んでいるから、ゼスティリアが運命を変えなかったら蛮王に世界を滅ぼされていたのかもしれない。


「魔法王を皆殺しにしたため、民衆はゼスティリアを死や戦争を司る女神だと勘違いしたのでしょう」


 ソードワールドの神格は人々の信仰に左右される。

 民衆が黒と思えば白い神も黒くなる。

「やがてゼスティリアは殺戮の女神として崇められるようになりました」

「でも実際は、やがて現れる蛮族の王を殺す女神だった、と……」

「間違いなく信仰が揺らぐわね」

「ぐらぐら」

「……今は殺戮の女神だとしても、事実が知れ渡れば元に戻るかもしれん。黒く染まったものがまた白くなる。そんな神を信仰するのは抵抗があるな」


「ではPCの身に電撃が走り、プリースト技能を失いました」


「はあ!?」

「禁忌に触れたり、神を冒涜したり、違う神への信仰に目覚めたりすると、神罰としてプリースト技能を剥奪されます」

「え、0になるの!?」

「0ですね。例外的に関連性のある神、たとえばザイアからルーフェリアへ改宗する場合なら技能レベル半減程度ですみますが……。相手は殺戮の女神なので容赦ありません」

「おーまいごっど!」


 普通ならGMから何度か警告があり、それでもプレイヤーが神に背いたらやむなく技能を剥奪するという流れのようだが……。


 キャンペーンシナリオ(連続性のあるシナリオ。同じキャラでずっとプレイする)ではない単発シナリオなので、容赦なくプリースト技能を剥奪されてしまった。

 殺戮の女神おそるべし。

「神聖魔法なしで魔動王とコロッサスを相手にしないといけないのか……」

「一応プリースト技能なしでもクリアできるようにはなってます」

「アトラク=ナクアが生命線ね」

 虎の子のマナの水を持ち帰り、機動要塞にマナをチャージをする。


「ではドゥームドゥームと足音を立てながら、レベル27の『魔動戦士ガンドゥーム』が現れました」


「……また権利的に危なそうな敵が出てきたわね」

「魔動機の命名法則には従っていますよ?」

 ちなみに公式のリプレイで登場した魔動機である。

 まあ、設定が出てきただけで話にはからまなかったのだが。

「ガンドゥームにはコア部位がありません。すべての部位を破壊する、もしくはクチナシの魔動王を倒せば活動は停止します」

「魔動王はどこにいるの?」

「ガンドゥーム内部のどこかです」

「何もわからないじゃない!」


「いや、機動要塞にはマナサーチやライフセンサーがある。魔動機の構造を解析できるアナライズの魔法も使えるかもしれん」


「使えますね」

「よし! これで魔動王を探せるはずだ!」

「……でもインスピレーションは使えまセン」

「観察・知識判定の自動成功も、プレコグの出目8固定も使えないのは痛いな」

「っていうか、このために技能を剥奪したんじゃないの?」

「ノーコメントです」

 抜かりのないシナリオ構成だ。


「戦闘はリプレイ『要塞少女と契約の騎士』の機動要塞運用ルールをモデルにしたシステムで展開します」


「読んでないから全然わかんないんだけど」

「要塞はプログラムに従って行動します。『近づく』『固定する』『主砲』『マナサーチ』などですね。これらのプログラムが書かれたカードが50枚ほどあり、好きなカードを18枚選んでデッキを組みます。プレイヤーは各ラウンドごとにデッキから3枚引き、その中から1枚選んでプログラムを実行することができます。残りの2枚はデッキに戻してシャッフルしてください」

「りばーす?」

「デッキに戻すの?」

「手札を1枚使ったら、デッキから1枚引く方式のほうがいいような気がするんですけど。これなら手札の管理で戦略を立てられますし」


「毎回デッキから手札を3枚引くのは、行為判定のようなものですね。コントロールを乗っ取られた際に高レベルの魔動術師が死んでしまったので、要塞をコントロールしているのはマギテック技能が低い術師です。なのでNPCの達成値によってできる行動が変わります」


「なるほど、2dの代わりに3枚引くってことか」

「そういうことです」

 どれが強いカードなのかわからないながらも、なんとかデッキを組んで3枚引く。

「ドロー!」


「お、ライフセンサーがあるぞ」


 これで魔動王の居場所を探知できるかもしれない。

「これがガンドゥーム内部の生体反応です」

「なんだこりゃ」

「……なにもわかりまセンね」

 ただの点の集まりだ。

 これだけではヒントが足りない。

「ではガンドゥームの手番ですね。『近づく』で接近。そして機動要塞から見えない位置にある出入口が開き、敵が飛び出してきました」


「アトラク=ナクアの『固定する』でガンドゥームの動きを封じつつ、俺たちは乗り込んできた敵と戦います」


 『クモの糸(巨大なワイヤーアンカー)』で体を固定すればガンドゥームの回避率が下がる。

 魔動王の位置を特定しても砲撃が当たらなければ意味がない。

 魔動王を倒せるのは主砲、副砲、長距離狙撃砲のみ。

 機動要塞のマナ総量からして撃てるのはこの3発だけだ。

 撃つからには絶対に当てる。


「ガンドゥームは『狙い打つ』。打撃点は減りますが命中は+2です」


ころころ


「居住区の一部が崩壊、住民が何人か死にました。機動要塞のコアも『小破』です」

 ……すさまじい破壊力だ。

 しかもこちらは3発しか撃てないのに、ガンドゥームは好きなだけ殴れる理不尽(ガンドゥームの防護点が高すぎてアトラク=ナクア脚部の『踏み荒らし』では装甲を抜けない)。

「アトラク=ナクアはコアが『大破』したら終わりなんだっけ?」

「いえす」


「『高速修復装置』で小破と『中破』は直せても、タイミングよくカードを引けるとは限らん。大砲もそうだ。撃てる時に撃っとくか?」


「そうね。えーと、狙えるのは頭部、上半身、下半身、右腕、左腕、右足、左足。3発も撃てば魔動王に当たるでしょ」

 ガンドゥームの主な攻撃方法はパンチ。

 複数部位ではあるが、ガンドゥームも機動要塞と同じく複雑な動作ができないようで、一度に1部位しか動かない。

 大砲で腕を破壊すれば攻撃を封じ、足を破壊すれば移動や回避が不可能になるはずだ。

 そんな場所に魔動王がいるとは考えづらい。

「ヘッドショット!」


ころころ


「主砲が頭部に直撃。しかしガンドゥームの機能は停止しません」

「ちっ、ハズレか」

 その後も『ヒーリングミスト』でPCや蛮族のHPを回復しつつ(回復力に優れるプリースト技能を失ったので、これでPCのHPを回復できるのはありがたい)、要塞に乗り込んできた敵を撃退し、

「ファイエル!」

 副砲で上半身を撃ったものの、またしてもハズレ。

 あと一発だ。

「ではコアを『連続攻撃』。右腕の攻撃が当たれば、左腕の追加攻撃が発生します」

「ぎゃー!?」


ころころ


「あ、空振りしました」

「せーふ」

「よし、3枚引くぞ」


『長距離狙撃砲』『マナサーチ』『カタパルト』


「……う。マナサーチで魔動王の位置を特定しても、次に長距離狙撃砲を引けなかったらこっちがやられるかもしれん」

 だがマナサーチなしで長距離狙撃砲は運ゲーだ。

「さっきと同じよ。撃てる時に撃て!」

「さーちあんどですとろい!」

「じゃあ魔動王がいそうにない右腕だ! 一番ありえない場所に弱点があるはず!」


ころころ


「長距離狙撃砲が直撃。右腕が吹き飛びました」

「ガンドゥームは?」

「止まりません」

「のー!?」

「残った左腕でコアを『狙い打つ』!」


ころころ


 ……中破した。

 あと一発食らったらたぶん大破する。


 逆転の可能性があるとすれば『カタパルト』。


 PCを大砲の弾のように射出してガンドゥームに乗り込むカードだ。

 こうなったらPCの手で魔動王を直接倒すしかない。

 僕(しもべ)でさえレベル13だったので、最低でも14で剣のかけら入りの強敵だろう。

 プリースト技能を失ったのが悔やまれる。

 魔動王を見つけて倒すまでの間に、ガンドゥームから攻撃されて大破するだろうがそちらは問題ない。

 ガンドゥームの部品を奪えば修理できるはずだ。

 しかし、

「ドロー!」


『振りほどく』『解析装置』『高速移動(前進)』


「あばば!?」

 こういう時に限ってカタパルトは出ない。

「……チェックメイト」

「ガンドゥームの攻撃が外れるのを祈るしかないわね」

 万策尽きた。

 ……と思いきや、

「ぬ、ガンドゥームを固定(ロック)しているスパイダーウェブがありマスね」

「それだ! PCは綱渡りをして、砲撃で開いた上半身の穴から突入する!」


「綱渡りだと軽業(かるわざ)判定になります」


「スカウト技能と敏捷度ボーナスだな」

「乗り込んでしまえばこっちのものよ!」

「接舷切込(アボルダージュ)!」


ころころ


「げ、落ちた!?」

「なにやってんの!?」

「くそ、プレコグさえあれば確実に渡れたのに!」


「ではガンドゥームの手番ですね。下半身で『踏み荒らし』」


「うああ!?」


ころころ


 ……死人にクチナシ。

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