ゴーストスレイヤー
「働きたいでござる」
「……普通に仕事を探せ」
「クエストをぷりーず!」
毎度おなじみの蛮族、というか劣等蛮族(ウィークリング)でパーティを組み、冒険者の店で仕事を探す。
「残念ながら君たちに仕事を依頼する物好きはいない」
「ん? 仕事がないんじゃなくて、仕事をもらえない?」
「ああ。この地方ではウィークリングに対する差別や偏見が根強くてね。たとえ相場の半額でも君たちに仕事を頼む人はいないだろう」
「えー」
「いや、待て……。そういえば1つだけ君たちでも受けられそうな依頼があったな」
「……嫌な予感しかしない」
「ばっどふぃーりんぐ」
「安心したまえ。ただのゴースト退治だ。この辺りでは怨霊信仰が根深くてね、冒険者もゴーストがらみのクエストを受けたがらないのだよ」
「怨霊信仰?」
「死んだ人間が怨霊になって祟(たた)る、という信仰さ。この街では怨霊を恐れるあまり死刑を廃止し、神像を建てているぐらいだ」
「日本的だな」
「あー、神像ってなにかと思ったら……。日本でいう大仏建立なのね」
「神像(アイドル)は動きマスか?」
「動きません」
「コマンドドールやリモートドールで動かせますか?」
「動かせません」
「ちっ」
巨大人型神像で蛮族を踏みつぶすことはできないらしい。
「とりあえず依頼受けて討伐しに行くか」
「ゴーストは昼間にも出るの?」
「太陽を嫌う種もいるから、めったに出ない。退治するのなら夜だろう」
「じゃあ夜になるまで時間があるから、探索するか」
「リサーチ!」
最近死んだ怨霊になりそうな人間や、怨霊信仰について調べてみる。
「一番怨霊になりやすいとされているのが無実の罪、つまり冤罪(えんざい)で殺された人間です。研究によると同情や罪悪感によって怨霊化しているのではないかといわれていますね」
「どういうこと?」
「何の罪も犯していないのにかわいそうという同情、罪をでっち上げて破滅させてしまったという罪悪感、怨霊になって祟るのではないかという恐怖、罪をでっち上げた人間には天罰が下るだろうという迷信。それらが冤罪で死んだ人間に集まり、怨霊が生まれているという説です」
「……ある意味、神に近い存在だな」
「そうですね。祟りをなす怨霊を崇め奉ると、怨念が鎮まって御霊(ごりょう)になるのが日本の怨霊信仰ですから。祟り神と守り神は表裏一体なので、この街では怨霊が神のように信仰されています」
ソードワールドの世界では、神の力は信者の数に比例する。
信者が崇め奉ることで神の力が増すように、世間が騒ぐほど怨霊は強くなるのだ。
その力を逆用して守り神にするあたり、人間はたくましい。
神とゴーストに明確な違いがあるとしたら、ゴーストはアンデッドで、知能は低め、アンデッドなので人間や蛮族も関係なしに襲い掛かり、生前の未練や無念を晴らせば満足して成仏する(成仏する瞬間に、怨念を晴らしてくれた人間に祝福を授けてくれる)。
そして神は知能が高めで、信者がいないと存在を保てない、信者を守護する(信者はプリースト技能を獲得できる)、信者の思想によって性質が変化する。
似ているようでだいぶ違う。
「ソードワールドでは怨霊が神になることはありません。ですがそれは自力で神になることはできないという意味であって、神になれないわけではありません」
「ほわい?」
「蛮族の生贄になった少女ルーフェリアが、騎士神ザイアの導きによってマイナーゴッドになったように、知名度と悲劇性を兼ね備えている怨霊は神に導かれてマイナーゴッドになる可能性があります」
「つまり神になった怨霊を信仰している内に、神になる可能性がある怨霊そのものを信仰するようになった?」
「そういうことです」
面白い逆転現象だ。
「神さまとして祀るのがここの信仰なんでしょ。怨霊を倒していいの?」
「祀られるのは天変地異を起こすレベルの怨霊です。それ以外の怨霊はただのアンデッドですから、倒しても構いません」
知名度が低くても神に近い扱いをされることが多いので、この地方の冒険者は『さわらぬ神に祟りなし』と怨霊退治をしてくれないようだ。
怨霊信仰のことはだいたいわかったので、続いてゴーストについて調べてみる。
「ロック島にゴーストが出るんだって。『ロック流』のすごい剣士だったらしいよ」
「ん? ロック島の流派だからロック流ですか?」
「いえ、ロック流の開祖『オーファン』にちなんでロック島と名付けられたようです」
「Oh、巌流島(ロックスタイルアイランド)!」
「佐々木小次郎がモデルってこと?」
「たぶんな」
巌流島はもともと『船島』と呼ばれており、小次郎の流派・巌流にちなんで巌流島になったという。
「でもなんで負けた人の名前を付けるの? ふつう逆じゃない?」
「そういえばそうだな。巌流島の決闘とロック島の決闘になにか違いはありますか?」
「ありません」
伝説によると『ヴァン(宮本武蔵)』は待ち合わせの時間にわざと遅刻してオーファン(佐々木小次郎)を怒らせた。
ヴァンは二刀流のはずなのに、この決闘では二刀を使っていない。
島へ渡る船の上で櫂(オール)をナイフで削り、長い木刀を作って装備したという。
しかも木刀と手首をヒモでつないでいたそうだ。
木刀を弾き飛ばされても、すぐ手元に戻せるようにしているのである。
木刀を選んだのはオーファンの刀を殺すためかもしれない。
木に刀がめり込んだら簡単には抜けないからだ。
対処法を誤るとまともに刀を振ることもできなくなる。
「『コジロー敗れたり』は?」
「有名なエピソードとして語り継がれています」
鞘を捨てた小次郎に武蔵が言ったセリフだ。
吉川英治の『宮本武蔵』でもこのエピソードは登場する。
巌流は鐺(こじり)を背へ高く上げて、小脇に持っていた大刀・物干竿(ものほしざお)を、パッと抜き放つと一緒に、左の手に残った刀の鞘を、浪間へ投げ捨てた。
「小次郎負けたり!」
「なにっ」
「今日の試合はすでに勝負あった。汝(なんじ)の負けと見えたぞ」
「黙れっ。なにをもって」
「勝つ身であれば、なんで鞘を投げ捨てむ。――鞘は、汝の天命を投げ捨てた」
「うぬ。たわ言を」
生きて帰るつもりならば鞘は捨てない。
精神攻撃だ。
遅刻でイライラしていたオーファンは精神抵抗判定に失敗し、行為判定にマイナス修正を受けて負けてしまったわけである。
しかも二刀流の対策をしていたのに、ヴァンは木刀を装備してきた。
これで回避判定もマイナスだろう。
「んー。ヴァンは卑怯といえば卑怯なんだが、怨霊になるレベルかというと疑問だな。根本的に思想が噛み合ってない。ヴァンは罪悪感とか感じてないぞ」
オーファンはアスリートだ。
1対1の試合で、どちらの技能が上なのか比べたいタイプ。
一方ヴァンは『常在戦場』のタイプだろう。
いついかなる時も戦場にいるという心構え。
アスリートというより兵士である。
オーファンは単純にファイター技能あるいはフェンサー技能での勝負を望んでいたはず。
だがヴァンはスカウト技能で先手を取り、エンハンサーやアルケミストでバラメータを上げ、レンジャー技能でポーションを飲み、必要とあらば魔法も使う。
つまりオーファンが望んでいたのは『試合』であり、ヴァンが望んでいたのは『殺し合い』だったのだ。
巌流島の決闘でも同じことがいえる。
お互いに戦う相手を間違えたのだろう。
ヴァンは戦場へ、オーファンは闘技場へ行くべきだった。
「ロックアイランドでリサーチできマスか?」
「できます」
ロック島に渡って聞き込みをする。
ころころ
「……大きな声では言えないけど、オーファンはヴァンの弟子たちに殺されたって噂だよ」
「小次郎謀殺説?」
「なにそれ」
「一人で船島に来た小次郎を、武蔵の弟子たちが囲んで殺したって説だ」
「ええ……」
「コジローがゴーストにならないよーにロックスタイルとネーミングしたわけデスね」
「そういうことだろうな」
小次郎の怨念を鎮めるために、小次郎の技量を称えて巌流島と改名したわけだ。
神像を建立して怨霊を崇め奉るのと発想は同じである。
「謀殺されたんなら怨霊になるのもうなずけるな」
「ヴァンに復讐すれば怨念も消えて成仏するんじゃない?」
「そしてヴァンが怨霊になり、俺たちがヴァンに祟られて怨霊になるわけだ」
「……無限ループ怖い」
ヴァンを殺すのは問題外なので、他の方法を探す。
「ヴァンに土下座させる?」
「ドコにいるのかわかりまセン」
「それに夜になったらたぶんオーファンが暴れだすぞ。探してる暇はない」
「……やっぱり倒すしかないのね」
他に妙案も思い浮かばなかったので、ロック島に宿を取って夜になるのを待つ。
「夜になりました」
「よし、オーファン退治に行こう」
「ゴーストバスターズ!」
ころころ
「レイスのネームドモンスター『オーファン』です」
「いやー!?」
想定外のレベル13、いや、ネームドなので14レベルのアンデッドが出現。
もちろん剣のかけら入りだ。
シナリオ序盤でまさかのボスバトル。
「噂の真相を突き止めてPCはオーファンに同情してしまいましたからね。それでパワーアップしたのかもしれません」
「ええ!?」
怨霊信仰を利用した演出だ。
怨霊のことを調べるのは、怨霊退治の後にしたほうがよかったのかもしれない。
「……うざいんだよな、こいつ」
『妖霧の身体』は通常武器無効、投げ系の技無効、打撃ダメージ-5、魔法ダメージは自動的に半減し、さらに精神抵抗判定に成功すると魔法ダメージは4分の1になる。
非常に鬱陶しい。
「プロテクション2」
「レイジングアース2」
「ドレインタッチ」
「のー!?」
魔法でこちらのダメージを軽減し、毎ラウンド範囲内にいるキャラのHPを10回復して(範囲内にいればこちらも回復する)、HPを吸いとってくる。
しかも、
「ロック流奥義、スワローリターン!」
「うああ!?」
ゴーストのくせにオリジナルの剣技まで使ってきた。
装備しているのは魔剣『クローズポール』。
物干し竿のように長い剣だ。
あまりに長いため、普通に振るだけで乱戦エリア内にいるPCを5体まで同時に攻撃できる。
戦闘特技『薙ぎ払い』をノーリスクで発動できる能力だ。
なおこの剣にはHPが設定されており、オーファンの部位の1つとして扱われているため、ダメージを与えれば折れる。
「マッスルベアー、ジャイアントアームで打撃点を強化しつつ、クローズポールに全力攻撃!」
「クローズポールが折れました」
「よし!」
「オーファンの流派が変化します」
「は?」
「佐々木小次郎は富田勢源(とだ・せいげん)の弟子だったという説があります。富田勢源は中条流をベースにした富田流の開祖。脇差(わきざし)や小太刀(こだち)を使う流派です」
「え、小太刀って短い刀でしょ? 物干し竿とは正反対じゃない」
「技量が互角なら間合いの長いほうが有利。師匠の稽古相手を務めていたオーファンは、師匠の小太刀術を完成させるためにどんどん剣を長くしていったんです。そうして生まれたのがロック流。ですが、もともとオーファンの流派は小太刀術なので、折れたクローズポールで小太刀術を使ってきます。というわけで『ソードダンス』!」
「ぎゃー!?」
折れた魔剣で連続攻撃を食らい、ズタズタにされる。
クローズポールにHPが設定されていたのは、この演出のためだったらしい。
折れた魔剣のほうが火力が高いのもおかしな話だ。
ころころ
「落ちました」
「……やっと死んだ」
TRPGなら1回の戦闘で1時間かかるのは珍しくもないが、こういう長期戦は本当に疲れる。
ぐったりしながらロック島で一泊。
そして一夜明け、都市に戻ってオーファン討伐を報告しに行くと、
「神殿から緊急の依頼が届いている。ウィークリング向けの任務だ!」
「まだ戦うのか!?」
「すまんな。他に頼れる冒険者がいないんだ。神殿の敷地内にアンデッドが出現している。至急対処してほしい」
「……働きたくないでござる」
「みーとぅー」
「では一旦休憩して糖分補給しましょう」
「いえー!」
「蜂蜜リンゴのパイをお願いします」
「あいよ」
たしかフェアリーガーデンの『“蜂蜜姫”ラナの店』にあった料理だ。
うちのアップルパイははちみつを使っているので、そのままでもいいだろう。
サクサク生地にシャリシャリのリンゴ。
擬音がすぐに思い浮かぶものはうまい。
アップルパイならアップルティーかリンゴジュースだろうか。
似たような味を組み合わせるのはフードペアリングの基本。
アップルパイは特に同じ味と相性がいい。
スイーツとお茶は違う味がいいのなら茎茶がオススメだ。
あまり飲む機会のないお茶なので、こういう時に飲んでいたほうがいい。
疲労でにぶっていた脳みそが糖分で動き出す。
「あー、生きかえるー」
「ではアンデッド退治に行きましょう」
「……死体は生き返らなくていいから」
舌に残ったリンゴの甘みと酸味を茎茶でさっぱりさせつつ、神殿へ向かう。
「そういえば守りの剣ないの?」
「ありません。守りの剣はどこの地方でも不足気味ですし、50年の歴史しかない比較的新しい都市ですから。それに怨霊がマイナーゴッド化するので、マイナーゴッドの数だけなら世界でも有数です」
「へー」
ころころ
「アンデッドはハイレブナントとブラッドサッカーです。レッサーヴァンパイアやリャナンシーに似た個体もいますね」
「デジャブ!」
「……たしかに既視感を覚えるメンバーね」
いつもこいつらと戦っている気がする。
レイス戦でMPと気力は減っているものの、慣れた相手なのでそこまで苦戦はしない。
アップルパイのごとくサクッと倒して冒険者の店に戻った。
「今回のことは内密にな」
相場の倍の報酬を渡される。
口止め料だろう。
「しばらくしたらまた出てきそうね」
「リサーチしまショー」
HPを回復しつつ、アンデッドになりそうな存在を調べてみる。
「50年前まで、この辺りは『アークロード』の2つ名を持つバジリスクのウィークリングに支配されていました。長い戦いの末にアークロードを打ち倒して、人間の都市を築いたそうです」
「アークロードのアンデッドが神殿を襲ってたの?」
「少なくともバジリスクのアンデッドはいませんでしたね」
「まあ、アークロードが出てくるとしたら怨霊としてだろうな」
「アークロードが怨霊化する可能性も低いでしょう。この辺りの怨霊信仰では『怨霊になるのは人族だけ』だと思われていますから」
「ほわい?」
「この地方で怨霊になると信じられているのは、あくまで未練を残した『人族』や、無実の罪で死んだ『人族』です。ウィークリングは人に近い姿をしているとはいえ、しょせんは蛮族の劣等種。人族ではないので怨霊にならないと思われています。その証拠に広場にはウィークリングの首が並んでいます」
「ええ!?」
「それは死刑にされたウィークリングの首ですか?」
「はい。罪人の首です」
「死刑は廃止されてるんじゃないの?」
「死刑の廃止は明文化されていません。慣例的なものです。ただウィークリングにそれが適用されないだけで」
「……もしかしてアークロードって『悪路王』か?」
「ご想像にお任せします」
坂上田村麻呂と戦った蝦夷(えみし)の首長アテルイだ。
怨霊が恐れられていた平安時代でも、朝廷は蝦夷と普通に戦っている。
つまり蝦夷は人間扱いされておらず、怨霊化しないと思われていたのだ。
似たようなものだと『鬼』や『土蜘蛛』もそうだろう。
怨霊を生む要因の1つが『加害者の罪悪感』である以上、人間ではない存在を何人殺しても罪悪感は感じない。
「……ちゃんと埋葬しないからウィークリングがゴースト化してるんだろうな」
「怨霊を怖がってるくせに、自分たちがゴーストを生み出してることに気づいてないのね」
「もしウィークリングや蛮族の怨霊を認めてしまうと、いざ蛮族の怨霊が誕生した場合、その怨念を鎮めるために蛮族を神として祀らないといけませんから。神殿が蛮族やウィークリングの怨霊化を表立って認めるのは難しいでしょう」
怨霊信仰が盛んといっても、他の神々の神殿もそこら辺に建っている。
うかつに蛮族を神として祀り上げると宗教戦争になりかねない。
まあ、蛮族は信仰の対象ではないので、人々の思いが集まって天変地異を起こすレベルの怨霊になるのは難しいだろうが。
「ウィークリングを埋葬(インターメント)できマスか?」
「さらし首ですし、首を持っていくと間違いなく騒ぎになりますね」
「昼間は目立つから夜に動くしかないな。野犬に食われたように偽装しよう」
「でも夜になったらゴースト化するんじゃないの?」
「う……」
……とことんプレイヤーを悩ませるシナリオだ。
結局ゴーストになるのがわかっているのに昼間は首に手を出すことができず、そのまま夜を迎えてしまった。
「処刑場から悲鳴が響きました」
「……やっぱり出たな」
「でも処刑場で悲鳴っておかしくない? 処刑場に近づいた人がいるってことでしょ」
「あ……。もしかして俺たちの他にも首を埋葬しようとした人間がいた!?」
「ダッシュ!」
「一足遅かったようですね。さらし首の前に血まみれの死体が1つ。そして死体のそばでスペクターがゆらゆらと浮かんでいます」
「ザコだな」
剣のかけらも入ってないので、さほど苦戦もせずに倒すことができた。
「スペクターに殺された人間を調べよう」
「死体を調査しようとすると、神殿で建造中の神像が炎に包まれました」
「炎上!?」
「しまった、アンデッドの襲撃か!?」
死体を調べている暇はない。
神殿へ急行する。
ころころ
「ブラッドサッカー、ハイレブナント、レッサーヴァンパイア、リャナンシーです」
「こいつらどこから出てきたんだ? 素性もさっぱりわからん」
「ゴースト候補なのデハ?」
「は?」
「どういうこと?」
「死ねばゴーストになるのなら、不死者(ノスフェラトゥ)かアンデッドにすればいいのデス」
「そうか! ノスフェラトゥにしたり、アイスコフィンで冷凍睡眠して死なないようにすればいいのか。もしくはゴーストじゃないアンデッドにする」
「じゃあここにいるアンデッド、みんな誰かにやられたってこと?」
「ああ。よく考えてみればわかるはずだ。アンデッドはどこから出てきたのか? なぜあいつらは真っ先に神殿を襲ったのか?」
「……アンデッドが都市の外から来たんなら、神殿に行くまでに他の場所も襲ってるはずよね。でもアンデッドはほとんど神殿に集中してる。……もしかしてアンデッドに襲われたんじゃなくて、神殿の中から出てきた?」
「いぐざくとりー」
「でもなんで神殿がこんなことするの? この世界の宗教って魂の穢れを嫌うんだから、アンデッド作るなんて一番やっちゃいけないことじゃない」
「人の魂が穢れるよりも嫌なことがあるってことだな。……つまり神を穢されることだ」
「この都市でいう神って怨霊よね?」
「そう、怨霊だ。それも魂の穢れた怨霊」
「ウィークリングや蛮族(バルバロス)のゴーストですネ」
「ああ。ウィークリングや蛮族が怨霊化する可能性が万に一つだったとしても、逆にいえば一万人殺せば一人は天変地異クラスの怨霊になる。だが蛮族を神として崇めたら確実に宗教戦争になる。神殿は蛮族やウィークリングは怨霊にならないと主張せざるを得ない。そしてそう主張している以上、ウィークリングの処刑を辞めさせることはできない。だったら自分たちの手で秘密裏に処理するしかないだろ。さらし首の前で死んでた奴もたぶん神殿の人間だな」
「怨霊にならないように、さらし首を盗んで埋葬しようとしたのね」
「だが間に合わなかった。こういう事故が起こらないように、処刑される前に手を打つ必要がある。その結果が神殿を襲うアンデッドたちだ」
現代の刑務所でさえ犯罪者を収容するのに苦労しているのだ。
50年の歴史しかない中世レベルの都市の神殿が、秘密裏に犯罪者よりも凶悪なアンデッドたちを収監し続けることができるはずもない。
そして犯罪者として処刑されるはずだったウィークリングたちは、アンデッドになって暴動を起こし、神殿という名の監獄から脱獄したのである。
「代わりに俺たちが埋葬してやろう」
「ファイアボール!」
ころころ
「……やはりウィークリングのアンデッドではどうにもなりませんね。落ちました」
「びくとりー!」
「オーファンより弱くて助かったな」
「あれ? 私たちさらし首のスペクターとか神殿のアンデッド退治の依頼なんて受けてないんだけど……。これ報酬出るの?」
「出ません」
「のー!?」
「というのは冗談です」
一瞬ドキッとしたが、街を救った英雄ということで表彰されることになった。
「君たちへ『名誉人族』の称号を授けよう」
「なにそれ?」
「街を守るために戦った英雄へ敬意を表し、人族と同じ権利や待遇が与えられます。名誉市民のようなものなので、この都市でしか通用しませんが……。少なくともこの地域で活動するに当たり、ウィークリングであることで不利益をこうむることはありません」
「へー」
他の都市でも紹介状さえあれば、公的機関では人族と同じ待遇を得られるらしい。
「またPCの活躍によってウィークリングの社会的地位も向上しつつあり、ウィークリングの処刑も見直されるようになりました。そしてウィークリングの処刑数が初めて0を記録したこの月以来、子供のしつけではこう言い聞かせるようになったそうです」
先生がふっと息を吐き、母親が子供に言いつけるような口調でささやいた。
『悪いことをしたらアークロードが出るよ』
「げ!?」
「ちょっと待って! これまで何も起こさなかったのに、人間扱いされるようになってから祟りだすの!?」
「ウィークリングも人間と同じように心を持っていると認知されたということは、同情されるようになったということです。歴史も見直されました。50年前はウィークリングに支配されていたという表現は正しくありません。もともとこの土地は蛮族に迫害されていたウィークリングのために、アークロードが切り開いた土地なのです。それを人族が奪った。なのでウィークリングが怨霊になっても不思議はありません」
「……怨霊ひねくれすぎでしょ」
「ツンデレ!」
「ここに神像を建てよう。少しでも怨念を晴らすんだ!」
「アークロード信者が増えました」
「逆効果!?」
「でもアークロードが死んだのって50年前でしょ? さすがにもう転生してるんじゃないの?」
「一理ありますね。ではアークロードが転生しているか否か、判定で決めましょう。3人で2dを振ってください」
「ぐ……!」
やむなく3人でサイコロを振る。
ころころ
21
期待値だ。
ということは……
「アークロードが降臨しました」
「ぎゃー!?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます