デュラハンスレイヤー

「モン娘プレイしたい」


「もんむす?」

「モンスター娘。デュラハンとかラミアとかハルピュイアとかケンタウロスとか」

「ではバルバロスブックを導入しましょう」

「いえー!」

 ソードワールドにもモンスター娘(というか蛮族)に対応したルールがあるらしい。

 バルバロスブックをパラパラとめくり、どの蛮族でプレイするか選んでいく。


「デュラハンいないの?」


「いません。デュラハンシナリオならありますが」

「じゃあそれで」

「デュラハンシナリオだと人魚(マーマン)が重要NPCになるので、マーマン以外の蛮族をオススメします」

「らじゃー」

 マーマンはウィークリングの一種。

 ウィークリングとは魂の穢れが少ない蛮族だ。

 バルバロスブックに記載されているのはマーマン、ガルーダ、ミノタウロス、バジリスクの4種類。


 基本的に蛮族は魂が穢れているほど強いので、穢れの少ないウィークリングは本来の種族より弱く、外見的な種族特徴も薄い。


 たとえばガルーダは空を飛べる蛮族だが、ガルーダのウィークリングには飛行能力がない。

 落下ダメージを軽減するのが精いっぱいだ。

 ウィークリングは劣等種なので蛮族社会では奴隷のような扱いをされることが多いという。

 蛮族社会に居場所がなく、外見も人間に近いので、冒険者になって人間やエルフといった通常のキャラと一緒に旅をできるらしい。

「俺はミノタウロスにするか」

「アリスはトロールにしマス」

「……ガルーダのウィークリングをハルピュイアにしていい?」

「いいですよ。人間やエルフ、ドワーフとも交配しますし。……事が済むと養分として食い殺されますが」

「でもこれだと空飛べないのよね」


「種族特徴の『切り裂く風』をなくして、飛行能力を付け加えてもいいですよ?」


「やった!」

 TRPGだからこそできる、自由度の高いキャラメイキングだ。

「ハルピュイアは3歩歩くと忘れる鳥頭で、手と翼が一体化してるから手先が不器用な設定ね」

「では制限移動しながらの魔法行使や、手で扱う武器やアイテムの行為判定にマイナス修正しましょう」

「え」

「……余計な設定を付け加えるからだ」

「その代り足が器用なのよ! 足で弓撃てるし。飛べるから回避率だって高いんだから!」

「わかったわかった」

 通常プレイでは考えられないユニークなパーティ編成になった。

 これで大丈夫なんだろうか。


「舞台は蛮族領のとある国。ウィークリングながら生粋の蛮族とも対等に渡り合うPCの噂を聞きつけ、PCたちはマーマンの軍師(ウォーリーダー)に呼び出されました。ちなみにマーマンは車イスです」


「戦争で怪我でもしたの?」

「違います。ウィークリングのマーマンは種族特徴が薄いので陸上でも活動できますが、生粋のマーマンである軍師は下半身が魚なので歩けません。部下に車イスを押されながらマーマンはPCたちの前に現れ、こう告げました。あなたたちに護衛を頼みたいのです」

「用心棒(ボディガード)!」

「私は去年デュラハン・ロードに指を差されてしまいました。デュラハンはこうして『死の宣告』をした相手を1年後に殺すアンデッド。たとえ密室にいようと、孤島にいようと、デュラハンはどこからともなく現れ、宣告相手に死をもたらします。そして明日でちょうど1年」

「軍師なら軍人に護衛させればいいんじゃないの?」

「……隣国に不穏な動きが見られます。おそらく私がデュラハンに狙われていることを知っているのでしょう。日付が変わると同時に攻め込んでくるはずです。我が国は複数の蛮族(バルバロス)によって構成される多民族国家。種族ごとの対立が深く、まとまりがありません。私がいなければ烏合の衆と化すでしょう」


「蛮族を指揮するために前線へ出れば戦闘中にデュラハンロードに襲われる。デュラハンを恐れて後ろに下がれば軍隊が機能しないってことか」


「ボディガードをつけると兵士(ソルジャー)が足りなくなるのデスね」

「はい」

 戦場で指揮をする場合、デュラハンロードと隣国の敵兵に備えて軍師の警備を厳しくしないといけない。

 デュラハンロードはレベル11のアンデッド。

 そこらの軍人では手も足も出ないだろう。

 だが精鋭を護衛に回すと前線が崩壊する。

 そこで冒険者の出番というわけだ。


「引き受けてくださいますか?」


「もちろん」

「ではこれが前金です」

 前金を受け取り、日付が変わる前に装備を整えておく。

「もし私が死んだらこれを開けてください」

「え、遺書?」

「万が一の時のためです」

 念には念を入れておきたいらしい。

 軍師らしい性格というべきか。

 そして夜も更け、デュラハンを警戒しながらマーマンの護衛をしていると、

「敵軍に動きあり!」

「来たか」

 デュラハンの前に隣国が動いた。


「迎え撃て!」


「さー、いえっさー!」

「俺たちは行かなくていいんだよ」

 ガルーダ(もちろんウィークリングではない)に率いられた蛮族軍が、猛攻を仕掛けてくる。

 だが軍師の護衛をするPCに出番はない。

「軍師がいるので士気が高いですね。このままなら撃退できそうです」

「このままならね」

「はい。というわけで、お待ちかねのデュラハンロードです。アンデッドを引き連れ、どこからともなく本陣へ出現しました」

「じゃあ魔物知識判定(マモチキ)」


「軍師がいるので知識判定は自動成功します。あれは『ボーンナイト』でしょう」


 レベル9のアンデッドで、巨大な馬に乗っている。

 この馬を倒さない限り馬上のボーンナイトは回避力+2。

 そのボーンナイトが2体いる。

 かなり厄介だ。

「デュラハンロードは剣のかけらが入っているのでHP+55です」

 プリントアウトされたデュラハンロードのデータを渡された。


「あれ? デュラハンロードって魔法使えなかったっけ?」


「通常のデュラハンロードはレベル11の真語魔法、魔動機術、神聖魔法を使えますね。ですが、このデュラハンロードはイベントモンスターなので特殊な生態をしています」

 デュラハンロードは魔動バイクに乗っているはずなのに、こいつはレベル10のアンデッド『ゴーストホース』に乗っている。

 ゴーストホースを倒さない限り、デュラハンロードには近接攻撃が届かない。

 もちろんゴーストホースも剣のかけら入りでHP+50。

 しかも2部位の化け物なので2回攻撃してくる。

 魔法を使えなくてもなかなか強い。


「なおマーマンには『バブルフォーム』という能力があり、水中で泡になるとあらゆる攻撃を受け付けなくなります」


「ボディガードする意味がナイのでは?」

「1日1時間以上バブルフォームを使うと元に戻れなくなります。それに泡になっている間は味方を指揮できません」

「泡になるのは最後の手段ってことね」

「それとマーマンは生粋の蛮族なので穢れ度は4です」

「死んでも生き返らないのか」

 リザレクションで生き返ると魂が穢れてしまうため、ソードワールドの世界では冒険者以外リザレクションをしない(文化的・宗教的に魂が穢れることを嫌っている)。

 穢れ度が5になるとアンデッド化するので、マーマンをリザレクションするのは不可能。

 デュラハンを倒すしかない。


「バブルフォームは発動に30秒。つまり3ラウンドか。微妙に時間がかかるから、いつでも泡になれるようにマーマンはバブルフォームの用意。それから範囲攻撃だな」


 先手を取ったので、後方から前線にいる敵を範囲魔法でまとめて攻撃。

 そして前線へ通常移動し、『薙ぎ払い』でさらに範囲攻撃。

 ミノタウロスは種族特性『剛力』があるので破壊力もアップしている。

「薙ぎ払え!」

 さすがに1ラウンドキルは不可能だったものの、1ラウンドでかなり削れた。

 この調子ならデュラハンロードも恐れるに足らず。

 ……かと思いきや、


「デュラハンロードのHPが回復しました」


「は?」

「ボーンナイトのアースヒール?」

「いえ、誰も魔法は使っていません。突然デュラハンの傷がふさがりました」

「自己再生(リジェネーション)?」

「デュラハンに再生能力はありません」

「……なんなんだ?」

 原理は不明ながらも、傷が自動回復していくデュラハンロードを総攻撃。

「マッスルベアーと全力攻撃!」


「デュラハンロードが落ちました」


「うぃなー!」

 強敵ではあったが、MPを気にしなければどうにかなる相手だった。

「あとは隣国を撃退するだけだな」

「軍師がいるので士気は上々。徐々に敵を押し返しています。勝利は我らにあり!」

「敵陣に突入する?」

「敵兵が本陣に突入して来るかもしれん。念のために護衛しとこう」


「では、そうして両軍が戦うこと1時間。再び本陣へデュラハンロードが現れました」


「ええ!?」

「ただ剣のかけらは入っていませんし、馬もゴーストホースではありません。レベル7のデュラハンが乗っている馬とデータは同じです。お供のボーンナイトも1体だけですね」

「……さっきよりマシだな」

 不安があるとすればMPだけだ。

 念のためにバブルフォームを使っておく。

 事態がよく理解できないながらも、総攻撃で再びデュラハンロードを倒した。


「ぐぬぬ、軍師は健在か。やむを得ん、一旦退けい! 隣国の軍隊が撤退していきます」


「……やっと終わった」

「でもデュラハンロードがまたアタックしにくるかもしれまセン」

「問題はそれだな」

「情報収集したいけど、軍師のそばから離れられないのよね」

「敵軍も偽装撤退の可能性があるので、しばらくは軍を動かせません。私の部下に情報を収集させましょう」

「お願い」


ころころ


 探索判定をする。

「……今回の件と関係あるのか不明ですが、墓地が荒らされていたそうです」

「墓地(ぐれいぶ)?」

「蛮族って土葬なの?」

「穢れ度の高い蛮族は死ぬとアンデッドになる可能性が高いので火葬が主流ですね。死体の肉を食べることもあります」

「うえ……」

 いかにも蛮族らしい埋葬の仕方だ。

「そういえば倒してから1時間後にデュラハンロードがまた攻めてきたんだよな。もしかして盗んだ死体でクリエイト・アンデッドか?」

「デュラハンロードなんて作れないでしょ」

「うーん……」

 真相がまるでわからない。


「連戦で疲れて頭が回らないわね。糖分補給しましょ。バナナマフィンとフルーツオ・レね」


「またわけのわからんものを……」

 元ネタがよくわからないが、バナナを入れて焼いたマフィンと、リンゴ・パイナップル・オレンジとミルクのフルーツオ・レで一服。

 本来うちのメニューにはないものの、調べれば普通にレシピも出てくるので味は整っている。

 バナナが黒く変色してしまったので見た目はよろしくない。

 だが焼いて甘味の増したバナナとマフィンは意外に相性が良かった。


「墓地についてくわしく調べますか? それとも他のことについて調べますか?」


「どっちにする?」

「じゃあ墓地で」

「では墓地について調べさせましょう」

 酸味のあるフルーツオ・レを飲みながら、コロコロとサイコロを振って探索判定をしていると、

「前回の戦闘から1時間が経過しました」

「げ!?」

「お待ちかねのデュラハンロードです」

「まいがっ!?」


「やっぱりクリエイト・アンデッドか!」


 あるいはリザレクションやクリエイト・ゴーレムなどの、発動に1時間かかる系統の魔法だ。

 それは間違いない。

「全力攻撃!」

 三度(みたび)デュラハンロードを倒し、


「どうやら荒らされていたお墓はデュラハンの被害者のもののようですね」


 墓地の調査が無事に終わった。

「決まりだな」

「クリエイト・アンデッドですネ」

「でもどうやってデュラハンロードを作ってるの?」


「ひょっとしたら首の力かもしれません」


「首?」

「あのデュラハンには首がありませんでした」

「? デュラハンなんだから首がないのは当たり前でしょ」

「いえ、そういう意味ではなく……。どこにも首を持っていなかったということです」

「ルールブックだと『左腕に自分の首を抱えて持っている』ってあるな。それを持ってなかったってことは……」


「首(ヘッド)がデュラハンの本体(コア)なのデハ?」


「たぶんそうでしょう」

 デュラハンは複数部位のモンスターではあるが、それは自分が乗っている馬や戦車を含めての話。

 デュラハン本体は複数部位ではない。

 首と体を含めて1体のデュラハンなのだ。


 このデュラハンロードのように体と首で2部位にしたほうが自然なのだろうが、ゲームバランス的な問題でこうなっているのだろう。


「首が本体なら何度もロードが襲い掛かってくる説明にもなりますし、魔法が使えなかったことも、何もしていないのにデュラハンの体が再生していたことも説明がつきます」

「そういえば再生能力が謎だったのよね」

「どういう原理で回復してたんだ?」


「デュラハンの首からは血が流れていません。デュラハンの首と体は分離しているように見えて、実は繋がっているのではないでしょうか。つまり穢れた存在を癒す『テインテッドポーション』を首が飲むと、ポーションは遠く離れた体の胃に流れ込み傷を癒すのです。だから何もしていないのに傷が回復していたように見えたのでしょう」


「デュラハンロードが魔法(マジック)を使えないのも口(マウス)がないからデスね」

「そういうことか」

 どの魔法も発声を必要とする。

 首がない(呪文を詠唱できない)から魔法を一切使えなかったのだろう。

 デュラハンロードが魔法を使えなかった理由をもう少し深く考えておくべきだった。

 発声は聖魔法や魔動機術、妖精魔法で特に重要となる要素。

 信仰する神の聖印や、マギスフィア、宝石といった魔法の発動体を持ち、発声(神・機械・妖精への命令・契約・交渉)をしないと発動しない。


 逆にいえば聖印があって声を発することができれば、デュラハンの首だけでも神聖魔法は発動できる。


 真語魔法や操霊魔法の行使には発声と魔術文字が必要だ。

 魔法の杖や魔力を持つ指輪をはめ、魔術文字を描き、呪文を詠唱することで魔法が発動する。

「真語魔法を使えるから使い魔がいるはずよね」


「はい。おそらく鳥の使い魔が首を運び、どこかから戦場を観察していたのでしょう。そして体が傷を負ったら、首にポーションを飲ませて回復していた」


「体が破壊されたらボーンナイトを呼んでクリエイト・アンデッドか」

「はい。もしかしたらデュラハンは自分の体のスペアを確保するために、人に死を宣告しているのかもしれません。あの死の宣告はデュラハンの呪いなのです!」

「『コールデッド』!」

 ルールブックでは死の宣告をした相手を1年後に殺す理由は不明となっている。

 その謎をシナリオに組み込んだわけだ。


 レベル15の神聖魔法『コールゴッド』は呼び出す神のランクによって発動までの時間が変わる。


 小神(マイナーゴッド)なら準備に6ラウンド、発動に1ラウンドだが、最高レベルである古代神になると準備に1年、儀式に1週間かかる。

 たしかにデュラハンの死の宣告はコールデッドと呼ぶにふさわしい。

 ……古代神を呼び出すと地図が描き換わる(大陸に穴が空く、島が生まれる、範囲内にいるレベル35以下の存在は一掃される)レベルなので比較にはならないが。

「デュラハンに死の宣告をされた状態で殺されると、その死体はクリエイト・アンデッドの発動に必要な『魔力を帯びた死体』になる。デュラハンは自分の体を失っても、魔力を帯びた死体の首を切り、デュラハンの首をくっつけてクリエイト・アンデッドをすることで、その死体をデュラハンロードに変化させられるのです!」

「……最悪だな。墓地から持ち出された死体の数は?」

「4体です」

「どこかでクリエイト・アンデッドしてるわね」


「はい。これ以上復活されてはたまりません。早く首を探しましょう。……とデュラハン退治の相談をしていたところへ、カンカンという鐘の音がします」


「まさか!?」

「そのまさかですね。敵襲! 敵襲! 隣国が態勢を整えて再び攻めてきました」

「しっと!」

「……墓地から持ち出された死体は4体。最悪、あと2回ロードと戦うことになるぞ」

「さすがに5回倒すのはきついわね。5回目の戦いでは首と体がそろうはずだし、総力戦になるはず。体力が持たない」

 ここで首を見つけないと詰むかもしれない。

 だがデュラハンの首を探しに行くと、護衛なしにマーマンが前線へ行かないといけなくなる。

 デュラハンを恐れてマーマンをどこかに避難させていると、前線が崩壊して都市が落ちる。

 時間との戦いだ。


「空を飛んで上から首と使い魔を探索!」


「物陰に潜んでいるのか、空からでは見つかりません」

「アンデッドと魔法生物だから生体探知もできないんだよな。廃屋とか下水道とか、怪しい場所を虱潰しに探すしかないな」

 非戦闘員も総動員して周囲を徹底的に探索。

「スラム街にてボーンナイトの目撃例多数!」

「ダッシュ!」


「スラム街を探索するとボーンナイトとデュラハンの首、鳥の使い魔を発見しました。前回の戦闘から1時間が経過しているので、クリエイト・アンデッドはすでに発動しています。遅かったなバルバロスの戦士たちよ、これでお別れだ。使い魔はデュラハンの首を抱えて東の空へ、デュラハンの体は馬に乗って西の戦場へ向かいました」


「2択か!」

「どっちを追うの?」

「首しかないだろ。首がコアなんだから首を破壊すれば体も死ぬ」

「でも体はボーンナイトが作ったアンデッドじゃない。術師のボーンナイトを倒さない限り、首を倒しても動く可能性あるわよ」

「う、じゃあ体を追うしかないのか……」

「のん。首(ヘッド)を追うべきデス」

「体はどうすんだ?」


「ヘッドとボディは道(パス)で繋がっていマス。ヘッドを捕獲(キャッチ)して、口(マウス)にアタックしまショー」


「口に攻撃?」

「あ、口の中に腕を突っ込んで攻撃すれば、デュラハンの体を内部から破壊できるのか!」

「いぐざくとりー」

 デュラハンの首はポーションを飲むことで、遠く離れた場所から体の傷を癒していた。

 今度はそれを逆に利用してやろうという作戦である。

 首を破壊すればもうクリエイト・アンデッドで体を再生することもできず、遠距離から体を破壊すればマーマンの暗殺も防げる。

 完璧な作戦だ。

「首を追います!」


「では100mほど走った場所で敵に追いつきました」


 前線にボーンナイト、敵陣後方にデュラハンの首と鳥のファミリアが強制的に配置される。

 デュラハンの首へ攻撃するにはボーンナイトを倒すしかない。

「ホーリー・ブレッシング」

「げ」

 首が神聖魔法を使ってきた。

 HP30のバリアを発生させる魔法である。

 30ダメージを与えてバリアを破壊しない限り、敵にダメージを与えられない。

「ゴッドフィスト!」

 おまけに攻撃魔法まで使ってくる。

 首だけとはいえ侮れない。

 ようやくホーリー・ブレッシングを突破してボーンナイトを倒しても、


「インターナル・ディスコード!」


「ぎゃー!?」

 首に特殊神聖魔法で心を操られ、同士討ちをさせられてしまう。

 タチの悪いことに首と鳥は2体で1体扱いであり、首は常に飛行状態だった。

 空を飛んでいるので無駄に回避率が高い。

 破壊力重視のミノタウロスの攻撃はなかなか当たらない。

「キャッツアイで牽制攻撃!」

「首が落ちました」

 必中の魔法や、命中率を高めた攻撃をチクチク当てて、なんとか首を倒すことに成功。

 しょせん首なので、回避率を除けば体より弱い。

「デュラハンのマウスにマジック!」

 口の中に杖を突っ込んで、最大火力の魔法をぶっ放す。


「……見事だ、バルバロスたちよ。貴公らの魔法は私の体を吹き飛ばした」


「やった!」

「貴公らの守るべきマーメイドとともにな!」

「ふぁっ!?」

「デュラハンの体を中心に魔法がさく裂し、マーマンはそれに巻き込まれて死にました」

「ええ!?」

「くっくっく、私は誇り高きデュラハンロード。逃れられぬ死の運命を与えるものなり!」

「マーマンを巻き添えにしやがったな、この野郎」


「……頭踏み潰して」


「ハルピュイアが全体重をかけてデュラハンの頭蓋骨を踏み砕きました」

「……結局クエスト失敗か」

「任務失敗(ミッション・フェイルド)」

「遺書を読みますか?」

「そんなのもあったわね」

「読むしかないな」


「もし私が死んだ時、その肉体が原型を留めているのなら、死体を操って敵の目をあざむいてください」


「なにこれ? クリエイト・アンデッド?」

「いや、『死せる孔明(こうめい)、生ける仲達(ちゅうたつ)を走らす』じゃないか?」

「オー、三国無双(さんごくむそー)!」

 三国志の有名なエピソードだ。

 軍師の孔明が死んだと聞き、仲達は猛攻を仕掛けるものの、蜀の軍隊が反撃をする素振りを見せたため『自分を誘い出すために孔明は死んだふりをしていた』と思い込んで撤退したという。


「三国志演技だと孔明が生前に自分そっくりの人形を作ってて、それを見て驚いた仲達が撤退したんだよな」


「三国時代にそんな人形作れるわけないじゃない」

「だから死体なんだよ」

「あ」


「……私ならば敵の目を欺けるやもしれません。車イスを押していた蛮族が、マーマンそっくりの声でこたえました」


「なるほど、人形だけじゃなくて声も用意してたわけか。用意周到だな」

「え、どういうこと?」

「三国志の漫画だと晩年の孔明は車イスなんです。自分の死期を悟っていた孔明は、わざと車イスで生活していたとも考えられますね。車イスなら背後に必ずそれを押す人がいます。腹話術師がいても怪しまれない」

「怪しまれないように生前から後ろの腹話術師が喋ってたってことか」

「どういう風に敵へ対処すればいいか。遺書には事細かに書かれています。相手をだましとおすことができれば、急場はしのげるでしょう」


「オペレーション・デュラハン!」


「いい作戦名ですね」

 デュラハンの本体が左腕に抱えられていた首であったように、マーマンの本体もまた後ろの腹話術師だった。

 皮肉なシナリオ構成である。

「どうせなら思いっきりハッタリきかせましょ」

「そうだな」

 マーマンの死体を車イスに乗せて前線へ赴き、これ見よがしに敵将の首をかかげ、指を差して高らかに宣告する。


『兵を退きなさい。さもなくば一年後、貴国は地図から消えているでしょう』

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