ジャイアントスレイヤー
「アトラスを倒してほしい」
「アトラス?」
「神話の時代に石にされ、山になった巨人族という設定のオリジナルモンスターです。きゃつめ、封印されていた腹いせか。我々をアリのように踏み潰しおる!」
「ちなみに標高どれくらい?」
「3776mです」
「フジヤマ!」
「……いくら何でもでかすぎませんか?」
「ユグドラシルクラスですね。天を衝く巨人です」
「絶対倒せないでしょ、それ」
「いや、伝説によればアトラスの一族を滅ぼした冒険者たちがいたらしい。彼らはアトラスの体内に侵入し、内側から巨人を打ち倒したという」
「まあ、正攻法では倒せないよな」
それこそ石にして封印するぐらいしか方法がない。
「冒険者じゃなくて国が動く事案のような気がするんですが……」
「主な行動範囲はアトラス山脈周辺と海岸沿いで、被害が一部の地方でしか出てないんですよね。この巨体なので陸上生活には向きません。だいたい海を歩いて大王イカをつまんでます」
スケールがおかしい。
海に潜るのではなく、歩きながら深海にいる巨大生物に手を伸ばして捕食しているらしい。
下手に刺激すると大陸レベルの被害が出るので、国も手を出しかねているようだ。
国に頼れないから冒険者に助けを求めているのだろう。
「体内に侵入するからには、内部はダンジョン構造になってるんでしょうね」
「だろうな。敵も出るはずだ」
「ではジャイアントキリングの技術(アーツ)をぷりーず」
「すまぬが何もわからぬ。具体的な方法は記録に残っておらんのだ」
「なんでそんな大事なことを記録してないのよ」
「察してください」
攻略法が残っていたらプレイヤーは迷わずそれを実行するのでGMが困るということだろう。
「ピュリフィケーション使う?」
「ピュリフィケーションは通じまセン」
「あ、体内に生命の妖精がいるから血は真水にできないんだっけ」
MP2で100リットルを真水に出来るから、ピュリフィケーションが通じるのなら魔晶石を割りまくればどうにかなったかもしれないが……。
そこまで甘くない。
「出血多量で死ぬだけの傷を付けるのも難しいだろうな。再生能力が高そうだし、外からでも回復魔法はかけられるから即死させる必要がある」
「毒(ポイズン)もダメですネ」
「そうね、解毒は外からできるし。そもそも量が足りなさそう」
ルールブックを読みながら色々と考えるのが面白い。
たとえばレベル12の妖精魔法カレント。
これは川や潮の流れを変える。
滝を逆流させて昇ることもできるらしい。
しかも水の流れは時速50キロまで加速可能だ。
大量の血液を時速50キロで逆流させれば、いかな巨人とて心臓が破裂するだろう。
レベル10のパーティなので残念ながらこの方法は使えないが……。
真語魔法レベル14ディメンジョンゲートもいい。
半径3メートルの出入口を作ることができる。
出入口は空間を超えて繋がっているらしい。
だいたいTRPGだとこういう魔法やアイテムは水攻めで使われる。
海に繋いで大量の海水を洞窟に流し込んだりするわけだ。
火山の溶岩でも可。
体内に海水や溶岩を流し込めば巨人を倒せるにしても、体内には俺たちもいるので下手をしたら自爆してしまう。
なのでやるとしたらその逆。
血管に入口を作り、血をどこか別の空間へ送り込んで出血多量で殺す。
ただ効果時間30秒、半径3メートル、消費MP24で巨人の血の3分の1を減らせるのか疑問だが……。
殺すと同時に巨人の体内から脱出できるのはポイントが高い。
「シンプルに脳か心臓を狙おう」
「ウォーキングでは時間がかかりすぎるので、血管(ブラッド・ヴェッセル)をスイミングしまショー」
「えーと、心臓から全身に血を巡らせるのが動脈、心臓に戻るのが静脈だっけ?」
「ああ。だから静脈の血流で移動して心臓を直接破壊する」
「ハートブレイクショット!」
あとは体内への侵入方法だ。
「おヘソから入れば?」
「ヘソの緒を切ったら穴は自然に塞がる」
「え、そうなの?」
「そうなのデス」
「動く富士山だから空を飛べる騎獣がいても厳しいな」
口や鼻、耳は位置が高い。
仮に侵入できたとしても、巨人は呼吸している。
とてつもない突風だ。
煽られるのも危険だし、吸い込まれても危ない。
特に吸われると侵入ルートが選べなくなりそうだ。
鼻や気管に入れば巨人がくしゃみか咳(せき)をする。
呼吸よりも激しい突風だ。
おそらくその衝撃で死ぬか、空中に投げ出されて墜落死する。
胃に入ると胃液に溶かされるだろう。
胃液の中で敵と戦うのは自殺行為。
巨人の食事が上から落ちてきて潰される可能性もある。
危険だ。
口や鼻や耳のような弱点を放置しているとも思えない。
警備は厳重だろう。
門番の待ち構えている場所へ突っ込むようなものだ。
別の場所を探したほうがいい。
「奇襲だ。適当な場所に穴を開けて侵入しよう。ガーディアンが来る前に奥へ進む」
「人が通れるだけの穴なんて開けられるの?」
「『破城槌(はじょうつい)』なら大丈夫だろ」
破城槌は城門や城壁を破壊する攻城兵器。
破城槌、破城塔、投石器などを装備している象戦車の騎獣デモリッシャーの出番だ。
相手が構造物ならチャージをした時に100点の物理ダメージを与えられる恐ろしい兵器である。
レンタルするのも運用するのも金がかかりそうだが、そこは必要経費で落とす。
人の胴体ほどもある丸太の先端を尖らせ、
「アタック・オン・タイタン!」
鐘を突くように皮膚を貫き、素早く引き抜いて体内へ侵入する。
富士山クラスの化け物なので、多少の穴が開いても痛みは感じないらしく侵入は楽だった。
問題はここからだ。
「敵はいますか?」
「周囲にはいませんね。ただこちらへ駆けつけてくる気配を感じます」
「血管(ブラッド・ヴェッセル)はありマスか?」
「それっぽいのはあります。種類はわかりませんが」
「敵が来る前に突入しましょ」
「待て。水上歩行ができるハードウォーターと、水中を自在に移動できるスケイルレギンスを準備しとこう。このままだと溺れそうだからな」
準備を整えてから血管を切り裂き、内部へ突入。
そのままだと駆け付けた敵に血管へ逃げたことがバレるので、即座に回復魔法をかけて血管を修復。
血の流れに身を任せる。
「巨人の体温は36度。粘着性のある血は不快感があり、血の中では目も開けることができません。ここで戦う場合、判定はマイナス修正されます。酸素も物凄く薄いですね。体温により一定時間ごとにHPが減少、酸素も一定時間ごとに減っていきます」
「……きつすぎ」
「ん? そういやエンハンサー技能って呼吸法だよな。もしかして酸素が薄くなったらスケイルレギンス解けるのか?」
「もちろん解けます」
「げ」
それにエンハンサー技能には血の流れをコントロールするストロングブラッドがある。
血の流れを加速されたら危ないかもしれない。
アトラスがストロングブラッドを使えないことを祈ろう。
「敵(エネミー)はいマスか?」
「白いのと赤いのがいますね」
「じゃあ魔物知識判定を」
「操霊魔法(コンジャラー)技能があるので自動成功。ホワイトブラッドセルとレッドブラッドセル。ようするに白血球と赤血球ですね。レッドセルは酸素を運んでいます。ホワイトセルは……」
ころころ
「特に何もしていません」
「……今の判定はなんですか?」
「秘密です」
「白血球ってウイルスバスターよね」
「たぶんエネミー判定デスね」
「判定でこちらの正体がバレると襲い掛かってくるってわけか」
魔法生物ということは体内で自動生成されるゴーレム。
特定の命令(本能?)に従って動くので知能は低い。
動くものを攻撃するように命令すると自分の細胞を殺してしまう可能性もあるので、白血球への命令は『故意に肉体を傷つける生物の排除』になっているはずだ。
わかりやすい敵対行動を取らなければ、白血球の判定も甘くなるだろう。
「外敵認定される前に先へ進んだほうがいいのかもしれん」
「酸素欠乏症(チアノーゼ)になりマスよ?」
「酸素持ってるレッドセル倒さないと」
「くそ、ホワイトセルの前で倒すと外敵認定される。だが定期的にレッドセルを倒さないと酸欠で死ぬ。戦闘を回避するのはまず無理だな」
「妖精魔法(フェアリーマジック)でエアを集められマスか?」
「空気が薄いということは、風のマナが薄いということですが……。真空ではないので風の妖精魔法も一応使うことはできます」
「じゃあ妖精魔法で酸素を集めよう」
「サモンフェアリー!」
風の妖精シルフを召喚する。
「風の妖精さんが血管内の酸素を集めてくれました。……レッドセルの持っていた酸素を」
「え」
「レッドセルが本能的に酸素を求めて殺到してきました」
「ぎゃー!?」
レッドセルと戦闘に突入する。
だがしょせん酸素と二酸化炭素を運ぶぐらいしか能のない細胞だ。
先手を取って範囲魔法をかまし、一掃する。
「『魔化された細胞』を入手しました」
戦利品判定でアイテムを手に入れたものの、問題は次だ。
「ホワイトセルに外敵認定されました。ついでに血小板ことプレートレットもこちらへ向かってきます」
「……血液中だと回避能力高いな」
「ホワイトセルにハードウォーター!」
ソードワールドQ&Aブックによれば、水中のモンスターにウォーターウォーキング(ハードウォーター)をかけると、一気に浮き上がって水面に出てくるらしい。
もちろん魔法の効果がある限り、水に潜ることはできない。
ただしあくまでそれはソードワールド無印での話だ。
「残念ながらハードウォーターは抵抗が『任意』です」
「しっと!」
魔法には半減や消滅などの種類がある。
魔法抵抗判定に成功すればダメージが半減したり、魔法そのものが消滅するわけだが、抵抗が任意の場合、魔法抵抗判定がない。
対象が抵抗を宣言したら自動的に成功する。
つまりソードワールド2.0系では敵にハードウォーターはかからない。
「くそ、当たらん!」
回避力の高いホワイトセルに翻弄されながらも、何とか敵を一掃する。
「目に見える範囲に敵はいなくなりました」
「血は流れてるわけだから、グズグズしてると後ろからドンドン敵が流れてくるぞ。白血球より強いマクロファージが来るかもしれん。先を急ごう」
「そうね」
「しばらく進むと視界内にレッドセルとホワイトセルが現れます。先行集団に追いついた形ですね」
「……流れに身を任せれば、一定の距離を保ったまま心臓まで行けるんじゃないの?」
「酸欠にならなければな」
「そもそもココはハートに繋がっているのデスか?」
「……あ。動脈で酸素を運んで静脈で戻るんだから、静脈の赤血球は二酸化炭素しか持ってない!」
「じゃあ今いるの動脈ってこと?」
「そうなるな」
まずは動脈から外に出て、静脈へ移動する。
問題はどうやって酸素を確保するかだ。
「二酸化炭素(CO2)と酸素(オキシジェン)のトレードは可能デスか?」
「は?」
「フェアリーマジックでレッドセルの二酸化炭素(CO2)と酸素(オキシジェン)を入れ替えマス」
「知能が低いから酸素を渡されたら素直に運びそうな気はするな」
「判定に成功すれば可能です」
「それでいきましょ」
PCが酸素を運ぶのは難しい。
どうしてもMPを消費してしまう。
レッドセルに運んでもらったほうが効率的だ。
「敵が現れました。魔物知識判定をお願いします」
「自動成功じゃないってことは、魔法生物じゃない敵か?」
ころころ
「リャナンシーとラミアです」
「蛮族(バルバロス)!?」
「なんでこんなところにいるんですか!」
「どちらも血が必要な種族ですから。アトラスと共生関係にあるようですね。外敵を始末してくれたら血を吸わせてもらえて、ホワイトセルに襲われることもない」
「ぐ、知能のある蛮族の目をごまかすのは無理だな」
「この雑菌どもめ!」
「ウイルスバスター!」
リャナンシーやラミアのほうがウイルスっぽいくせに、こちらをウイルス認定して襲いかかってきた。
ラミアはレベル6なので相手にならないが、リャナンシーはレベル11。
血を吸われると誘惑される。
誘惑されても行動不能になるぐらいなので、先手を取って集中攻撃すればそこまで恐い相手ではない。
ただ蛮族にしろ、白血球にしろ、数が多すぎる。
心臓へ行く前に力尽きそうだ。
「ディスガイズしよう」
「ナイスアイデア」
操霊魔法のディスガイズを使えば人間や蛮族に変身できる。
これで蛮族との無駄な戦闘は避けられるだろう。
……なお魔法生物は知覚が『魔法(五感ではなく、マナの動きや量で周囲を識別している)』なので変身(幻覚)が通じない。
要注意だ。
「未知の生物が戦っている場面に遭遇しました。これもゴーレムなので判定は自動成功。キラーセルとヘルパーセルですね。キラーとヘルパーが戦っているのがキャンサーセル」
「魔法生物(ゴーレム)が同士討ち?」
「故障かしら」
「本来なら仲間であるセルを殺すことはないはずなのですが……。キラーセルは例外的にセルを攻撃できるように設計されているので、キャンサーセルを攻撃しています。キャンサーの名前の由来はハサミのような形をしているから。その正体は……」
「ガン細胞デスね」
「お、ガン細胞か!」
ガン細胞は生成時のエラーによって産まれる細胞だ。
つまりもともと自分の体の細胞なのである。
自分で自分の細胞を攻撃するのは危険なので(知能が低いので殺してはいけない細胞を殺してしまう恐れがある)、キラーT細胞のような自分(ガン)殺しに特化した専用の細胞が必要なのだ。
ヘルパーT細胞はキラーTの司令官。
キラーはヘルパーの命令によって動いている。
「キャンサーを分裂させれば巨人も倒せるはず!」
キャンサーを庇いつつ、T細胞を倒さないといけない。
……ただT細胞の数が多すぎる。
「ヘルパーにコマンド!」
「なるほど。コマンドでコマンドさせるのか」
コマンドは操霊魔法(コンジャラー)レベル10。
ゴーレムに新しい命令(コマンド)を与える魔法だ。
ヘルパーセルがキラーセルに命令を与えているわけだから、ヘルパーにコマンドをかければキラーセルにコマンドをかけられる。
しかもキラーセルは自分殺しに特化した細胞なので仲間殺しは得意。
キラーセルの数をそろえれば巨人の体さえ破壊できるかもしれない。
自分で自分の体を傷つける、いわば自己免疫疾患だ。
……コマンドの効果時間は1分しかないのがネックだが。
「コマンドをかけるのなら、ゴーレムの支配者との達成値の比べあいになるんですが……。シチュエーション的にアトラスとの勝負になるのは変な感じなので、ヘルパーの精神抵抗判定にしましょう」
ころころ
「失敗しました」
「成功するまで回せば確定ガチャ!」
言ってる意味がよくわからないが、成功するまでコマンドをかけ続け、同士討ちに成功するものの……。
「キャンサーは助けられなかったか……」
キャンサーを分裂させ、巨人をガンで殺すという作戦は失敗した。
「……うーん。心臓か脳を破壊、ガン細胞の分裂、ヘルパーへのコマンドで自己免疫疾患。もっと選択肢がほしいな。条件さえそろえばいつでもアトラスを殺せるようにしたい」
「血管に空気を注入すれば死ぬんじゃなかったっけ?」
「風を操ればどうにかなりそうな気はするが……。さすがに空気が心臓へ行く前に止められそうだな」
「血小板(プレートレット)をジェノサイドしマスか?」
「血小板を殺してどうすんだ?」
「動脈硬化(どーみゃくこーか)を起こしマス」
血を凝固させて、血管をつまらせようという作戦らしい。
だが血管を詰まらせるほどの血小板となると、10や20ではきかない。
物理的に困難だ。
ああでもない、こうでもないと議論しながらも、たった一つの冴えたやり方は見つからず、心臓を破壊するために地道に血管の中を泳いでいく。
「渦潮(うずしお)に巻き込まれました」
「血管に渦潮!?」
「外傷によって動脈と静脈が繋がっているようです。泳ぎの得意なエルフや、スケイルレギンスでもダメージを受けます」
「うああ!?」
ダメージを食らった上に、よくわかない場所まで流されてしまう。
やむなく一度血管の外に出て、巨人の肉を切り裂き、外に顔を出して現在地を確認。
「腰です」
まだ心臓まで距離がある。
ため息を吐きながら先へ進んでいると、
「謎の部屋とメモリーセルを発見しました。データ管理室のようですね」
「使えそうなデータがありそうだな」
とりあえずメモリーセルをサクッと殺し、中を探索する。
「これまで巨人の体内に侵入してきた生物のデータがあります。もちろんPCのデータも」
「一度体内にウイルスや細菌が入って暴れれば、それにたいする免疫ができるわけだからデータも残るのか」
「魔物知識判定ぐらいでしか役に立たないでしょ」
「そーでもありまセンよ? キャンサーのデータをぷりーず」
「どうぞ」
「ガン細胞のデータなんて何に使うんだ」
「クリエイトゴーレムでキャンサーを作りマス」
「はっ!?」
「そんなことできるの!?」
「魔物知識よりも詳しいデータと戦利品で入手した『魔化された細胞』があるので、コンジャラー技能レベルさえ満たしていれば作ることは可能です」
「おお!」
「こんなの作るしかないじゃない!」
「クリエイトゴーレムは行使に1時間かかります。それでも作りますか?」
「いえす」
「ではキャンサーを作ります。データ管理室を襲撃したので、とうぜん巨人の細胞たちが反応しますね」
「邪魔はさせないわよ!」
「襲撃してくる魔物はサイコロで決めましょう」
ころころ
ホワイトセルとブラッドサッカーだ。
楽勝だろう。
「ミフネを頼みマス」
「用心棒(ボディガード)って言え」
アリスはクリエイトゴーレム中なので戦えない。
「踏ん張りどころだな」
ここでセッションの成否が決まる。
「プリンと乳酸菌飲料ね」
「あいよ」
プリンと乳酸菌飲料で糖分補給し、気合を入れなおす。
なお乳酸菌はプリン体を分解してくれる善玉菌だ。
ブラッドサッカーのような悪玉菌を倒すならこれだろう。
「乳酸菌摂ってる?」
元ネタがよくわからないセリフを叫びつつ、アリスを庇いながら細胞や蛮族などを撃退していく。
1時間で3回ほど戦闘をこなし、
「キャンサーが完成しました」
「いえー!」
「よし、分裂させよう」
「分裂も時間がかかります」
「ぐ」
問題はそれだけではない。
「徐々に巨人の体温が上がってきました」
「え」
「免疫反応ですね。体内に悪性のウイルスが侵入したことはバレているので、体温を上げてPCが活動しにくいようにしています」
「いま何度?」
「38度です」
「……シャレにならんな」
どんどんHPが減っていく。
しかもこれからもっと温度が上がっていくだろう。
おまけに、
「お待ちかねの襲撃者ロールです」
「待ってない!」
ころころ
「ああっ、キラー集団!?」
「よっしゃ!」
キラーとヘルパーが出現した。
コマンドでヘルパーを操ってしまえばあとは簡単。
「1、2、4、8、16、32、64(ロクヨン)、128、256!」
倍々ゲームでキャンサーが増えていく。
「勝ったな」
「びくとりー!」
もはやキャンサーを止める術(すべ)はない。
「体内をキャンサーに蹂躙され、アトラスは前のめりに崩れ落ちました」
「……ん、なんか前にもこんなパターンなかったか?」
「富士山が上から落ちてきたってことよね」
「スプラッシュマウンテン!」
人里に崩れ落ちたらクエスト失敗だ。
巨人の態勢や周囲の状況を考えておくべきだった。
ころころ
「運よくアトラス山脈のあった場所に崩れ落ちたので、人里に被害はありません。しばらくすれば新たなアトラス山脈になるでしょう」
「助かった……」
「ただキャンサーはフリーダムに活動していますね」
「え」
「65536体のキャンサーはすでに操霊術師(コンジャラー)の制御下にありません。基本的に操れるゴーレムは1体だけ。ダブル・インディケイトなら2体操れますが、残りのキャンサーの暴走を食い止めるのは不可能です」
「まいがっ!?」
「ちなみにセル系のゴーレムは体外に出ると死ぬので安心してください」
「私たちが出れないのよ!」
こうしてジャイアントスレイヤーは帰らぬ人となり、ジャイアントキリングの技術が里に伝えられることはなかったという。
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