第127話 超個人的・絵画鑑賞のススメ


 海外に行ったらすること。それは美術館・博物館に行くことです。先日はウィーンのベルヴェデーレ宮殿でクリムト「接吻」を、プラハでミュシャを、ミュンヘンでゴッホ「ひまわり」を見ました。


 有名な人物では他にもモネ、マネ、セザンヌ、エゴン・シーレの作品も多数ありました。僕は基本的に展示されている絵画は何でも楽しめます。美術品の中でも絵画は好きで、特に風景画や風俗画が好きです。中世の雰囲気を感じることが出来そうで。欧米は良いですね。有名なものも含め、素晴らしい絵画の数々が無料で展示されていたり、五百円以内で見れたりするので。


 僕は美術に明るくないですし、美術的センスも皆無です。飲み会中、何も見ずに意気揚々とドラえもんを書いたら、子供が泣きだすほど生気を感じられない謎型ロボットがそこにはいました。


 そんな人間が絵画を見て楽しめるのか。それが楽しめるんです。今日はその個人的楽しみ方を書き連ねたいと思います。


 まず、楽しむためには自分の目で見て、目の前に対峙するなまの作品を感じる必要があります。生で見ると、大きい作品ならそれだけで迫力が違いますし、油絵の場合、インクの凹凸も見えます。また、印象や技法だけの効果ではなく、美術館自体の広さ、格式高さが作り出す空間を含めて絵画そのものが立体感を持っているんです。それに圧倒されましょう。


 そして、個人的に最も大切な絵画の楽しみ方があります。全体を鑑賞した後に、絵に近づいて一部分を観察するんです。そして、また絵から離れて全体を見る。


 これが僕の絵画鑑賞の肝です。もう少し解説しましょう。


 全体を見るのは当然のこと。有名な絵画であれば、見た瞬間に「あの作品や!!」とテンションが上がることうけあい。教科書に載っていた絵画を生で見ると、何だか小学生や中学生の時の自分と比べて「成長したんやなぁ……」と感傷に浸れます。良いことなのかは分かりません。

 

 全体を見たら肖像画の人物がビビるくらい近付きましょう。「こいつ、伯爵の私に無礼な。死罪を! この者に死罪を!」と言われるくらいの勢いで近づきます。鼻息がかかる程まで近づくと、ピーっと音が鳴ったり、係の人にたしなめられるのでご注意を。怖いのは伯爵より係員です。


 ご理解の通り、近づくと遠目からは分からないような細かい書き込みが見えるのです。いつもその繊細な筆遣いに感動します。

 しかし、ここで特に重要なのは「部分だけ見ると何を書いているのか分からない」ことを確認することです。印象派では顕著なのですが、部分だけみると絵には到底見えません。色の表現もですね。よーく見ると、水の中に白、灰、黄、緑、オレンジなど、およそイメージする青とは異なる色が紛れ込んでいます。――ここにこんな色を使うって、何だか合わへんな。と勝手な感想を持ってOKです。まさに「木を見て森を見ず」を地で行って下さい。躊躇ためらいは必要ありません、存分に迷子になりましょう。


 最後に、視点をゆっくりと離していきます。この時、視野が部分から全体へと移っていくのを感じて下さい。すると、ある時点でが起こります。個々では独立していた色や形が徐々に調和し、縁取りの無い形と雰囲気を醸成しながら、絵画作品を構成していくのです。まるで精密機械の破壊シーンの逆再生の如く、散らばった精巧な機械部品がカチカチと独りでに組み立てられていくようです。細かい部品がピッタリと噛み合い、在るべき所に意志を持って納まって行くような感覚をありありと感じることが出来ます。


 そして、改めて作品を眺めると、そこに世界が構築されているんです。


 いつも唸るんです。

「どうすればこんなものを描けるのだろうか」

 そんな諦観と憧憬を持ちながら感嘆の息を漏らすのが、僕の絵画鑑賞のやり方です。


 対象は何も過去の名作に限ったことではなく、現代の美術品でも漫画やアニメでも同じです。僕は良くジブリ関係の展覧会に足を向けるのですが、ネームでも、レイアウトでも、セル画でもそのような見方をします。特に鉛筆で書いた絵は、僕と同じ人間が書けるとは思えない感覚を感じることが出来るので好きです。

 

「走り書きでどうしてこんな空間を作れるのだろう」

 緻密な絵も好きですが、数本の線で空間を作り出し、あまつさえ生気を込めるなんて人間のわざとは思えません。


 自分に無いものに憧れること。


 これは人生を楽しくする娯楽の一つだと思っています。美術に関しては絵画も彫刻も建築に対しても、センスもやる気も無いので丁度良いのかもしれません。かじったことがあると嫉妬の感情が混ざるでしょうから。


 皆さんも何か個人的楽しみ方があれば教えて下さい。美術センスの無さでも構いません。図らずも怪物を生み出したことのある方は同志です。是非、ご報告を。

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