第126話 ギャップ萌え ~有能ポンコツエルフを添えて~


 ギャップ萌え。


 ふと頭の中にこの言葉が浮かんできた。秋葉原に行ったから萌えの文化について書きたくなったのかもしれない。そして、今、この言葉に合う推したいヒロインがいる。


 ダンジョン飯のマルシルである。


 秋葉原に行った時、ブックオフでコミックを購入した。ダンジョン飯 1巻~8巻、ひきだしにテラリウム、竜の学校は山の上。全て久井くい諒子りょうこの作品だ。ダンジョン飯以外は短編集である。全て漫画喫茶で読んだことがあるのだが、本棚に並んでいるのを見かけてどうしても手元に置いておきたくなり、10冊まとめ購入となった。


 久井諒子のセンスは素晴らしく、特にダンジョン飯でのギャグセンスは失笑を禁じ得ないほど冴え渡っている。ストーリーとしても非常に面白い。グルメものの漫画は数多あまたあるが、これほどファンタジーと現実を綺麗に溶融させ、味が想像できるほど現実味があって、美味しそうな仮想グルメ漫画は見たことが無い。


 常識人に見えてサイコパスの主人公ライオス、子供扱いされるが聡明で大人な小人ハーフフットのチルチャック、容姿端麗で魔法を使いこなすエルフのマルシルが、赤い竜レッドドラゴンに食べられたライオスの妹、ファリンを救いに出かけるストーリー。

 全滅したことで無一文になったパーティは「魔物を食う」ことで食費を節約して、深層を目指す。かねてから密かに抱いていた魔物を食べるというライオスサイコパスの願望に引き寄せられるようにして、赤い竜レッドドラゴンを食べてみたいダンジョン住みのドワーフ、センシが加わり、ファンタジーの世界で次々と魔物食が展開される。


 その中の紅一点、マルシルが可愛いことこの上ない。親が宮廷魔術師で「魔法学校はじまって以来の才女」として申し分ない実力があり、一般的な価値感覚、エルフの容姿も相まって、地上では聡明で可憐な印象を受けるのだろうが、ダンジョンでは「魔物を食いたい」ライオスと「魔物を美味しく食べさせたい」センシに振り回され、パーティで最も表情豊かな、つまり、変顔を連発するぽんこつへと成り果てている。マルシルの可愛さはこのギャップに濃縮されていると考える。


 そもそもギャップ萌えとは、ある人物(生物)が持つ要素にギャップ(差異)があり、それが人に萌えを抱かせることである。典型的なギャップとしては、男らしい男性が溢す弱さ、ほわほわした女性が持つ渋い趣味、チャラそうなイケメンの一途さ、ボーイッシュな女性の乙女心、クールな男性が見せる少年っぽさ……etc

 印象や認識との相違が強い魅力を生み出す。通り一辺倒ではない意外性は人物においても物語においても人の心を打つ重要な要素である。


 前述したようにマルシルは唯一の初期女性キャラであり、高い石鹸を無くしたことを嘆いたり、長い髪の結わえ方を毎回変えていたり、(良い意味で)表情豊かな明るい性格は女性らしさを感じさせる。

 それに加え、所々に才色兼備とは思えないギャップを見せるのだ。


 ダンジョンを進むために血と粘液にまみれたカエルの皮を着ることに渋っていたが「マルシルがこれを着たら、すごく可愛いと思う!」と説得を受けて渋い顔で考えこむのが乙女らしい。そして着こんだ結果、死んだ顔で「とっとと行くぞ」と先導する男らしさが実に愛らしい。

 ライオスの教え(体を大きく見せるために両手を振りながら、くえーっと奇声を上げてバジリスク(鶏の尾をもつ蛇)を威嚇する)を真似ざるを得ないとか、ツッコミ中の不細工な姿で石化して漬物石にされるとか、気付かないまま猛反対していた魚人(の卵)を食べさせられ「おいしい!」と可愛い笑顔を見せている所とか。

 有能で可愛いのに、ぽんこつで変顔をせざるを得ない立ち位置が絶妙である。マルシルで画像検索すれば、漏れなく可愛い変顔集が出てくるので興味があればどうぞ。


 普段、あまり意識していなかったが、これこそがギャップ萌え?! と思い直した次第である。こう、才女が苦労しているのが可愛らしいのだ。是非、機会があればダンジョン飯を読んで、お腹を空かせ、不憫なマルシルに笑って欲しい。

 

 よく考えると、男女に限らずバカを見る愛すべき苦労人が好きなのかもしれない。これからのキャラ造形に活かしていきたいと思う。




 ちなみに、一番かわいいのは小人ハーフフットになったセンシだと思うのは僕だけであろうか。異論は受け付ける。マルシルの抗議は受け付けない。

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