第107話 シャイ論私見ラウンジ、開講


 相変わらず蝉の声がうるさいし、蒸し暑くて堪らないね。とはいっても、とりとめのないことを話すラウンジは夏も開講中だから、興味のある話題があれば今後も足を運んでほしい。


 えー、前回はうんこに見る自己愛を見てきた。自己愛を見出すことは大切だ。ただ、強すぎる自己愛は己を滅ぼすよ。ものごとには適切な範囲があって、強すぎても弱すぎても不具合が出るから注意するように。うんこに見出すのがちょうど良いのかもしれないね。


 さて、今日は性格の話に移る。本日のテーマは「シャイ」だ。突然だが、キミ達に確認をする。直感で答えてくれ。いいかな。

 

 シャイでないと思う人は挙手を――。

 ……ふむ、殆どの人がシャイみたいだね。じゃあ、質問を変えよう。


 シャイでと思う人は挙手を――。

 ふむ、殆どの人がシャイでと……。面白い。


 今の結果から導き出されるのは「この教室にいる生徒はシャイである」ということだ。キミ達が怠惰である訳ではない。面倒くさがりであれば、そもそもこの談話に来ていないだろう。ここにいることが真面目で勤勉なことの証である。にも関わらず、質問によって回答が左右される。これは、現状維持バイアスが効いている可能性もあるが、それよりも自分の性格を吐露する気恥ずかしさが勝っているように思える。

 そう思えるのであれば、今日の場は良い機会かもしれない。興味が湧かないのであればここで離席してくれても構わない。長くなりそうだから、その時間をより有意義に使って欲しい。


 よし、いいかな。

 

 それでは、本題に入ろう。ここに来てもらったのはシャイについて皆と話したかったからだ。雄弁で闊達な人にこんな場は必要ない。だって、彼らはその流暢な弁舌で、彼らの思考を抜かりなく周りに伝えているだろうからね。シャイであるから必要なんだ。

 基本的にシャイネスは克服されるべき性格のひとつとされる。それだけ悩んでいる人が多く、影響をもたらしているんだね。だから、シャイである人がどんな特徴を持っていて、どのように考えるかを知り、自分と他人のシャイネスを考える機会になれば良いと思う。


 まず、混乱しないように「シャイ」とはなんだろうか。それを確認しよう。デジタル大辞泉によると「内気であるさま。恥ずかしがりなさま。」とある。まさに、さっきのキミ達のことだね。合ってる?

 シャイは基本的に恥ずかしがり屋だ。だから、目立つことが嫌いだ。キミ達は大人数でビンゴ大会をしたことはあるかい? 5×かける5の数字が書かれた紙をくり抜いていくあれだ。温泉旅行のような豪華景品はみんな欲しいよね。僕も欲しい。旅行券や数万円相当のカタログギフトが。だから、序盤は数字が読み上げられる毎に一喜一憂するんだ。「やった! ある!」とか「まじかよ、ねーよ!!」とか言ってね。

 でも、徐々に抽選が佳境に入ってきて、ちらほらと当選者が出始める。当たった人は照れながら嬉しそうに壇上に上がって、景品の発表と共に司会から「何か一言を」とマイクを向けられるんだ。当然、会場全員の目線が集まる。面白い発言をする人も、ウケを狙って滑る人も、無難なコメントで乗り切る人も様々だ。それを見るにつけ、キミの気持ちは次第に変化してくる。「――どうか当たりませんように」ってね。ビンゴカードを知り合いに預けて、トイレに行きたくなる。景品は欲しいのに、注目はされたくない。という葛藤に苛まれる。なんでだろうか。それはキミがシャイだからだ。目立ちたくないんだよ。

 全員が知り合いならまだいいさ。でも、名前も知らない人たちの視線を浴びるのは金銭的な報酬よりも精神的な損失が大きい。そう感じてしまうんじゃいのかな。全く損な性格だ。

 サーカスやマジックショーでも良いね。スタスタとステージから演者が観客席にやってきて、無作為に協力者を連れて行く。キミは目をキラキラさせて「選んで!」と願うかな。それとも必死に目を逸らすだろうか? 

 

 今の話に「うんうん」とむち打ちになるくらい頷いてくれる人は間違いなくシャイだね。何人かが反応してくれていて嬉しいよ。ちゃんと調査したかいがあった。


 さて、シャイはどんな特徴を持っているだろうか。ここからは私見だから、異論があれば遠慮なくどうぞ。遠慮するからこそシャイなのだろうが、色んな意見を聞いてみたいな。


 まず、自分に自信がない。そもそも恥ずかしがりな人は何を恥ずかしがっているのだろう。これは明らかだね。自分自身だ。自分の要素、つまり、外見、思考、性格、好みが人から外れていること、馬鹿にされることが恥ずかしい。他人の評価に怯えている。時には異常なほどの卑屈さを兼ね備えている。自分には価値が無いと思っているから、それを衆人に晒すのを嫌うんだね。もしくは、その実「ナルシスト」であるにも関わらずプライドが折れるのを恐れているか、だ。答えは分かっているけど間違っていたら恥ずかしいから答えない。とか、気がありそうだけど勘違いだったら目も当てられない。とか考えるパターンがそうだね。最悪のパターンだった場合の羞恥に自尊心が耐えられないんだ。

 これらの恥ずかしがりは他人の羞恥も引き受けることがある。いわゆる、共感性羞恥というものだね。自信満々に間違った内容を解説するクイズ番組の出演者とか、カッコつけながら二枚舌で調子の良いことを言っている様をモニタリングされている芸能人とかを見ると、動悸が激しくなるほどにいたたまれなくなることは無い? もう見ていられずに目を背けたくなる。これはシャイじゃない人が感じることは無いんじゃないかな。恥ずかしいことを恐れているから、他人の経験すら過剰に受け取っちゃうんだろう。


 内気と言う意味では根っこの部分で他人に対して懐疑的だ。だから、考えを他人に知られたくない。表面的には同調し、愛想を振りまいていても自分の主張を言わない。これは、生来のものか、誰かにせせら笑われた反動か、トラウマによるものか。いずれにせよ自己開示を嫌う。シャイな人が比較的一人の時間や空間を欲しがるのは、このような心理が背景にあるかもしれない。自分を晒し続けることに不安を抱くんだろうね。

 

 と、ここまでつらつらと喋っちゃったけれど、大丈夫かな? 言いたいことはない? 身近な人を思い浮かべて目立った特徴があれば是非共有して欲しい。お互いの理解につながるだろうから。


 よし、じゃあここでキミ達の意見をまとめる休憩時間を取ろう。トイレや売店に行っても良い。あ、言い忘れたけどここではお茶でもお菓子でも持ち込み自由だからね、好きなようにくつろいでくれ。ピザとか匂いのキツイものは流石にご遠慮願うけれど……。お酒はバレないようにすればいいんじゃない? そちらの方が発言しやすくなるなら僕は気にしない。休憩中も僕はここにいるから気軽に話掛けてね、喜んで聞くよ。


 休憩が明けたら、具体例を持って話を進めたい。シャイが異性をどのように見ているか、その思考回路と好き避けの心理をね。


 それじゃあ、またあとで。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る