第95話 履歴の恐怖


 カラオケに行き「さー歌うぞー!!」と気合を入れてデンモク(※1)を手に取り、最初に見るのは新曲でも曲名でもなく、そう、履歴なのです。


 僕は一人カラオケも辞さないほどのカラオケ好きなので、声が裏返ったり、Cメロを全く歌えない曲を入れたくらいでは動じません。楽しそうに歌えばOK。むしろ、しりとりカラオケなどのノリで、全く知らないくせに流行りの歌を入れ、朧げなメロディーをなぞり、クリエイティブ性を存分に発揮するのを楽しむまであります。


 とはいえ、そんな僕でもカラオケで恥ずかしいことがあります。それは「履歴を見られること」。一緒にいる人は良いんです。その時々の流れから曲は決まってくるので。でも、一人カラオケの履歴をまじまじを見られると、羞恥に悶えることが想像できます。


 なぜか。履歴はキャラを表すからです。もちろん曲自体は恥ずかしくはありません。しかし、履歴には色濃く嗜好が出ますよね。それが内面を遺憾なく開けっ広げているようで恥ずかしいのです。


 学生時代、電子でも紙でも辞書を借りることがありませんでしたか? 人の辞書って面白いんですよ。線を引いてある語句、登録されてある語彙がその人を如実に表しているようで。「ルサンチマン」とかがお気に入り登録されていたりすると「こいつ、やりおる……!」とか思ったものです。貸してくれたお礼に「オナモミ」とか「ニュルンベルク」とかなぜかエロく聞こえる言葉を登録プレゼントしてあげました。


 話を戻しますが、ウェブの閲覧履歴、検索履歴、アマゾンの購入履歴、読書履歴、カラオケの履歴……。ありとあらゆる所に履歴は残っており、それをトレースされるほど居心地の悪いものはないと思うのです(※2)。自らの分身を嘗めまわされているようで落ち着きません。だからこそ僕は最初に履歴を見ます。前の人はどんな流れでどんな歌を歌ったのか。それだけで仲良くなれるか判断出来るまでもある。それほど、履歴が放つ残り香はその人のキャラが投影されているのです。


 履歴、それはキャラの生き写し。

 それを晒すことこそ、どんな文字を尽くすより真に迫った自己開示になるのではないか。そんなことを考えながら、今日も僕は履歴を残します。





※1 デンモク

デンモクってDAMに使われるリモコンのことを指すのですね。JOYSOUNDはキョクナビと呼ぶのだとか。また、いらぬ勘違いを解いてしまいました。


※2 執筆履歴

但し、執筆履歴だけは別です。それは見られることを前提とした行為であるからです。重要なのは、閲覧者を意識していない履歴が衆目の下に晒されること。それが羞恥を生み出すと思っています。(未公開作はその意味で恥ずかしいですね)

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