第78回 性格は変わんねーよ
良く「ハンドルを握ったら性格が変わる」とか、「お酒を飲んだら性格が変わる」とか言いますよね。僕はそんな言い回しに違和感を覚えています。昔から自分の性格を変えたくて、うだうだやっているひねくれものなので自信を持って言えますが、人の性格は早々変わるものではありません。
三つ子の魂百まで
噛む馬はしまいまで噛む
このようなことわざがあるように、昔から分かっていることなんですよね。
――じゃあ、何が変わるのか。
変わるのは性格じゃなくて「表現方法」なんです。
ハンドルを握ると、元々持っている異なる性格が表出するのです。
お酒を飲むと、その他の態度が露呈するだけです。
これは決して性格が変わっている訳ではありません。
切り絵では、どこを切り抜くかで模様は幾多にも表現できますが、その台紙は変わらないのと似ていますね。こう切り抜いているから、普段はこの下地が見えているだけ。お酒や特定の状況下では切り抜き方が変わり、別の下地が見えているだけです。台紙は変わっていません。
「ごめん、思ってもないことを言っちゃって」って、思っていなきゃ言えねーよ。
そうやって地続きの自分を切り分けるのは詐欺ですよ。たけのこです。たけのこ野郎です。たけのこはあたかも新しい生命の奇跡ような顔で生えていますが、その実、横の竹の一部です。竹は全て根が繋がっていますからね。地上では別の個体に見えても、地面の下では「へっへっへ、アイツら騙されてやがるぜ」とほくそ笑んでいます。
そんなタケノコ野郎と一緒ですよ。「あの時の俺は、俺じゃない」なんて言う人はね。
もちろん、長い時間をかけてゆっくりと少しずつ台紙の色が変わっていくこともあると信じています。でもね、いくらポジティブに見えても、元はネガティブだとか。温厚そうに見えても、本来は血気盛んだとか。そんなものなのです。自分を上手く表現するのは努力がいりますが、性格そのものを変えてしまうのはもっと大変なことです。
だから、あの人は変わってしまった。と悲しむことはありません。「まぁ、元々そういうところもあったのだろう」と流して、受け入れてあげるべきです。僕はネットワークビジネスにハマったかつての友達に思いを馳せます。なぜか涙が出てくるけれど、それも彼なのです。
そんなタケノコ野郎はほっとけ、性格は変わんねーよ。
自分に言い聞かせます。
やはり、たけのこはダメだな。きのこの方が可愛くて、種類があって面白い。ぬめぬめしたやつから、光るやつ、猛毒のやつから、キマるやつまで。これぞ生命の神秘ってもんだ。実際、きのこの方がチョコも多いんだ。たけのこなんて詐欺野郎は放っておいて、きのこを選ばない理由がない!
……え? きのこも同じ菌糸から生えてる同一個体なの? しかも竹とは比べ物ならないほど大きい個体もあって、世界最大の生物として紹介されてる? うそぉ……。
……元の性格を抑えて違う性格を演じられるのは、努力の結晶ですよ。たとえ、性格は変わらなくても、理想に近づこうと手を伸ばした結果です。ん? 言ってることが違う? いやいや、さっきの僕はどうかしていました。あれは別の僕です。
えぇ、ぜひ呼んで貰っていいですよ。
「このきのこ野郎!」ってね。
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