第62回 軽い男になりたい


 「お前はなんか軽いんだよなぁ」


 そう上司に言われて、僕はにこやかに「すみません」と言いながら、へこへこと頭を下げた。心の中ではこぶしを握り締めて。もちろん、怒りのこぶし……ではない。ガッツポーズである。


 そう、僕は軽い男になりたい。

  

 って言うと大体、良い印象はもたれないんですよね。何故でしょう。もちろん卒業後すぐは、渋くてかっこいい大人を目指したんですけど、まぁ向いていませんね。ただの寡黙で暗い奴になってしまいます。だったら、軽さを磨けばいいのかなぁ、となんとなく思いました。口下手なので、まずは行動で表そうと。つまり、断らない男になろうと。


 あれ? 努力の方向を間違ってる?

 わかってます。でも、それが僕なんです。

 

 そんなわけ(?)で、働き始めてからは誘われたら断らないように心がけました。

 友達限定ですけれど。

 

 誘われれば飛んでいきます。物理的に。

 普通の土日でも弾丸でいきます。

 

 東京からは長野だろうが、新潟だろうが行こうと言われれば行きました。関西や九州から声がかかった時も、二つ返事で参加します。独身彼女なし暇人をなめんな、とばかりになけなしの給料を全て飲み会と旅行につぎ込みました。


 努力は徐々に日の目をみます。異動で九州にいても、東京の後輩から「1ヶ月後の土日に湯河原に行きますけど来ます?」と電話がかかってきました。これぞイメージ戦略の賜物ですね。しめしめ。


 もちろん、その時も電話をしながら航空券を予約しました。

 

 東京近郊の音楽イベントやサークルのOB合宿にも、九州にいながら最初から名前が入るようになりました。サークルの先輩いわく「お前が来るから名古屋や関西にいるOBたちを無理やり呼べる」とのこと。実際、関西の先輩は「九州から来るんならしょうがない」と言って嬉しそうに文句を言って姿を現しました。

 

 あまりにも顔を出していると「お前どこにでもいるな」とか「東京の奴より久しぶり感無い」などの辛辣な意見もあります。誉め言葉と思って甘受しましょう。


 そして、現在。


 今年は5回ほど結婚式、2次会に呼ばれました。

 「もちろん来るよね」の一言と共に……。


 軽さがウリの男をなめんな!!


 ……と、言いたいけどちょっと太平洋は広すぎるよぉ……。

 北海道とか沖縄ならともかく、ねぇ。


 どうやら僕の限界はここまでのようです。



 まぁ、今更ながら軽すぎるのもどうかと思います。

 湯河原のメンバーに「冗談だったのに」と笑顔で言われたのを思い出しました。

 

 

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