第54回 イチロー選手は欲にまみれている


 イチロー選手の引退が世間を賑わせています。彼は間違いなく平成の世を代表する人でした。今回はイチロー選手の引退会見から『イチロー選手は欲にまみれている』ことを書きます。


 ちょっと待って! 振り上げたそのシャーペンはしまってください! 痛いから!


 ……ふぅ、あやうくファンに刺されるところでした。でも、僕もファンなのです。内部分裂はやめましょう。僕が思ったことを書くだけです。もちろん良い意味で。イチロー選手の言葉だけで震えるので、あえて言う必要はないかもしれませんが感動したのでここに書きます。


 彼は野球のギフトは持っていると思います。でも、決して禁欲的ストイックだとは思いません。むしろ、欲にまみれているのです。


 イチロー選手は僕の中でどこか特別な人でした。その影響は母親にあります。僕は小さいころから『あの子は凄いの!』と事あるごとに言われてきました。そのころからイチロー選手は飛び抜けた記録を残していたので、はぇー凄いなぁー。と眺めていました。


 イチロー選手の逸話は色々とありますが、全て特別な人だから出来るんだと思っていました。特別な人が厳格なルールを定めて、毎日苦しいことを繰り返して。禁欲的ストイックな彼だからこそ出来るんだと。


 でも、会見では去年のマリナーズのオファーを受けるまでの冬のオフシーズンの心境を語っています。


「――そこで寒い時期に練習するのでへこむんですよね。心が折れるんですよ。――」


 意志が強いと言われるイチロー選手でも心がになるんじゃない、んだ。人間ですから心が折れるなんて当たり前ですが、ルーティンワークの逸話が多いイチロー選手はそこでから続けられるのだと思っていたんです。


 その後、こう語ります。

 

「――人より頑張ることなんてとてもできないんですよね。あくまでも、はかりは自分の中にある。それで自分なりにはかりを使いながら、自分の限界を見ながら、ちょっと越えていくということを繰り返していく。そうすると、いつの日からかこんな自分になっているんだ、という状態になって。だから少しずつの積み重ねが、それでしか自分を越えていけないと思うんですよね。一気に高みに行こうとすると、今の自分の状態とギャップがありすぎて、それは続けられないと僕は考えているので、地道に進むしかない。進むだけではないですね。後退もしながら、ある時は後退しかしない時期もあると思うので。でも、自分がやると決めたことを信じてやっていく。――」


 人より頑張るなんてできない。


 とても素直な言葉に聞こえました。

 彼の本心だと、僕は感じました。


 ――苦しい。

 ――もうやめたい。

 ――楽な方に行きたい。


 そんな気持ち――つまり「欲」を押さえるイメージ。

 禁欲的ストイックな人物像がガラガラと崩れていきました。

 

 もちろんそんな気持ちが無かったとは言えません。

 他人の気持ちを全て理解するなんて不可能です。


 でもこんなことも言っているんです。


「――明日もトレーニングはしてますよ。それは変わらないですよ、僕じっとしていられないから。それは動き回ってるでしょうね。だから、ゆっくりしたいとか全然ないんですよ。全然ないです。だから動き回ってます」

 

 これを聞いて思いました。

 

 ――やっぱり、禁欲的ストイックなんかじゃない。

 


 『イチロー選手は欲にまみれているんだ』



 あぁ、蔑んだ目で見ないで。もうちょっとだけ我慢下さい。



 ……ものごと続けるには何が必要でしょうか。

 

 自分の中の欲に負けない強靭な意志?

 禁欲的ストイックなひたむきさ?

 

 それが出来る人もいると思います。

 必死に自分の欲に抗って、自分を滅して一歩踏み出す。

 

 そんな超人的な人も。

 

 でも、イチロー選手は違います。

 彼は欲に素直に従っているんです。


『最低五十歳まで野球を続ける』という欲に。

『もっと身体を動かしたい』という欲に。

『野球を愛する』という欲に。

 

 自分の中の欲に従いたいから――

 人から見たら几帳面ともいえる管理が出来る。

 自分の身体を大切にする。

 苦しいけれどやる意義を見つけられる。


 やっぱり、なにをで決まるんじゃないかなぁ。

 したくないことを、ただするだけなんて拷問ですよ。

 それは、イチロー選手でも出来ないと確信しています。

 

 苦しいことより、それ以上にしたいことがあるんでしょう。

 だから、イチロー選手は続けて来れたと考えています。

 




 

 そう思うと、難しくないですよね。

 だって、欲に流されれば良いんですもん。

 

 だからこそ、まずは自分のしたいことを見つけないといけないですね。

 もちろんイチロー選手のように記録を残せる人になるのは残酷なほど厳しい。


 でも、なにかになるために自分を押さえつける必要はないのかなぁ、と思います。

 

 嫌々な顔の名手より、下手の横好きのほうがよっぽど健全です。

 水は低い所へ流れるんですから、摂理に逆らわない方が良いですよね。

 


 

 

 そのことはイチロー選手も明言しています。


「――僕、我慢できない人なんですよ。我慢が苦手で楽なこと、楽なことを重ねているっていう感じなんですね。自分ができること、やりたいことを重ねているので――」




 誰もがそんな欲にまみれることが出来たら幸せじゃないかなぁ、と感じています。

 




 僕はまだ、それが何かを見つけられていませんけどね。






「」内は以下サイトからの引用

 full-count

 “イチロー節”全開、85分間の引退会見 一問一答ノーカット「孤独感は全くない」

 https://full-count.jp/2019/03/22/post325131/

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