第49回 「信じれば夢は叶う」って、そんな訳がない

「信じれば夢はかなう」

 それは多分本当だ


 ただし一文が抜けている

「信じて夢は叶う」


 ――――これが 正解だ

 

 さらに言えば


 信じて

「他のライバルよりも1時間長く努力を続ければ

 は、かなりの確率で」

 叶う――だ

 

 羽海野チカ(2012) 3月のライオン 7巻 白泉社

 


 敬愛する羽海野チカさんの「3月のライオン」山崎順慶のセリフより。


 僕は漫画に興味のない女友達に頼んで、原画展について来てもらうほど羽海野さんのファンです。「ハチミツとクローバー」も本作も、僕の人生に大きな影響を与えています。感銘を受けた書籍を聞かれたら間違いなくこの二つは挙げます。就活ではNG回答ですが、すでに就職して数年が経つので、大手を振って私見を言えます。というか、そもそも漫画に影響を受けて何が悪い!! 伝記・小説・映画と何が違うっていうんだ。本質的には一緒じゃねーか、バカやろー!!


 失敬、すこし熱くなってしまいました。


 「キミは何にでもなれる」という標語が気持ち悪いと書いた(※1)ように、「信じれば夢は叶う」ってのもなんて無責任なんだろう。


 続けて、山崎順慶が静かに思いを綴ります――


 それじゃまるで

「何もしなくても」「ただ信じていれば」

 叶うみたいじゃないか


 

 

 僕はこの思いを読んで心が揺さぶられました。


 僕は甲子園を見るといつも泣きそうになります。応援席で踊りながら、大声を出して、楽しそうに自分のチームメイトを応援する多数の部員を見て。


 彼らは遊びも、髪の毛も、およそすべてを犠牲に練習して、野球の才能があるチームメイトをフィールド外から応援しているんです。もちろん、プレイヤーはそれを背負っており、尋常ではないプレッシャーでしょう。


 それでも、僕は彼ら大多数の無念に共感を覚えてしまうんです。

 

 どれだけ悔しかったでしょう。どんな気持ちで応援をしているんでしょう。

 彼らは負け犬です。でも、誇り高き負け犬なんです。


 誰よりも練習を重ねて、誰よりも必死に戦ったのに勝てず、才能がないから――の一言ですべて片付けられた、「ピンポン」のアクマのような。


 目標に向かって必死にもがいているのに、まったく近づけず。

 絶望してふらふらと歩いていたら、どこ見て歩いてんだ! と怒鳴られる。

 ――どこ見て歩きゃあ褒めてくれんだよ。

 

 それが分からない人はきっとたくさんいます。

 

 でも、漫画がそれを救ってくれることもあるんです。

 

 

 将棋が分からなくても、卓球に興味が無くても、是非読んでみてください。

 

 3月のライオン

 ピンポン

 

 

 漫画はいつも負け犬の味方です。




※1 何にでもなれないのは自分が一番分かってる

https://kakuyomu.jp/works/1177354054888425664/episodes/1177354054888436633

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