第48回 「分かりやすさ」の功罪
言葉には「分かりやすさ」と「イメージのしやすさ」が求められることが往々にしてあります。特に病気やケガにおいてはその傾向が強い気がします。どんな人でもわかるような平易な表現は非常に役に立つのですが、時にはそうした言葉の功罪を意識することがあります。
みなさんは静脈
このように聞くと非常に怖いイメージですが、これが引き起こされる身近なシチュエーションからこれらの病気はこう呼ばれています。
――エコノミークラス症候群
ずっと同じ体勢を強いられるエコノミークラスで発症しやすいことからそう呼ばれるようになったそうで。いや、確かにイメージはしやすいですよ。でも、いやはや、これはこれは、また丸くなりましたね。
本来は死に至る可能性のある病のはずが、なんか庶民のあるある話みたいなレベルに感じます。「旦那がずっとエコノミーでさー、もうびっくりしちゃう!」「あら! 私の旦那もそうでー、もうやんなっちゃう!!」みたいな。
あとは、筋筋膜性腰痛・腰椎椎間板ヘルニア・脊柱菅狭窄症・腰椎分離症などで生じる突発的な腰痛の症状を一般にこう呼びますよね。
――ぎっくり腰
ひらがなのもつ柔らかさで中和されていますが、柔らかくなんて全くないですよ。ゆるふわ系は腹黒と相場が決まっているんです。
小学生の時、テニスのとしコーチが度々ぎっくり腰で休むのを笑っていましたが、笑いごとじゃないことに大人になってから気付きました。
僕は今シーズン始めのスノボで肩がはずれました。友達には肩がはずれちゃってーとか軽く言っていますが、あるべきではない胸の横から上腕骨頭が突き出し、尋常じゃない違和感と激痛に苦悶の表情を浮かべながら病院に運び込まれるのを経験した人は、あの恐怖を知っているはずです。
分かりやすさ。
それは、大切な表現の要素ですが、切りつめすぎると痛い目をみます。
くれぐれも肩がはずれた人間に、「えっ、じゃあエスパー伊藤みたいにボストンバッグ入れるんじゃん?」とか言ってはいけません。
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