第36回 叶えたかった過去の夢 ― 苦しく死なない


 みなさんは小学校の卒業式で将来の夢を発表しましたか? 僕は今でもその夢と、その時の光景を覚えています。綺麗な格好をした親御さんが見守るなか、トップバッターで緊張しながらも壇上に上がり、胸を張って大声で夢を語りました。


 ――健康的に平均よりも長生きして、誰にも殺されず、苦しい死に方をせず、人生を全うしたいです!


 そう言い切ったあと、会場がざわついたことを覚えています。


 パン屋になる、スポーツ選手になる……といった職業に関することではないですが、クラーク博士が大志を抱けと言ったように、大志を語りました。

 

 しかし、少しの笑いが起きたのです。正直、疑問を持ちました。「あれ? 変なこと言ったかな?」と。でも、大人になった今、その理由が分かってきました。



 年を重ねれば重ねるほど現実を知り、夢を実現する難しさに直面します。病魔に侵されず、ぽっくりいくことのどれだけ難しいことか。サラリーマン最初の健康診断、悪玉コレステロールが入院一歩手前で衝撃を受けたことを思い出します。


 更に、疲労骨折した左足の膝の皿が割れたままであること、最近右肩を脱臼したこと、身体がとても硬いことなどハード面も懸念点がいろいろとあります。


 そう思うと、親御さんの気持ちが良く理解できました。夢を叶えるのは非常に難しい。しかし、子供たちはそんなことはお構いなしに、理想をキラキラと語るとこが可愛いです。あの失笑は可愛らしいものを見るときに、ふいに出てしまう笑顔だったのでしょう。あの時の僕はなんと現実を見ていなかったのか、思い返すと恥ずかしいです。


 夢は、やはり夢でした。


 でも、僕はそれでいいと思います。「夢を追い求めろ!」とか「諦めるな!」って言われてもピンときません。

 

 僕が納得してるんだから良いんですよ。



 もちろん、夢を追っている方は好きですよ。

 真摯になにかと向き合っている人をみると涙が出る様になりました。


 これも少し大人になったということでしょうか。


 

 さて、みなさんの夢はなんでしたか?

 叶いましたか? まだ追っている途中でしょうか?


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