第32回 社会人の恋愛は、学生より3,000倍難しい


 会社では、同じだけ異性がいることなど願っても叶いません。特に対人事務が必要のない業種は、男女比が共学文系のそれと比べて悲惨です。僕にとっては未知の男臭さです。それはそれで楽しいですけどね。


 そんな臭いにまみれた日々の清涼剤として時たま開かれるのが、合コンです。見知らぬ男女がテーブルを囲んで、各自のプライベートを懇々と聞き出し、ボロを出さないよう取り繕いながら、己の欲望をまさぐる場です。



 よく「合コンは質よりも量だ」と聞きます。


 会えないのであれば、会う機会を増やせばいいじゃない。

 打率が低いのであれば、打席に多く立てばいいじゃない。

 バットを沢山振れば、いつか当たるだろう。そんな安定志向が見えてくる気がします。


 しかし、それも納得。


 お互いに好みの人物が来る確率はあまり高くないからでしょう。これは単純に、男性陣の魅力と一度に会う人数に起因すると思います。


 それに加え、通常、2時間程のお酒を伴った食事というシチュエーション。好みの子がいた場合、この2時間で印象付けないといけません。2次会へ行けても、追加で2~4時間でしょう。


 学生で部活をしていると仮定して、最大で1日9時間×20日×36ヵ月-長期休暇=首尾約6,000時間あるのに対して、2時間です。


 0.03%の時間で仕事をしなければいけません。


 これは到底月並みの人間には無理です。

 10時間掛かっても良い所を、数回に1回来る11秒のチャンスで掴めと言われているようなものですよ。


 隠忍いんにん自重じちょう慎重しんちょう居士こじを貫いてきた人には、絶望的に苦手な状況です。話しかけても、返ってくるのはYes/Noばかり。あれー、5W1Hで聞いたのにな。かと言って、話しを振らなければ、つまんない人と言われました。


 時間が経てば経つほどに、酔いは回れど、口は回りません。

 気になる子とは話す機会すらなく、気付けばかつての友人が立ちはだかります。

 良い印象どころか、つくのは支払明細のみ。


 かの同朋はさっと気になる子を攫っていく、これは裏切りではないのか。関ケ原で徳川へ走った小早川秀秋の如き身の翻し方。全然とか言っといて油断させ、ちゃんと点数を取っているクラスにいたあいつのような裏切り方。あいつなんですけれど。


 社会はこれほどまでに厳しいのです。学校では教えてくれません。


 ほわほわと能天気に暮らしてきた、脳内わたあめ系クソ野郎には荷が重すぎます。


 ……えらい人よ、合コンを学び給え。

 そして効率を3,000倍あげる解説書を出すべきだ。



 いや、ほんとおねがいします。

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