第29回 紫陽花と檸檬に潜む非日常


 僕は旅が好きです。


 なぜなら、非日常を簡単に思い出せるからです。当たり前なのですが、当たり前は当たり前ではないのです。


 連続した時間の繰り返しのようで、繰り返しではない。ヒトの高い適応能力は、洗練されているがゆえに、それを感じさせません。


 しかし、文字を書き始めて、様々なものが日常から離脱するきっかけを与えてくれるようになりました。


 トイレの上で佇む檸檬。


 テーブルに綺麗に飾られた紫陽花あじさい


 文字を書く前は、その時間と空間に取り残されていたものごとが、別の輪郭を持って目の前に浮かんで来るようになりました。


 日常のなかの非日常。


 非日常が続くからこその日常。


 漫然とした意識が、その刹那に向くのです。


 物語を書いている人は探すこともなく、すでに気づいていたのでしょうね。



 ――紫陽花の花言葉は、無常。


 なにごとも、いつでも鮮やかに感じること。


 それができれば幸せですよね。

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