第13回 便意のゼロサムゲーム

 シモの話が続きますが、とち狂った訳ではないです。

 人類全体の切な願いだと思っています。ただ、くっそしょうもないです。


 ぎゅうぎゅうの満員電車で一番身近な恐怖はなんでしょう。

 問われたら証明のしようがない痴漢冤罪?

 人生に疲れた犯人の無差別殺人?


 いえいえ、便意です。


 僕の場合、家から乗り換え2回、約1時間半の間、休める場所はありませんでした。どの駅のトイレも朝は空いてる方が珍しいのです。元々、父親譲りの敏感な胃腸を受け継いだ僕は、お腹を下すことがままあります。それが通勤中だった場合、胃腸と僕のチキンレースの開幕です。


「まぁまぁ、昨日飲み過ぎたのもあって、まだ眠いだろう? もうちょっと休みなさい」と優しく諭すところから始まります。しかし、胃腸は「もう起きたよ! 朝食べたトーストもあるし、水と栄養取って、どんどん捨てるよー!」と意気揚々。「やれやれ」と思いながら座席が空けばムリヤリ眠ります。すると、胃腸は「あれ、まだ夜だったの? じゃあもうちょっとお休みー」と大人しくなります。……ですが、それでも元気なときがあります。


 そうしたら、もうキツイ。自分で自分のおしりを応援し始めたら、相当キテマス。


 そうなった時、いつも考えることがあるんです。


 ――便意引き受け代行サービス。


 まず、依頼者が専用アプリで、自分の便意に価格をつける。

「緊急!全便意引き受け求む! 即決5,000円」

「計3時間、便意あれば随時更新 1,500円/回」

「私の1ヶ月の便意、買いませんか? 長期契約、要相談 20万~」

「一時的に便意引き受けて下さい 950円/30分」


 受託者は、その中から任意で依頼を選択。成立したら、便意が受託者へ移行される。即決の場合、自動的に依頼者からお金が振り込まれ、交渉が必要な場合は、アプリ上で交渉を行う。


 アプリは完全匿名性で、性別すら分からない個人間でのやりとりを媒介。


 この画期的なサービスは、通勤に悩む都市部から瞬く間に世界へ広がり、個人売買の域を超えて、生業とする者も現れた。専属トイレに座って依頼を受け続ける彼らは、いつしか雪隠せついんと呼ばれるように。極端な排便による痔が深刻化し、肛門科は大繁盛。人類全体の便意総量は変わらないことから、「便意のゼロサムゲーム」と呼ばれ、新しい研究対象となっていった――。


 とか、一息ついた時に、ぽっと考えが浮かぶんですよね。便意もたまには役に立つ。


 ……いや、まじで何の話だ。

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