第24話 三者会談
都内某所の館にて。
この手狭な応接間には3人の男が顔を揃えている。
年齢層はまばらで若年、壮年に初老と不揃いであるが、会話の口ぶりは年代の壁を感じさせない。
テーブルには人数分のグラスワイン。
窓の外から降り注ぐ陽射しは眩いのだが、ここでは酒を嗜むのが通例となっていた。
「そろそろ頃合いなのだが、状況はどうだ?」
初老の男が嗄(しわが)れた声で、相対する2人に問う。
座り位置が1対2であるのは、この老人こそが館の主であるからだ。
彼が上座を占有する理由は他にもあるのだが、今さら疑問を差し挟む者はこの場に居ない。
「僕に異存はありません。何せ最新兵器を贈っていただけましたからね。赤子の手を捻るように蹂躙してみせますよ」
若年の男が返答を抑揚で飾った。
単なる受け答えにも関わらず、髪が揺れ動くようにするなどの細かな仕種が煩く映る。
相当なナルシストであり、己が美しく映える動きを研究し尽くしているのだ。
確かに彼は十分過ぎるほどに美男子だ。
だがその恵まれた風貌よりも小狡そうな表情が遥かに目立っており、全てを台無しにしていた。
「出近(できん)よ。お前はどうだ」
「私も同様にございます」
壮年の男は無表情に答えた。
こちらはというと眉ひとつすら動かさない。
左隣の男とは対照的であり、どこかマネキンが喋りでもしたかのような印象を周囲に与えた。
2人の意見を聞くと、老人は考え込む。
掠れた唸り声がテーブルを這い回る。
会話に隙が生じた事で、若年の男が顔を歪ませながら話を繋いだ。
「おやぁ、出近さん。良いんですか? あなたの生み出した怪物を皆殺しにしちゃいますよぉ?」
「怪物ではない、怪人だ」
「アッハッハ! 拘りますねぇ。その割には全部見捨てて、貴方だけがのうのうと逃げ延びようと言うんですから……薄情って言葉知ってます?」
「全て失敗作だ。怪人も、組織作りも。最早未練などは無く、新たな場で研究を続けられれば文句は無い」
「人生を賭けてやってる割には、てんで進歩がない……」
「お前ら静かにしろ。気が散って考えがまとまらぬ」
「あぁ、スミマセンねぇ。何せ連戦連勝なもんで、張り合いがなくて退屈なのですよ」
若年の男は口を閉じると、薄笑いを浮かべた。
視線は依然として右隣の男に向けられる。
しかし壮年の男は取り合わず、その一切を無視した。
やがて初老の男は考えがまとまり、うつむいた目線を元に戻した。
対面に座る2人もそれに気づき、話を聞く姿勢を整える。
「出近よ。お前は現拠点を棄て、イバラキの仮拠点に移れ。予てより伝えておいた大滝の裏だ。一通りの物は揃えてあるが、不足あれば都度申せ」
「承知しました」
「加進(かしん)よ。お前はメンバーを説き伏せ、現拠点に攻め入るように仕向けよ」
「了解しました! 動き出しはいつ頃で?」
「観客は既に飽き始めている。早急な対応が望ましい。明朝にでも開始せよ」
「あー、うん。朝は難しいかもですねぇ。レッドは昼過ぎくらいまで寝ちゃうんですよ」
「叩き起こせ。文句を言うようなら撃ち殺して構わん。その折には替わりを派遣する」
「アハッ。手荒いですねぇ。委細承知しましたよぉ」
老人はここでグラスの残りを一気に飲み干した。
話の区切りを伝えるものである。
「良いか、派手にやれ。離れつつある観客の心を大いに沸かせるのだ」
「仰せのままに」
「もちろんでっす! まぁ一方的過ぎて、盛り上がりに欠けるかもしれませんがねぇ!」
「出近は行って良し。加進は残れ。戦勝の報酬を渡す」
「それでは、私はこれにて」
「へへっ。すいませんねぇ。こんな簡単な仕事で大金を貰っちゃって」
出近は視線を迷わせること無く、一直線に扉へと向かい、室外へと出た。
後ろ手で重厚な樫扉を閉める。
こうなると室内の会話は全くと言って良いほど聞こえなくなる。
「果たして、アッサリと陥落するだろうか。フォグルが覚醒したならば、或いは……」
出近は目線を外へと向けた。
通路に設えた窓は、風もなく穏やかな陽気である。
それは迫り来る戦乱とはかけ離れていて、どこか非現実的に映り、咄嗟に目を反らした。
物言わぬはずの光景から詰られた気がしたからである。
総統(うみのおや)でありながら、非情にも配下を見捨てる事に対して。
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