第12話 ゴーストライター

ジェイニーは迷っていた。

そうは言ってみてもパメラに謝れるかどうか・・・。

途方に暮れて居たジェイニーは、ブレッドの屋敷に帰って来てからも近所をウロウロして居た。

そこで彼は考えた。

裏の勝手口から入ろうと。

ジェイニーは、屋敷の裏口へと回った。

すると、一転して空は真っ暗になり、激しい雨が空から地面に打ち付ける様に降ってきた。

彼は、雨や雷、なによりも稲妻が大好きだったが今日の稲妻はどうしても好きになれなかった。

最悪の気分の時に、最悪の雨。

それは、まるでジェイニーの今の心境をそのまま現実に写し出すかの様に、叩き降る。

ジェイニーは今日程、照り付ける太陽の眩しさが恋しいと思った事はなかった。

何処までも続く青い空が、恋しくてならなかった。

もし今、この雨が止んで美しい青い空が黒雲の間から覗く事があるとしたら、俺はきっとこれからの晴れた日を一生感謝して生きて行くことだろう・・・。

そこまで思い詰める程、苦しかったのだ。

しかし、天は彼の意志とは反対に沈黙を続け、激しい雨を降らせ続けた。


全身ずぶ濡れになったジェイニーは、なんとか勝手口を探そうとした。

すると、屋敷の裏側に小さな白い建物を見付けた。

そして、その建物にビニール傘を差して入って行く1人の女性を見付けた。

それはパメラだった。

ジェイニーは一瞬、足を止めてこの建物に入るべきか、どうしようか考えた。

しかし、このままではパメラと気まずい関係になってしまう。

ジェイニーは意を決して、その白い建物へと入って行った。


「パメラー!居るのかーっ!ジェイニーだけど・・・さっきは・・・。」

そこは・・・

白い壁の部屋だった。

そして一面に楽譜が散らばっていた・・・。

その量は部屋全体に散らばっており、おおよそ100枚程はあった。

「楽譜・・・?」

ジェイニーは、ずぶ濡れのまま部屋の奥へと入って行く。

すると、1枚の楽譜がジェイニーの足に絡み付いた。

慌てて拾うと何か書いてある。

そこには曲がビッシリと書き連ねてあった。

ジェイニーは楽譜も読めたので譜面を読んでみると、驚く事実がそこにはあった。

「これは・・・今、流行っている新人の曲じゃないか・・・。」

慌ててジェイニーは他のも見てみると、違う曲だがこれもまた流行っているポップスだった。

「これは・・・一体・・・?何でこんな所に、この楽譜達があるんだ・・・!?」

しかし可笑しい事に、その楽譜達には赤いインクでバツが付けられていた。

ジェイニーは更に、他の楽譜を見てみる。

これも、

これも・・・!

これもだ・・・。

まるで、ブレッド自身が書いた様な・・・

ブレッドが書いた!?


まさか・・・

彼が・・・

聞いた事がある。

ロスアンゼルスに居た時、今流行の曲を陰で隠れて全て書いている曲のライターが居るという話。

しかし

そのライターは何処に居るのかさえ分らない。

クリスや他のバンドメンバーが、もしそんな奴が居たら自分達にも書いてもらいたいと言っていた。

もちろん冗談だが。

しかし、この曲の作曲者は、ブレッド・アンダーソンではない。

世間では別の名前のライターが書いた事になっている。

では・・・

彼は・・・

やっぱり・・・

ゴーストライター。

その時だった。


「ジェイニー!!」

そこには奥から、パメラとブレッドが現れ立ちすくんでいた。

「ブレッド・・・お前がまさか・・・ゴーストライターだったなんて・・・。」

しかしブレッドは答えない。

突然の乱入者に驚きを隠せないと共に、ついに見付かってしまったのかという安堵感があった。

ブレッドは、フーッ・・・っと一呼吸すると、ジェイニーに向かって言った

「分かっちゃったか・・・。」

ブレッドの言葉にジェイニーは語気を荒くした。

「これは・・・!全部お前が書いたのかっ!?何でゴーストなんてやってるんだっ!」

「それは・・・パメラを守る為さ・・・」

ブレッドがジェイニーの瞳を見ながらユックリ言った。

「パメラを・・・守る!?」

ジェイニーがブレッドの言葉をなぞった。

「それは・・・どういう事だ?」

その時、パメラがジェイニーに向かって言葉を投げた。

「ジェイニーとりあえずシャワーを浴びて、このままじゃ風邪引いちゃうわ・・・」

「放っておいてくれ!パメラ!」

ジェイニーが突然パメラに向かって罵倒を吐いた。

あんなに謝ろうと考えていたパメラに

そして、ブレッドに向かってこう言った。

「俺を・・・ダシにしてたのか・・・?『デトロイトロックシティの残り香』も、お前にとっては単なる遊びでしかなかったのか?」

しかし、ブレッドは答えなかった。

只、ジェイニーの怒りに身を任せているだけだった。

「答えろよ!ブレッド!」

ジェイニーは濡れた手で、ブレッドのYシャツを掴んだ。

ブレッドは、されるがままになっていた。

それをパメラが止める。

「止めて!ジェイニー!その人を傷付けないで!全ては・・・全ては私が悪いんだから・・・!」

パメラが嗚咽する。

ブレッドは、そんなパメラを見るとユックリとジェイニーの腕を掴んだ。

そして自分の服から、ジェイニーの手をユックリ引き離すと泣いているパメラの元に行き、ユックリと抱き締めた。

そして、こう言った。

「ジェイニー、全てを話そう・・・。とりあえずシャワーを浴びて来てくれ。リビングで酒でも飲みながら、ユックリ話したい・・・。」

ブレッドは、そう言うとパメラを連れて屋敷へと戻って行った。

1人取り残されたジェイニーは、まだ興奮が収まらなかったが仕方なくシャワーを浴びる為に、わざとブレッドとパメラから遅れて屋敷に入って行った。

激しい雨は、少し小降りになっていた。

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