第5話 パメラ

次にジェイニーが目を覚ましたのは、事件があってから三日後の夜だった。

てっきり、病院で寝ていると思った彼が目覚めた場所は、いい匂いのする真っ白なベットだった。

「何処だ?ここは?」

そう思い、ユックリと起き上がるジェイニー。

途端に、『ズキン!』と頭が痛む。

何とも言えない激痛が彼を襲い思わず手で押さえると、頭には白い包帯が巻かれてあった。

頭を押さえながら、彼が周りの様子を見て見る。

豪華な調度品や、アンティーク調な家具が置かれており赤いレンガで作られた暖炉があった。

真っ白な壁のおよそ8畳くらいあるこの部屋は、どうやら人の家の中らしい。

俺は、この家の人に助けられたのだろうか。

しかも、ここは何処なのだろう・・・?

激痛にフラフラになりながらもジェイニーは、白いブランケットを体から剥がすとベッドの下に置いてあった、赤いスリッパを履き白いトルコ調のカーペットの上をゆっくりフラフラと歩き出す。

それから、静かにドアを開けて廊下へと出た。

2階の広い廊下には、小さなシャンデリアが一つ付いており中間色の灯りを灯していた。

壁には有名な高そうな絵画が飾られており、階段の近くの踊り場には赤や白のバラの花束が、フランス風の白い壺に綺麗に生けられ、茶色のレトロな作りの階段を降りれば玄関と応接間になっていた。

その階段の手すりの部分を右手で掴み、左手で頭を押さえながら弱弱しく階段をユックリ降りる。

ドアは明け放され、リビングの様子がよく見えた。

白い壁に、豪華なガラスの調度品がガラスケースの中に納まっており、たくさんの本と、たくさんの酒瓶が置かれてある。

酒瓶が並べてある手前には、茶色に塗られた木目調の細いバーにあるようなテーブルが置かれており、その上でカクテルを作るのか、沢山のシェイカーが置かれていた。

その側にあった黒い長いソファーに横になるジェイニー。

やっぱり、無理するんじゃなかったな・・・。

そんな風に考えていると手前の部屋から、いい匂いと共に、歌声が聞こえてきた。

誰か人がいる・・・。

やっとの思いで起き上がると、頭を押さえながらユックリと歩みを進めた。

つられるようにその部屋に入ると、そこはキッチンだった。

白い壁のおよそ10畳ほどある、そのキッチンには手前にクリーム色のテーブル。

同じ色の椅子が四つあり、テーブルクロスは白。

その上にはガラスの器に入っているサラダが置かれていた。

奥にはステンレスのダイニングキッチンがあり、そこに忙しく働く体が細く、若い女性がいた。

亜麻色の髪は束ねられ、白の袖がついているTシャツを着て、クリーム色のフレアスカートを履いている。

後ろ姿のエプロンの白と黒のコントラストのリボンがまた、スカートの可愛らしさを強調している。

オーブンからはジューシーな肉の香りが漂い、ガス台の上のシチュー鍋からは幸せそうな音をコトコトと出していた。

ジェイニーは、その音を聞きながら、しばらく茫然としていたが、やがて軽い眩暈を感じ、フラッとテーブルの椅子に倒れこんだ。

『ガタッ』と音がした拍子に女性が振り向く。

そして、ガス台の火を消すと足早にジェイニーの方へ行き、ユックリと抱き起した。

「ダメじゃない!まだ寝てなくちゃあっ!」

意識がかすむ中でジェイニーが見た女性は青い瞳をした、若く美しい女性だった。

歳は30代前半。

顔が丸顔の、どちらかと言うとチャーミングな女性だ。

彼は、ユックリと目を開けると、ハアーっと息を吐きながらユックリと話した。

「ここは、何処だ?」

「ここは、ブレッドの家よ。あなたは、私の夫の車と正面衝突し、出血多量になりそうになったところを、ブレッドの知り合いのジョシュアさんに助けてもらったの。そのまま、私の夫と一緒にジョシュアさんの車に乗せて、ブレッドの家まで運んできたのよ。私の夫は、掠り傷で済んだけど、あなた は思ったより傷が深くて・・・。この辺にはお医者さんもいなくて遠いところから、ブレッドの知り合いの医者に頼んで、わざわざ来てもらったの。安静にしてないとダメよ。だって、あなた頭に10針も縫う怪我をしたのだから・・・。」

10針・・・。どうりで頭が痛いわけだ、激痛を感じながらジェイニーは思った。

そうか、あの男は掠り傷で済んだか。よかった。あの時は本当に死ぬかと思ったからな。車も滅茶苦茶だったし・・・。車・・・。

「おいっ!俺の俺のっ!・・・ポルシェ!赤いっ!ポルシェはどうした!?」

ジェイニーが慌てたように立ち上がる。

が、激痛にすぐ頭を抱え込んだ。

「そら、見なさい。あなたは寝ていなきゃだめよ。さあ、私が手を貸すわ。」

そう言うが早いか、女はジェイニーの肩に手をかけた。

彼は、最初慌てたような素振りを見せたが、彼女の慣れたような手つきに次第にどうにもならないと思い、素直に彼女の肩に腕を回してキッチンを出た。

コトン、コトンと一歩づつ階段をユックリ上って部屋のドアを開け、女性がジェイニーの肩をそっと傾けてユックリと寝かした。

ジェイニーが横になって、フウ・・・と息をつくと、その女性はクスッと笑った。

それから、「ゆっくりお休みなさい。」

と一言いい、部屋を後にしようとドアを開けた。

すると、ジェイニーが「おいっ・・・」と声をかけた。

「俺の・・・俺の乗っていた、赤いポルシェはどうした?」

懇願するような、ジェイニーの目を見ながら女はニコッと笑い、そして答えた。

「安心して、あの車はあまりにも酷い壊れ方をしたから、ジョシュアさんが自分の家に持っていったわ。彼はガソリンスタンドを経営しているの。だから、そのてのことは彼に任せておいて大丈夫だと思うわ。」

「そうか・・・。」女性の言葉を聞き、ジェイニーに安堵の笑みが戻った。

その表情を、彼女はニコッと笑い更に言葉を続けた。

「あなたも心配なんかしないで、好きなだけここにいるといいわ。だって、あなたは私の夫の恩人なんだもの。怪我が治るまで2人で看病しようってブレッドと相談をしたの。だから安静にしていて、あとは私達が、何とかするから・・・。」

そう言い残し、女はドアを閉めようとした。

すると、またもやジェイニーが声をかけた。

「おい・・・。」

女性が気付いてまた、ドアを開ける。

するとジェイニーは、少し照れたような感じで小さな声で言った。

「あんたの名前を・・・まだ聞いていなかったから・・・。」

その一言に女性はクスッと笑うとウィンクをしながら、こう答えた。

「・・・パメラよ。よろしくね。あなたは?」

「ジェイニー。・・・ジェイニーて呼んでくれよ。」

「ジェイニーね。分かった。後で夕食を持ってくるわね。」

そう言うと、パメラはバタンとドアを閉めていった。

パメラか・・・。

なんだかいい人っぽいな、ポルシェのことまで面倒をかけちまって、悪いことしちまったなー。

そんなジェイニーに、途端に睡魔が襲ってきた。

安心したからだろうか。

それとも、思った以上に、疲れていたからだろうか。

とりあえずは、寝ることにしよう。

ジェイニーは、素直にその感覚に従い、ユックリと目を閉じた。





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