第6話 ブレッド・アンダーソン
あくる日の朝、ジェイニーが起きるとベッドの横に男性が座っていた。
その男性は、事故の時に見た茶髪の男性であった。
彼は、ジェイニーが起きるや否や、ジェイニーを抱きしめた。
「気が付いたんだね!よかった!」
突然のことに、驚くジェイニー。
「何するんだよ!!」
ジェイニーが男性を押し戻した。
途端に割れんばかりに頭が痛んだ。
「・・・!」
そんなジェイニーの様子を見た男性は、「ご・・・ごめん・・・。」と慌てたように呟いた。
そしてジェイニーを真っすぐ見据えると、こう言った。
「ありがとう。助けてくれてっ!」
男は顔に似合わず、やけに明るい性格だった。
「僕はブレッドアンダーソン。ちょっと買い物に出た途中に眠くなってしまって、ブレーキをかけるのが遅くなってしまい、それで君の車に突っ込んでしまったんだ・・・。本当に悪かったよ。保険会社と相談して僕が全面的に、君の車と怪我の面倒を見ることになったんだ。」
「それは・・・どうも・・・。」ジェイニーが呟く。
「本当にどうかしてたよ。普段はこんなヘマはしないのに・・・。でも、僕は少し嬉しいんだ。」
ブレッドがニヤリとする。
そして、ジェイニーの手をガシッと掴むとこう言った。
「久しぶりに僕と同じくらいの人が家に来た。君、何て名前なの?」
「ジェイニー。ジェイニーレインだけど・・・。」
「歳は?」
「24歳だけど?」
「僕は25歳。そっか1個違いだね。ジェイニー怪我が治るまで、家に居なよ?」
突然のことに驚くジェイニー。
「はあ?」
「そうだ。そうしよう。パメラもきっと喜ぶよ。」
「パメラって、あの美しい女性?」
「そう。パメラアンダーソン。僕の妻だよ。一番最初に見た、あの美しい女性だよ。」
「あんたの奥さん?」
「そう。いやーこれから楽しくなるなあ。こんな若い人が家に来てくれて。」
ブレッドは、満面の笑みだ。
本当に楽しそうである。
「ちょっと待てよ!」
ジェイニーが突然叫んだ。
「俺はこんなところでグズグズしている暇はないんだ。ニューヨークに行って有名なバンドに入って、スターになるのが俺の夢なんだから!それで今まで馬鹿にしていた連中を、見返してやるんだ!あ・・・痛て・・・。」
ジェイニーが頭を抱える。
それをブレッドが優しく制した。
「ほら、無理するから・・・。とにかくユックリ寝て体を癒した方がいいよ。そんなに急かなくても、ニューヨークは待ってくれるから。」
そう言い、ブレッドはジェイニーのブランケットを掛け直した。
渋々ながらまた横になるジェイニー。
そこへ、パメラが朝食を持って入ってきた。
「おはようジェイニー。あら、ブレッド居たの?」
「うん。もう、僕たち仲良しだよ。」
「勝手に決めつけるなっ!」
うろたえるジェイニー。
「うふふふ。もう、仲良しさんなのね。朝食ここに置いておくわね。」
コトッと、朝食をサイドテーブルに置く。
マフィンのいい香りが鼻に心地いい。
パメラはドアを開けて、ニコッと笑い
「ブレッド、あなたも朝食よ。下に降りてきて。」
そのまま、ウィンクして、パメラはドアを閉めた。
ブレッドは、パメラが行った後、またジェイニーに向き直り、
「食べさせてあげるよ!」
と、妙に慣れ慣れしくジェイニーに言い、朝食の1つの目玉焼きの皿を持ち上げた。
「やめろっ!」ジェイニーが嫌がる。
「何だよ、遠慮することないんだよ?頭痛いんだろう?」
「自分で食べるっ!!」
無邪気にはしゃぐ2人。はたから見ると、兄弟みたいだった。
それから数日して、ジェイニーの頭の怪我は、だいぶ良くなってきた。
しかし、奇妙なことにブレッドもパメラも、決してジェイニーを病院に行かせなかった。
必ず1日に1回、かかりつけの医師がやってきて、ジェイニーの頭の怪我を見てもらっていた。
ブレッドの家は金持ちに見えた。
かかりつけの医師を呼ぶなど、相当お金がいるだろう。
だが、見ず知らずの自分に何故ここまでやるのか?
事故を起こした張本人だから?
だとしてもそんなものは、示談金で済むことだろう。
ブレッドもパメラも、むしろ久しぶりに現れた訪問者を、とても歓迎しているように見えた。
特にブレッドは年が近いからか、とてもジェイニーを可愛がった。
しかし、ブレッドが仕事をしている姿は見ることはなかった。
普通のサラリーマンなら、朝早く起きて車に乗り仕事に行っているところだが、そんな素振りもないし、ただ時折、フラッと居なくなることはあったが、しかしそれは1週間に1、2度くらいであり、とても大金を稼げる回数ではなかった。
株か何かやっているのか?
それとも家賃収入?
ジェイニーの疑問は増えるばかりであった。
ある日ブレッドが、こんな提案をしてきた。
「音楽を作らないか?」
有名なバンドに入るとしても、手ぶらで行っては歯牙にもかけないと思ったのだという。
一理あるとジェイニーは思った。
しかし、
「ブレッド。ギター弾けるのかよ。」
訝し気に訪ねるジェイニー。
「まあ、多少はね。君には劣るけど。」
ニコッと笑うブレッド。
しばらくジェイニーは考えて、やがてこういった。
「しょうがねえなぁ。じゃあ。もう少しここにいてやるよ。」
こうしてジェイニーはしばらくアンダーソン家に逗留することになった。
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