第2話 裏サイド 死神Ⅱ

「さて、帰るか」


四月十日、桜が咲き誇る季節。

午前中で講義が終わり席から立ち上がる一人の青年がいた。


青年の名前は藤原黒都ふじわらくろと

黒髪黒目、身長百七十八センチ。年齢は二十。目つきが悪くまるで死んだような目。

スニーカーにズボン上はフードにファーが付いた黒いコートを着た心理学科専攻のどこにでもいそうな大学生だ。


机の上に出していた筆記用具やルーズリーフをリュックにしまい帰ろうと歩き出した。

校舎から出ると校内に埋められている満開の桜が視界に入る。

桜は風に吹かれひらひらと花弁を散らしていた。校内には他にも学生たちが行き来をしており、耳を澄ますと彼らから「お花見はどうだの」「場所はどこにする」などと話し合いが聞こえてくる。


(今年は桜の開花が少し遅かったからな。今ぐらいが丁度いいんだろう)


黒都は一人ただ真っ直ぐに正門まで向かう。

正門まで近づくと若干の人だかりが出来ていた。

一瞬、先程の様な花見の相談をしてるのかと思ったがそうではなかった。


「なああの子かわいくね」

「ああ、すっげー美人だな。それに胸もでっけー」

「お人形みたい」

「うん、綺麗~」


そう男女がそれぞれに言っていた。


「悪い。少し通るぞ」


話を聞いて少し思い当たることがあり人混みを掻き分けて前に出る。


ほっそりとした体つき。

亜麻色の艶やかな長い髪をポニーテールでまとめている。

肌は透き通るような白い肌、冷たく静かなおもざしに大きな瞳。

柔らかそうな唇。

文句のつけようがない美しい少女だった。


そんな美少女がどこかの高校の制服に身を包み、正門で誰かを待っている様子だった。


(明日は根堀り葉掘り聞かれるんだろうな)


内心明日の苦労を考えてため息をつくがこのまま突っ立ているわけにもいかないため、黒都は覚悟を決め声を掛ける。


「千咲」


声を掛けられた美少女―――坂崎千咲さかさきちさきは顔を上げ黒都に気が付いた。


「わざわざ迎えに来たのか?」

「いえ、今日は諸事情で午前中だけだったの。それに今日は買い物をしなければならなくて、頼めるかしら」

「ああ、なるほど」


確かに家に備蓄してある日用品がなくなっていたことを思い出し、合点がいった。

要は荷物を運ぶのを手伝って貰いたくてまっていたのだ。


「悪いな気づかなくて」

「別に謝ることではないわ。わたしがあなたに頼んでいるのだから」

「そうかじゃあ行くか。でないとそろそろ騒ぎ出しそうだからな」


始めは二人のやり取りを呆然と見ていたが段々と意識を現実に戻ってきており、口々に二人の関係性について考察し始めていた。


「えっあの二人どういう関係?」

「兄妹ってわけじゃなさそうだし。やっぱり恋人なのかな?」

「というか何であんな目の死んでるやつとあの美人ちゃんが仲良くしてんだよ。妬ましい」

「確かにいいよな~」


本格的に騒ぎ出したので黒都は千咲を連れてさっさとその場を離れる。


(まあ当然こうなるか。あと目が死んでるとか余計なお世話だ)


黒都は横を歩いてる千咲を見てさっき言われていたことを思い出す。


(恋人ねぇ、そんな簡単な関係じゃないんだよなぁ。俺と千咲の関係は)


そう、そんな簡単なものではないのだ。

この二人の関係性は簡単に表せるが内容が内容の為複雑になっている。矛盾しているようだがそんな関係なのだ。


(俺はを狩る為に存在する者、個体名称、グリムリーパー。千咲はその契約をかわした協力者)


黒都はその死んだような目で空中を見ながら明日の言い訳を考えながら一言愚痴を言った。


「一体、どう説明しろってんだ」

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