第4話

帰宅してから俺はなにもやる気が起きなかった……


いつもならすぐに執筆をはじめて、晩飯に呼ばれるまでずっとパソコンに向かっているのだが……


【大治郎】

「はぁ……このままじゃ……ダメだよな……」


負けん気になって作品の続きを打ち込み始めるが、ふとすると文章には彼女の姿が……


そこまで来ると、俺はようやく諦めて、テキストウインドウの×印をクリックした。


だけど、ふとするとまた、書かなければならないような気持ちが走り出して……


【大治郎】

「あれ? こんなの入ってたか!?」


放心状態でトップ画面を見つめていると、見知らぬアイコンがさも当たり前かのように居座っていた。


【大治郎】

「マノカ.exe……まさかこれって!?」


開いてみるとなにかテキストを打ち込むためのソフトのようだが、どう使えばいいのかわからない。


【大治郎】

「えっ!?」


白いバックグラウンドに黒い文字が静かに走り始めて目を疑った。


【大治郎】

「こんばんわ……って、もしかしてこれって!!

 本当にマノカか? 無事だったのか!?」


慌てて文字を書き込むと下の行に黒い文字が流れる。


【マノカ】

「そうやお、約束したとおりちゃんと会いに来たで」


【大治郎】

「えっ!」


背後から声をかけられて振り返ると、そこには上品な笑みを浮かべた彼女の姿が。


【大治郎】

「これは? どういう事だ!?」


【マノカ】

「昼に会った時となんも変わってないで?

 ここも電波が来とるで、

 ネットの中にスキャンされとるんや」


【大治郎】

「って事は、ウイルスが襲ってくるんじゃないか?」


【マノカ】

「あぁ、心配せんで大丈夫やお?

 ここはプライベートスペースやから、

 ちょっとやそっとの事じゃ入ってこうへん」


疲れたと言わんばかりに俺のベッドへと倒れ込むと、じゃれるように掛布団を抱きしめて転がり始めた。


【大治郎】

「いや、君がいる時点で呼び込んでる気がするが?」


【マノカ】

「もしかして、疑っとるん?

 別にウイルスはウチを狙っとるわけやないんや」


【大治郎】

「それなら、最初からここで会えば……」


【マノカ】

「そうやけど、その……ウチ、デートっていうの……

 してみたかったんや」


【大治郎】

「ネットなら離れている場所にアクセスできるだろ?

 パソコンを使って駅で会うとかそういう具合に」


【マノカ】

「……あぁ、なるほど! その手があったわ!!」


気づかなかったのかよ……


【マノカ】

「ええやん?

 ホンマにデートしとるみたいやったし……」


【マノカ】

「それに、こっからアクセスしたら歩かなかんのや?

 現実での時間は数秒とか数分程度やとしてもな」


【大治郎】

「伸びたり縮んだりする理論か……

 体育の授業1時間で1秒しか経ってなかったら、

 まさに地獄だな」


物書きにとっては天国かもしれないが……


いや、1時間で1日のデートが経験できるとするなら、やっぱり楽園だろうか?


【マノカ】

「パソコンからシステムに入ったらログ残るし、

 歩いとる最中、情報ごっちゃにが入ってくるで」


【マノカ】

「目が追い付かんくなるみたいに、

 メモリの寿命縮める事になるで?」


パソコンがぶっ壊れる可能性もあるという事か……


ハードディスクが飛んだらそれこそ終わりだ……


【大治郎】

「しかし、スマートフォンで会ったじゃないか?

 端末が進化してるとはいえ、パソコンより……」


【マノカ】

「あれは読み込み範囲が限定されとったでな?

 あの規模の駅と周辺の情報量やったら、

 スマホでもなんとかなるんよ?」


【マノカ】

「電池はありえんくらい早くなくなってまったけど」


だからか……となると、何度も会っていたら、その月の電気代がすごいことになりそうだ。


そういえば、叔母が似たような話をしてたな……


ネットで通話が出来るようになる前、電話ばかりしてたら携帯の料金がうんたらかんたらって……


【マノカ】

「それに、現実の大気中を漂う細菌とおんなじで、

 小さいやつはウヨウヨおるで?

 歩いてたらうっかりウイルス感染って事もある」


【マノカ】

「最近はセキュリティも進化しとるで、

 あんま感染したりはせんけど」


【大治郎】

「なるほどな、衛生への関心が高まって、

 病気が減った……現実とあまり変わらないのか」


【マノカ】

「ただ、あんな感じに悪意あるやつは、

 いろんなとこに攻撃する性質を持っとるんや」


【マノカ】

「漂ってるウイルスを吸収したり……

 入り込んだ先のデータ食べて持って帰ったり」


【マノカ】

「ウチもその一つやから、

 パブリックスペースにおると攻撃されるねん」


【大治郎】

「さっきから、プライベートスペースとか、

 パブリックスペースってなんなんだ?」


【マノカ】

「ざっくり言うと、やり取りする情報量の違いと、

 利用者が個人か集団かやね?

 この家と街中を想像してみ?」


なるほど、俺はこうして一人でいるわけだが、外に出れば多くの人間と接触する事になる。


【大治郎】

「今一つ想像に難いが、言わんとする事はわかる。

 この家はプライベートで、外がパブリックか……

 ネット上にもプライバシーがあると知って安心だ」


【マノカ】

「プライバシーはあらへんよ?

 ネットと接続されとる限り、

 玄関のドアは開けっぱみたいなもんや」


【マノカ】

「ただ、入るのに本人確認みたいなのが必要や。

 認証をごまかしたら入り放題やけど」


【大治郎】

「つまり、君がそれか……」


【マノカ】

「その通りや! これでも結構苦労したんやで。

 プライベートの場合パブリックに比べると、

 やり取りする情報量がちょっとやから」


【マノカ】

「断片的に情報入れたりして、

 侵入するのが難しかったりするんや!」


【大治郎】

「嬉しそうに笑うなよ……

 パブリックの方が簡単だっていうのか?」


【マノカ】

「せや、100人の中に狼男が1匹紛れとるとするやろ?

 1000人のうちの1人、1万人のうちの1人……」


【マノカ】

「いっくら警備を厳重にしても、

 紛れ込んでまう場合がある」


【大治郎】

「プライベートの場合は1人。

 多くても2人か3人だな……

 1人が本物なら、あとは偽物というわけか」


【マノカ】

「最近はセキュリティが進化しとるって言ったやろ?

 少人数で扱う情報量に相応しい警備が敷かれとる」


【マノカ】

「そやかて、企業になると多くの利用者がおる。

 なんとか課なんとか部の誰々ってな具合に。

 現実から入る方法だってあるんや」


【大治郎】

「テーマパークのゲートみたいだな。

 プログラミングって思ったよりも簡単なのか!?」


【マノカ】

「あくまで現実をトレースしとるから、

プログラムとはほとんど構造がちゃうねんで?

 言語の違いもあるし」


【大治郎】

「象形化しただけって事か……

 俺にも出来そうだと思ったがやめだ。

 そのあたりの知識はサッパリだからな」


【マノカ】

「プライベートは無駄に難しくていやや。

 このツールも放り込まなあかんかったし、

 通路も狭いし。ほんまえらかったわぁ……」


ベッドの上でだら~っと大の字の彼女を見ていると、侵入者だという事を忘れてしまいそうだ。


追い出そうという気はまるでないが。


【大治郎】

「文句ならクソみたいに細い回線を入れた父親に。

 それで、不正アクセス禁止法は?」


【マノカ】

「知っとるけど、プログラムに通用するん、それ?」


【大治郎】

「罰せられるとしたら作った人間か?」


【マノカ】

「やったら生みの親は死んでもうたから、

 大治郎が捕まるんやね?」


【大治郎】

「おい、なんでそうなる?」


【マノカ】

「大治郎は育ての親やん?

 それとも、ウチの事知らん顔するん?」


枕を抱えながらすねた表情を示すのを見るとついつい焦ってしまう。


【大治郎】

「い、いやそうじゃない!

 だいたい、育ての親ってどういう事だ?」


【マノカ】

「だって、ウチ大治郎の小説でこうなったんや?」


【大治郎】

「俺の小説で?

 プログラムが芸術の価値を判断できると!?」


芸術というのは言い過ぎだが、ニュアンスとしては間違っていないだろう。


【マノカ】

「うーん……ええ作品かはようわからんかったわ……

 そやかて、大治郎の小説は理屈っぽくて、

 プログラムみたいな部分が多いねん」


素人の書いた小説によって、プログラムが感情や個性を得たなんて……


世界的な勲章を授与されてもいいくらいの功績だろう。とは言っても、真偽は定かではないが、自分の作品がモチーフだなんていうのは正直喜ばしくない。


特に、自分の憧れていた者ならば、なおさらだ……


【マノカ】

「なーんや、辛気臭い顔しはって?

 ひょっとして、ショックやった!?」


とは言うものの、やはり目の前にいる少女は俺の理想そのものだ。


あの見知らぬ土地で目にしたその姿が、触れられる距離にある。


その髪の細くて淡い艶。一本一本糸をつむぐかの如く手に取って確かめたい。


おっとりとした顔つきに似合わない、色っぽい唇は、きっとそれなしでは生きられないほどの感触だろう。


すらりと伸びた首元の下、薄い皮膚に覆われた鎖骨と胸骨の明暗。くぼみに舌を走らせてみたい。


情熱的な赤色のワンピース。


白いドットからわずかに透けるブラジャーがとても扇情的で……


心臓を激しく鼓動させながら、悟られないように無表情を装って彼女を見つめる。


【マノカ】

「やっぱり、ショックなんやなぁ?」


可愛らしい顔を抱きしめていた枕に埋め、泣き出しそうに肩を震わせる。


あぁ……幻想的な風景が目の前にあるようだ……あの田舎にいた人々は、こんな言葉を使っていたっけ?


【大治郎】

「いや、ショックではない……だけど……」


慰める言葉が見つからない……どうすれば彼女を元気づけてあげられる?


【マノカ】

「だけど……なんや?」


【大治郎】

「もう君は、君自身だ……

 俺の小説がとか、もういらないんじゃないか?」


【マノカ】

「それで、いいん? ホントに?」


【大治郎】

「あぁそうだ……極力、面倒は見るつもりでいる。

 作者としての責任があるから」


【大治郎】

「だけど、授業とかテストじゃないんだ。

 これだからこうだと決めつける必要はない。

 90%なんだから、答えなんてないようなもんだ。」


【マノカ】

「ええんな、それで……はぁ……

 ホンマに大治郎は理屈っぽいわ……

 そやかて、そういうところ、めっちゃ好きやお!!」


ニコニコと明るい表情で枕を叩いたり顔を埋めたり、頭突きをかましたり。わざとか……


【大治郎】

「おい! ちょっと!!

 というか、枕! やめろって」


【マノカ】

「なんでや? 別にいいやん!?」


【大治郎】

「いや、つい最近洗ったばかりとはいえだな……

 ……臭くないか?」


【マノカ】

「えっ? クサイってなんやそれ?」


【大治郎】

「はっ? いやだってよ……」


【マノカ】

「だから、どういう事なんかわからへんって!」


【大治郎】

「……まさか!」


今更気がついた……いや、忘れていたというのが正しいだろうか? 


とにかく、彼女自身にリアリティを感じられなかった理由がようやく判明した。


【大治郎】

「ちょっと待ってろ?」


彼女を部屋に残して廊下に飛び出すと、飾ってあった青いバラのポプリを持ち出す。


【大治郎】

「これだよ、こういうのだ!」


ベッドに腰かける彼女の隣に座り、鼻の前に突き出す。怪訝な顔つきで嗅ぐがしかし、騙そうとしているとでも思ったのか疑いの視線を俺に向けた。


【マノカ】

「はっ? 全然わからへん……

 たしかに、ぎょーさんいいねが付きそうなくらい、

 綺麗やけど……」


【大治郎】

「今どきこんなものにいいねするヤツもいないだろ」


長く放置されていた所為で匂いが消えてしまったのかと思い嗅いでみると、俺はここが現実ではない事を思い出した。


しかし、どうしてだか甘いながらも凛とした香りが鼻腔をくすぐった。いや、結局のところ俺の錯覚でしかなかったらしく、すぐに消えてしまった。


【マノカ】

「なんやこれ? 鼻のあたりになんか……

 もしかして、これが匂いなんか?」


【大治郎】

「わかるのか?」


【マノカ】

「わかれへん! わかれへんけど、なんやろ……

 ずっと鼻を近づけてたい……いや、飽きたわ!!


【大治郎】

「飽きるの早いな!」


【マノカ】

「あっ……そやかて、なんやこれ……すんすん……」


彼女は俺の首元に鼻を近づけ嗅ぎ始めた。


【大治郎】

「ちょっと、くすぐったい! やめろ!!」


【マノカ】

「なんやこれ? わかる、わかるで……

 これが、大治郎の匂いなん?」


夢中で嗅ぐ彼女の頭部からわずかながら、甘く凛としたポプリの香りが漂う。


きっと、ポプリの香りを取り込んで自分の匂いに設定したんだろう。


とても愛おしくてドキドキするのに心が落ち着く。


【マノカ】

「そうや……もしかして、触れてる……

 ウチ、大治郎に触れとるんや!

 首筋めっちゃあったかいやん!」


おっかなびっくりといった様子で、ふわりとした細い指先がいやらしくなぞるように、俺の首筋に触れ、彼女のぬくもりが伝わってくる。


【大治郎】

「わかるのか? いや、俺にもわかる……

 前はこんなんじゃなかったのに……」


駅前で彼女が俺に触れた時、人間らしいぬくもりややわらかさは感じなかった。


なのに今は違う。彼女の吐息が吹きかかる生あたたかさとか、胸が肩にあたる感触とか……


指先で、手で、肌で、互いを感じるたび、マノカは楽しそうに笑ったり、困った顔で眉間にシワを寄せたり、退屈そうに唇を尖らせたりしている。


声も今までより快活だったり、時々切なそうだったり、物足りなそうだったり……


【マノカ】

「な、なぁ……大治郎?」


逡巡した様子でモジモジとしながら頬を赤らめ、上目遣いに俺を見つめる。


【大治郎】

「……なんだ?」


【マノカ】

「あ、あんなぁ……う、ウチ……

 その……大治郎って色んな小説書いてたやん?」


【大治郎】

「そうだな……ジャンルに制限は設けてない」


【マノカ】

「えぇ~っとぉ……なぁ……男女の恋愛とかも……

 書いてたやん? そやから……あぁっ!

 あかん、あかんて……そんなん言われへん!!」


【大治郎】

「どうしたんだよ!?」


【マノカ】

「そんなん言わせんといて!

 言わへんで、絶対に言わへんで!!」


顔から火が出そうとはこの状況を意味するのか?


なにが彼女をそうさせているのかはわからない。


【大治郎】

「いや、なんだよ?」


手のひらに隠されたその裏でブツブツと独り言をこぼしているが、チラリと俺を窺う。


【マノカ】

「……せ、せや、ウチと大治郎は恋人設定……

 いや恋人同士なんや……ええやん……

 いや、でもあかん!」


【マノカ】

「言わん、言わん、言わんったら言わん……

 言ったら死んでまう!!」


自分でツッコミを入れるような要領で大声をあげながら悶えている。


しかし、今の一言で彼女がなにを言おうとしているのか察した俺は、思わず桃色の唇へ視線を注いだ。


【大治郎】

「……あぁ、そうか……つまり、キ――」


【マノカ】

「クラゲってクラゲのクセに木の幹に住んでるって、

 ホンマなん!?」


なるほど……確かに正直度は90%に設定されているようだ……適当な事を言ってごまかそうとしている。


【大治郎】

「……そうじゃなくて、チュー――」


【マノカ】

「リップの花言葉って思いやりなんやで!」


【大二郎】

「あぁ、色によってそれぞれあるようだな……」

 それで、昔の言葉でいうなら、せ――」


【マノカ】

「つぶんに豆まきっておもろそうやで、

 ウチやってみたいわ!」


なるほど、俺もネット辞書に頼る事は多い。しかし、彼女はそれそのもの。


【大治郎】

「ドラマチックに言えば、くちづ――」


【マノカ】

「さむって言うわりに鼻歌っておかしいやんな!!」


【大治郎】

「……残念だったな口ずさむが正しい。

 づを使うのは誤りだ」


俺も執筆初期の頃はやらかしてた経験がある……


【マノカ】

「はぁ!? ほとんど違いないやん!

 ブとヴの違いくらいに、

 発音しっかりしてくれんとわからへん!!」


彼女の言わんとする事はわからんでもない。ジとヂの違いとかもあるし……この国の言葉はこれだから難しいと評価されるんだ。


それこそが面白いんだと思うが、文学者や言語学者ぶっているとか偉そうと非難を浴びそうなので、表現が豊かだとだけ俺は言う。


【大治郎】

「じゃあ、言わなくていいし、俺も言わない……」


ベッドにあおむけになって瞼を閉じると、俺は暗闇の中で彼女を待った。


しばらく、膝のあたりでモジモジと揺れていたが、痺れを切らしたらしくその吐息が近づいてくる。


異常に長い時間が過ぎたように思え、息が苦しくて、心臓が止まるかと思った。胸の詰まる感じから早く解放して欲しいと言いたかった。


が、彼女はなかなかやってこない。顔を舐めるかのように吐息が耳元に近づき、匂いを嗅いでいるばかり。生殺しの状況に精神が崩壊しそうだった。


【マノカ】

「なぁ大治郎……寝てるん?」


首筋を嗅ぐくすぐったさに思わず笑いそうになったが、彼女が望みをかなえやすくするために、眠ったフリを貫き通す。


【マノカ】

「なぁ? ホントは起きてるんやろ!?」


我慢……我慢だ……胸がふわりと俺の腕を包むやわらかさがあっても、甘く生あたたかい吐息があっても、心地の良い香りがあっても……


【マノカ】

「あ~ぁ……ホンマに寝てもうたんか……

 そんなら……なにしても文句言わへんなぁ……

 いたずらしたるでぇ……」


わざとらしい棒読みで了解を得ると、湿り気を帯びた吐息が唇に触れる。


【マノカ】

「ちゅっ……ちゅっ……はぁ……ちゅっちゅっ、

 ちゅるるっ……なんやこれ……ここが、変や……」


【マノカ】

「んぷちゅっ、ぢゅちゅっ……気持ちいい……

 ぢゅるっちゅぴっ……はぁはぁ、これ……好き」


閉ざされた視界の中で、プリプリとした唇が弾む心地だけがあり、一生味わっても足りないほどの快感に満たされる。


初めてとは思えないほど大胆で情熱的な口づけ。しかし、わずかに恥ずかしさを含んだ浅く軽やかなキスを何度も何度も繰り返す。


【マノカ】

「ちゅるるるっ……ぴちゅっちゅっ……むはぁ……

 大治郎……この辺……ムズムズして……」


【マノカ】

「はぁ……好きや……大治郎、めっちゃ好きやお。

 ちゅっちゅっ……アカン……もう、我慢できひん」


熱を帯びた唇が絡みつき、俺の口をこじ開けると彼女の舌が滑り込んでくる。


ヌメリヌメリと熱く控えめなディープキスを味わうと、この世が終わっても悔いはないような気分にさえなってくる。


【マノカ】

「れろっ……ぢゅるっ……ちゅぴっ……むはぁ……

 めっちゃ気持ちええ……大治郎の味、濃すぎや……

 ウチ、ヘンになってまうわ……ちゅっちゅっ……」


【マノカ】

「はぁはぁ……ふふっ、大治郎はウチだけのや!」


濃厚なファーストキスを堪能した彼女は、満足そうに笑うと小さな手のひらで俺の体を撫でる。


【マノカ】

「まだ寝てるんかい……やったら……

 やっぱ、なにしても……

 って! あっ、アカン!!」


彼女が焦った声を上げた刹那、俺は瞼を開いた。


しかし、目の前に彼女の姿はなく、白い天井があるばかりで、他には機械がショートした焦げ臭さが部屋に充満しているだけ。


さすがに、家庭用のコンピューターではこの程度が限度らしい……


火が出たのは彼女の顔からではなく、俺のパソコンからだった……

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