第三章 光あふれる世界へ
第29話 疾走する自動人形
砂漠の中を膨大な砂煙を巻き上げながら、黄金色の残像を残しつつ疾走する二つの影。一人は黒服に赤いネクタイの男性、ブライアン・ブレイズ。もう一人はエプロンドレスをまとった金属製の自動人形セシルだった。
「ブレイズ様の次元昇華走法、お見事です」
「私に付いてこられるとは、セシル様もただ者ではありませんね」
「急ぎましょう。ジャンプしますよ」
「了解」
セシルの纏う黄金色のオーラがひときわ強く輝き、彼女は一気に数千メートルの距離を跳躍した。ブライアン・ブレイズも彼女の後を追って跳躍する。
着地の後も二人は走り続ける。時に、光の速度をも超えて。
「しかしセシル様。何故、シルヴェーヌ姫は千年もの間そのままの姿で放置されていたのですか?」
「それはね。あの子がそう望んだからなの。千年前に起こったパルティア王都攻防戦に、私たち三姉妹は参戦しました」
「その辺りの事情は存じております」
「公式記録によれば私は死亡。リリアーヌは行方不明。シルヴェーヌだけが生き残った事になっています。これは正確ではありませんが、概ね事実です」
「はい」
「彼女は自分だけが生き残った事を酷く後悔し、自分を罰する道を自ら選びました。私たちは彼女を救おうと説得したのですが受け入れてもらえず、いつの間にか千年の時が過ぎてしまったのです」
「生きている事を喜べなかったとは非常に残念です。幸運であるはずなのに」
「その通りです。シルヴェーヌと一番親しかったリリアーヌは、彼女の霊力を全て鋼鉄人形に捧げました。彼女のおかげで我がパルティア王国は何とか勝利する事が出来たのです」
「リリアーヌ姫は行方不明だったのでは」
「そう言う事になっていますが、実際は違います。彼女は、リリアは霊力を全て鋼鉄人形に捧げた。そして、当時、鋼鉄人形の中核を構成していた意識体ローゼと一体化したのです」
「疑似霊魂と?」
「鋼鉄人形の中核は疑似霊魂と言われていますね。でも彼女、ローゼは疑似霊魂ではありませんでした。過去において、鋼鉄人形に霊力を全て捧げ命を落とした少女です」
「そんな事が……」
「あったようです。帝国にも色々な裏事情があるようですね。ともあれ、霊力を消費し尽くしたリリアは悪魔のような姿となって、鋼鉄人形の中核部分に引き込まれた。これは、鋼鉄人形がリリアを保護したと考えた方が妥当です」
「魂が消滅しないようにですか?」
「そう。鋼鉄人形の中核にいた少女ローゼも同じように鋼鉄人形に保護されたものだと理解しています」
「鋼鉄人形にそのような機能があったとは知りませんでした」
「設計者が意図していた機能なのかどうかはわかりませんが」
「ふむ。前方に黒煙。広範囲で火災が発生している模様」
「少し速度を緩めましょう」
セシルとブライアンが歩を停めた。ブライアンが振り返り、背後に立ち上った砂煙を見つめてため息をつく。
「砂漠地帯を走ると、盛大な砂煙を巻き上げますな。位置が丸わかりだ」
「隠密行動が難しいですねえ。近くに帝国軍部隊が展開していませんか?」
「鋼鉄人形の回収部隊がいるはずですが」
ブライアンは懐から端末を取り出し何かを探している。
「いた。鋼鉄人形と戦車の混成部隊だ。10時の方向、約25キロ」
「もうひとっ走りしますよ」
「了解」
砂塵を巻き上げながら再び走り始めた自動人形セシル。ブライアン・ブレイズもまた、彼女を追い走り始める。
彼女達の目的は、暴走しかけている鋼鉄人形ロクセ・ファランクスを停止させ、その機体に搭乗している二名の少女を救出する事である。その為、付近に派遣されていたアルマ帝国の鋼鉄人形回収部隊と接触しようとしていたのだ。
さらにその付近には、鋼鉄人形ロクセ・ファランクスを戦力化しようとしていたシュバル共和国軍と、旧パルティア王国を復活させようと企んでいるパルチザン部隊も戦力を集中させていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます