第28話 自動人形セシル
「凄惨な光景だ」
「ごもっともです。バーンスタイン閣下」
「ドールマスターはどうなったのだ?」
「ケヴィン・バーナード大尉は鋼鉄人形で出撃するも戦死。また、ベルタ・フランツ中尉は王宮内で待機中に戦死されました」
「ふむ。試験部隊のグリーク卿は?」
「地下の施設に退避されていたのでご無事でした」
「奴は満足だろうな。良い実験ができたと」
「それは……わかりませぬ」
「まあ良い。それでな、クロイツ大尉。お前の意見はよくわかった。鋼鉄人形は戦闘による霊力消費の為に操縦士が命を落とす。それを改良しようというのだな」
「はい。そうでございます。此度の、リリアーヌ姫のような悲劇を二度と繰り返してはいけません」
「わかった。予算の件は気にするな。儂が無理にでも通そう」
「ありがとうございます」
「ところで、シルヴェーヌ姫はどうなっておるのか」
「それが……説明が難しいのですが……こちらへ」
狐の獣人、アドラ・クロイツ大尉に導かれ、金髪の偉丈夫であるセオリア・バーンスタイン少将が擱座した鋼鉄人形の前へ訪れた。
「シルヴェーヌ姫は自分だけが生き残った事を酷く悔いておられます」
「だろうな」
「そして、自ら時間凍結結界を展開されその中に閉じこもられました」
「時間凍結結界だと」
「我々も経験のない事ですが、恐らくそうであると。その結界内では時間が経過しない。千年が一日ほどになろうかと」
「そのような結界を姫自ら?」
「現実逃避の為、無意識に閉じこもられたのだと思われます」
「救出は可能か?」
「可能ですが、姫ご自身の意思を尊重するのであれば」
「そのままにしておけと?」
「はい」
金髪の偉丈夫、バーンスタイン少将は眉を顰め鋼鉄人形ロクセを見つめる。その脇で狐の獣人、クロイツ大尉は顔を背けて瞑目した。
「パルティアの民に任せるしかないか」
「そのように存じます」
「一応、監視体制は敷いておけ。何かあれば強制的に救助する」
「了解しました」
「その役目、私にお命じ下さい」
バーンスタイン少将とクロイツ大尉は驚愕しつつ後ろを振り向いた。そこに立っていたのは金属製の自動人形だった。
「お前は?」
「少将、この方はセシリアーナ姫でございます」
「何だと? まさか?」
「そのまさかでございます」
信じられないと言った表情のバーンスタイン少将であったが、狐獣人のクロイツ大尉は彼女に深々と頭を下げていた。
「大尉、頭をお上げください。この度は損傷した肉体に変わり、新しい筐体を用意していただきありがとうございます」
「いえ、どういたしまして。ところでセシリアーナ姫、応急であったとはいえ、そのような金属製のお身体でよろしかったのでしょうか?」
「問題ありません。妹たちの苦悩を想うなら、私の体など些細な事です」
「そうだったのですね。しかし、パルティアの姫君にそのような仕事をさせる訳にはいかないのですが」
「バーンスタイン閣下。パルティアの第一王女セシリアーナは、先の王都攻防戦において戦死いたしました。私は自動人形のセシルです」
バーンスタイン少将はしばし口を閉じたまま瞑目し、そして自動人形を見つめる。
「では、自動人形セシルに命じます。この、鋼鉄人形ロクセ・ファランクスの監視をしなさい。そして、中に閉じ込められている姫様に何かあれば、直ぐに救助なさい」
「かしこまりました」
バーンスタイン少将とセシルが固く握手を交わす。狐獣人のクロイツ大尉は、唯々セシルに対し深く頭を下げていた。
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