第17話 帝国からの軍事援助

「例の方をこちらへ」

「かしこまりました」


 ジャネットが誰か他の者を講堂に呼び入れた。それは、身の丈が2メートル以上もある大男と小柄な女だった。二人はえんじ色の軍服を着ているのだが、獣のような、毛むくじゃらの顔をしていた。灰色の毛に覆われた男の顔はまるで狼だったし、白い毛の女の方はまるで兎だ。二人共、手の形は人と同じなのだが、それは顔と同じ色の毛に覆われていた。


 男はケヴィン・バーナード、女はベルタ・フランツと名乗った。アルマ帝国から派遣されたドールマスターだという。


「我々アルマ帝国とパルティア王国は古くから親交があります。此度、帝国ではパルティアが危機的状況にあると認識し、軍事支援の一環として鋼鉄人形を貸与する事となりました」

「本来ならば霊能力を駆使できるドールマスターが搭乗すべきなのですが、パルティア王国には該当する能力者が存在しません。そこで、パルティアの歌姫、精霊の歌姫を二名搭乗させることで、鋼鉄人形を稼働させるプランを検討する事としました」


 鋼鉄人形とは、アルマ帝国の決戦兵器なのだという。その力は搭乗者の、ドールマスターの霊力と比例する。上位のドールマスターが操る鋼鉄人形は、私たちパルティア王国などの一国の兵力に匹敵するらしい。


「とはいうものの、相手が宇宙軍であれば一筋縄ではいかぬものなのですが、宇宙軍からの直接攻撃は星間連合法に違反します。なので、連中もおおっぴらに軍事行動を起こすわけにはいかないのです。あくまでも軍事支援という形式を守る必要があります」

「私たちも、親交のある国が一方的な侵略を受ける事を阻止したいのです。そこで、鋼鉄人形の供与という形での軍事援助をいたします」

「先に申し上げた通り、鋼鉄人形は一国の兵力に匹敵します。故に鋼鉄人形の存在は大きな抑止力として作用します」


 狼男と兎女が交互に説明をする。要するに、一体で一国に匹敵するという強力な兵器をパルティアに置く事で抑止力とし、開戦を阻止しようとしているという話なのか。


「アルマ帝国のお二方。王国防衛のためにご協力をいただき感謝いたします。そこで私たちパルティア王国は、王女二名をその搭乗者として選出いたしました。リリアーヌ姫とシルヴェーヌ姫でございます。もちろん、ヨキ大王のご推挙となります」


 そういう話だったのか。いくら素質があると言っても、経験不足の私たち姉妹が精霊の歌姫として活躍できるとは思っていなかった。もちろん、異国の強力な兵器を扱う事も同様だ。上手く扱えるはずはない。突っ立っているだけで抑止力となるならそれでもかまわないと思う。それにしても、よく父上がこの事を承認したものだ。そして私たちは、この話を今はじめて聞かされた。


「リリアーヌ姫とシルヴェーヌ姫。よくご決断されました。鋼鉄人形の扱いに関しては、私たちが親切丁寧にご指導いたします」

「何も心配はいりません。鋼鉄人形は意志の力で動きます。御国を守りたいというその強い想いがあれば鋼鉄人形はそれに応えてくれるのです」


 いつの間にか私たちが決断した事になってる。何かが怪しい。シルヴェーヌを見たら、案の定、鳩が豆鉄砲を食ったようなぽかんとした表情をしていた。


「あなた方の尊い決断に、ヨキ大王もお喜びですよ」


 ジャネット・ロジェの言葉に疑念が沸く。父上が喜んでいるなどあろうはずがないのだ。何かが違う。きっと父上も私たちも騙されているんだ。もしかすると、目の前にいるジャネット・ロジェもそうかもしれない。


 何か言いたげなシルヴェーヌに目配せした。黙ってろってサインだが、聡い彼女はそれを理解したようだ。軽く頷いてくれた。


「私たちの決断に父王もお喜びとの事。非常に光栄です。しかし、私たちは何をすればよろしいのでしょうか?」

「ええっと?」


 ジャネット・ロジェは私の質問に答えられない。具体的な事は彼女も知らないってことだ。


「大丈夫ですよ。鋼鉄人形と意識をつなぐ必要がありますが、非常に簡単です。私たちにお任せください」

「痛い事、辛い事など何もありません」


 狼男と兎女が返事をした。アルマ帝国から来たという二人の獣人だ。宇宙には様々な形態の人がいると聞いていたのだが、こういった獣人タイプの人間もいるのか。初めて見たが、見た目以外は我々パルティアの人と変わらない気がする。


「さあさあ、食事の用意ができております。先ずはアルマ帝国の方々との親交を深めましょう。難しい話はその後で。いいですね。リリアーヌ姫」

「わかりました」


 二人の使用人、アンナとグレイスが私たちを呼びに来た。彼女達に導かれ、狼男と兎女は外へと出ていく。それにジャネットが続き私たち姉妹も続いた。


 講堂の脇、花壇の傍に丸い大きなテーブルがセットされ、そこには既に料理が並べられていた。私たちはそのまま席に着いた。


 何が何やらわからぬまま、異国の強力な兵器に搭乗させられる事となったわけだ。現状、我が国は他国からの軍事侵攻に晒されている危険な状態だ。しかも、宇宙から機械兵器を供与された敵国、キリジリア公国を相手にしなくてはいけない。前途多難という言葉しか思いつかない。


 その時、空で何かが光った。私は空を見上げ、その方向を見つめる。

 すると、何かが輝きながらこちらへと向かってきていた。


「あれは何!」


 私は空を指さして叫んでいた。アルマ帝国から来た二人の獣人も私と共に空を見つめる。


「不味い、奇襲だ」

「衛星高度からの攻撃よ。戦闘機を降下させてる」

「違法行為だ」

「でも、黙らせてしまえば関係ないって話なんじゃないの」


 幾つもの光点が王都上空を飛び回っている。そしてその中の数機が私たちのいる王宮上空へと飛んできた。銀色で三角形。あれが宇宙から飛んできた戦闘機なの?


 戦闘機が放つ眩い光線が地上を穿つ。そこでは爆炎が吹き上がった。今まさに、王宮が攻撃されているのだ。


 その三角形の戦闘機は黒い円筒形のものを落とした。


「不味い。皆さん伏せて」

「グズグズするな」


 私は狼男に押し倒され、シルヴェーヌには兎女が覆いかぶさっていた。ものすごい爆発音と衝撃に見舞われ、私は意識を失ってしまった。

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